人気作家とゴーストライターの葛藤を描くフジテレビ「ゴーストライター」の最終回に注目
メディアゴン / 2015年3月16日 2時32分
水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]
* * *
フジテレビ火曜日のドラマ「ゴーストライター」は、人気作家役の遠野リサを演じる中谷美紀と、ゴーストライターを引き受ける作家志望の川原由樹を演じる水川あさみによる創作者の苦しみを描いた心理劇だ。すべてのクリエイターに襲いかかるテーマともいえる。
やっぱり出たか、の感はあるが、2014年に起きた実際の作曲家ゴーストライター事件とはストーリー上の関係はみられない。同局系列「僕の生きる道」(2003・草彅剛 主演)などの橋部敦子が脚本。
人気作家の遠野リサ(中谷)は、母が重い認知症を患い、息子とは断絶。作家としての名声を手に入れたときに、それをともに祝う家族はいなかった。さらに作家としての壁にぶつかり、作品が書けないでいた。そこへ作家志望の川原由樹(水川)がアシスタントとしてやってくる。
由樹が忙しいリサのことを思って勝手に書いた追悼文を、担当編集者の神崎(田中哲司)は「リサの文章」として使ってしまう。誰もそれほどの悪意のないところから事件が始まる。歴史とはそうやって転がり始めるものなのだろう。
やがて名前こそ出ないが自分の文章が大勢の読者に読まれ称賛されるという誘惑に勝てず、ついにはリサに代わって丸ごと原稿を書くようになる。
はじめはリサが由樹を利用する関係であったが、しだいに由樹なしでは動けなくなり、両者の関係は逆転する。原稿を渡そうとしない由樹に、リサは土下座をして原稿を渡してくださいと懇願する。
自信をつけた由樹は、婚約者とも別れ、自分の名前で小説「二番目の私」を出版する。が、無名の作家の本はほとんど売れなかった。一方、由樹がゴーストライターとして書いた遠野リサの小説「エターナルレシピ」はベストセラーとなり映画化される。
このような状態がいつまでも続くはずがないと悟ったリサは作家を引退することを決意する。由樹はゴーストライターの職もお払い箱になり、何もかも失う。
作家引退の発表の場となるはずだった映画の完成披露試写会の席上、由樹は、つかつかと壇上に登り、原作小説が自分が書いたものであることを暴露する。会場は大騒ぎになるが、翌日、出版社の力で騒動は一切報道されず、由樹の反逆は抹殺される。由樹は裁判まで起こすが、かえって自分が精神的に病んでいたことにされ、敗訴する。
事態は思わぬところから展開する。リサに忠実な秘書の美鈴がエレベーターから降りてきた由樹を後ろから刺したのだ。が、刺した相手は実はリサだった。
自業自得と自嘲するリサの中で何かが変わり、ある行動に出る。それは「真実の告白」であった。記者会見を開き、ゴーストライターを使っていたことを告白し懺悔する。執筆活動から解放され、これを機に少しずつ少しずつ母や息子との時間を取り戻していくリサ。
一方、由樹は、やむなくゴーストライターを引き受けた作家の卵として注目を浴びる。リサの本を出版していた駿峰社は、今後は由樹の知名度を利用して売り出していく。こうして由樹は念願だった人気作家への道を歩み始める。
ところが、今度は由樹が面白い作品を書けなくなる。襲いくるプレッシャーとあせり。ついこないだまで遠野リサがもがいていた世界だ。加えて、いつまでもついて回る「元ゴーストライター」の肩書にも苦しむ。
第9話。プレッシャーから解放されたリサは、かつてのライバル作家の向井七恵(山本未来)から、「そろそろ溢れてくる頃ね」と言われる。一度文壇から消えて長いブランクの後に復活した七恵のリサに向ける表情は優しかった。
帰宅したリサは、溢れ出す言葉を猛烈にワープロで打ち込み始める。そして小説「私の愛しい人」を完成させて峻峰社に持ち込む。が、もはやリサの小説を出版してくれる出版社はなかった。
会いたいと電話してきた由樹に、リサは由樹が書けなくなっていることを見通し、別れ際、「あげる」と小説のデータの入ったメモリースティックを渡す。
どうせ出版されないなら何のために書いたのかと問う由樹に、リサは答える。
「苦しくて仕方がないから書くのよ。」
そう言って去っていくリサは、再び次の作品を書き始める。一方、リサからもらったデータを開いた由樹は、無表情で作者名を「遠野リサ」から「川原由樹」に書き換える。
最終回、ともに手負いの女獅子(めじし)となった二つの才能に救いは来るのだろうか。
(注:このコラムはゴーストライターにより書かれたものではありません。)
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