<テレビ制作者のデリカシー>番組途中の「提供画面」でちょっとがっかりしませんか?
メディアゴン / 2015年3月24日 3時45分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
テレビを見ていて、「提供画面でちょっとがっかり」っていうことありませんか?
テレビ番組の冒頭、本編に入る前に番組内容を短くダイジェストした下りを「アヴァンタイトル」と言います。多くは映画の予告編のように、できるだけインパクトのある映像と音をフラッシュのように編集し、視聴者を番組に引き込む「つかみ」の一手です。
昔からこの手法はテレビの常識で、ストーリーが大事なドラマでも多用されています。映画館で観る映画なら冒頭がどんなに静かでも金を払ったお客は帰りません。
ところがテレビは一瞬一瞬でお客(=視聴者)は逃げて行き、その瞬間、瞬間に視聴率が上がったり下がったりします。視聴率獲得「いろは」の「い」は食いつき第一。まずは食いつかせ、食いついたお客の脳裏に先々がオモシロイことをたたき込んで、けっして逃げられないようにしなければなりません。
当然ながら筆者自身もアヴァンタイトルを多用してきました。しかし、番組の中盤や終盤に出てくる大事なシーンをチラ見せしてしまうこの手法には、いつも少しだけ忸怩たる思いがつきまといました。冒頭から手の内を明かしてしまう分だけ展開の面白味が削がれるような気がしていたからです。
番組冒頭に番組ダイジェストのようなアヴァンタイトルを視せなくても、視聴者の心を鷲づかみにできるようなインパクトの強い手法はないか、といつも考えるのですが、結局そんないい手は見つからずアヴァンに戻るということが何度も何度もありました。おそらくテレビ番組制作者の多くの方が同じ思いをされていると思います。
最近は冒頭だけでなく番組中盤の「提供画面」でも同じような手法が採られるようになりました。「提供画面」とは「この番組は○○の提供でお送りします」などというアナウンスの入る画面のことです。
以前は提供スポンサー名がスーパーされるだけだったのですが、やがて他の文字情報を入れることがOKになり、後半への惹句コピーがスーパーされ、そのベース画面はアヴァンタイトルのように後半のハイライトシーンがフラッシュのように編集された画面となることが多いようです。
もうひとつ、テレビ番組の常套手段に「あわや!」といったカットなど重要な画面の寸前にCMに入る方法があります。視聴者の興味をあおっておいてCM中にチャンネルを変えられないようにする、視聴者のみなさんにもおなじみの古典的手法です。
先日ある犯罪ドラマを視ていたら、犯人を追う主人公が「あわや殺られる寸前」というお約束のカットでCMに入り、そのまま「提供画面」になりました。その「提供画面」のベース映像は後半のハイライトフラッシュで、ピンチだったはずの主人公が元気で活躍しておりました。
そして、「提供画面」が終わって本編に戻ると、先ほどの主人公ピンチの場面で、そこから主人公がピンチのアクションシーンが続いたのでした。まあ「提供画面」のカットを視なくとも主人公が助かることはわかっているとは言え少しデリカシーに欠けてません? という感じでした。
こんな冗談みたいなケースはともかくですが、アヴァンタイトルや提供バックなどでその後の展開をさらしすぎて、ちょっとばかり興味を削ぐケースも見受けられます。制作者が忙しすぎて、そこまで細かく神経が行き届かないのかも知れません。
筆者の知るかぎりですが、番組冒頭のアヴァンタイトルはディレクター自身が作ることが多いのですが、提供バック映像はADや助監督が作ることが少なくありません。忙しいディレクターだとすべてを自分で作っていられないからですが、ADや助監督の実習の場、あるいは腕の見せどころという側面もあるようです。
アヴァンタイトルや提供バック以外にも、テレビ番組には本編以外に作らなければならないVTRがたくさんあります。予告編や番組宣伝用のVTRです。これらもADや助監督の仕事となることが少なくないようです。
VTRの種類もいろいろあって、たとえば事前、当日、直前、特定番組用、地方局用などに、それぞれ秒数も5秒から1分ぐらいまで合計10~20種類ぐらいのVTRを用意しなければなりません。
これらを作るには相応の時間はもちろん、編集費、音響費、スタッフ人件費、雑費などバカにならない経費がかかります。制作会社の場合、これも受注額に含まれていますからあまり手間をかけると利益を圧迫するのが悩みの種でもあります。
提供バックや予告・番宣VTRはADや助監督が経費のかからぬように短時間で作る、だから時々神経が行き届かないことがある、と断言はできませんし、いろいろな事情や考え方があるのかもしれませんが、視ていて希に「?」がつくことがあるのも事実です。
0.001%でも視聴率が欲しい。そのために提供画面だろうと可能な限りの手立てを使うのは当然と言えば当然ですが、せっかくの番組ですから、提供画面でそれから先の興趣を削ぐことがないようなプチ配慮はあった方がよろしいのでは・・・と思わずにはいられません。
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