<追悼・桂米朝>個性あふれる米朝一門から次の上方落語界をけん引する落語家たち
メディアゴン / 2015年3月23日 0時24分
齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]
* * *
桂米朝師匠の訃報に接して、さすがに心穏やかではない。CDで聞き始めてはまってしまい、とりわけハメモノ(音曲)の入るいかにも賑やかな「三十石」は川沿いの風景が目の前に浮かんできて大好きだった。
その端正でわかりやすい、確かな口演もさることながら、落語・寄席研究家の正岡容(まさおか いるる・1904〜1958)に弟子入りしたほどの豊富な落語に関する学芸的な知識、くどすぎず、嫌みのない適確なマクラ、評論家はだしの論理、そして人情話の機微、音曲(ハメモノ)との間合い、広く上方落語会を見渡す視野の広さ、着物姿や受け答えのダンディさなど、どれをとっても、そうそういない素敵な落語家だった。
弟子の数も、そのバリエーションも豊富だ。総領弟子のざこばさんをはじめ、やたけたな博徒でありながら米朝譲りの確かな口跡の月亭可朝さん、爆笑王で師匠をしのぐ勢いだった枝雀さん、本格派の吉朝さん、そして実の息子の米團治さんまで、お弟子さんのふり幅の広さは、そのまま米朝さんの多面体のどこか一部分を受け継いでいるような気がする。
(立川談春さんは、何かの対談の折、談志さんの手土産の酒があまりよくなかったことに米朝師匠が腹を立て、酔っぱらいつつ文句を言うさまがざこば師匠に一瞬見えたという。そんなエピソードもなかなか楽しい)
米朝師匠は、戦後、絶えかけていた上方落語を復活させ、江戸落語のいくつかも上方風に変えて移植するなどの功績の一方で、サンケイブリーゼを牙城に一門会や独演会など、上方でホール落語を定着させもした。
大阪の正統派の「船場言葉」といわれるとさすがにわからないが、言葉の端正さは口演の嫌みのなさから伝わる。大阪と聞くと、なにやら騒がしい言葉を連想するが、米朝さんの口演からは古き良き人情のあふれる大阪というイメージが、わからないなりにも伝わってきた。
小松左京の芸道シリーズの小説は米朝さんの「たちきり」がそのままモチーフになっている。また、「地獄八景亡者戯」や悪人の活躍する「算段の平兵衛」など、一筋縄ではいかない演目も復活させて持ちネタとしていた。
そんな米朝師匠の「学芸的な側面」を継ぐのは誰だろうと見回してみると、吉朝門下から米朝門下に移った桂吉坊あたりか。まだまだ小粒で、おぼっちゃま風の外観から本格派のイメージがなく、まだ物足りないが、達者なところは吉朝、米朝門下の所以。
横浜の小劇場で、柳家喬太郎とともに挑んだ通向けの企画「NIPPON文学縛りのシリーズでは、米朝の新作落語を復活上演したり、川上弘美の短編小説を新作落語にするなどセンスの良さ、芸能オタクらしさが光っていた。
今後は、この個性あふれる米朝一門から、次の上方落語界をけん引する落語家も出てくるのだろう。まだ線の細いところのある米團治さんも、横浜の寄席での一門会では、米朝一門で最初に習う「東の旅」から前座にはじめ口演させ、上方落語と江戸落語の違いも交えながら上手に高座を務めていた。
西のプリンス・米團治さんの高座は、米朝師匠の思い出話を聞きたさにかけつけるファンも多かろうと思いつつ、ここは師匠亡き後、一段の飛躍を期待したいところ。
そして、しばらくは、一語一句口演の速記の解説冊子のついた米朝さんのCDから大好きな「三十石」を聞くことにする。合掌。
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