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<2015年春ドラマPart5>13年ぶりにドラマ化「アルジャーノンに花束を」に感じられる「ドラマづくり」の志

メディアゴン / 2015年5月4日 11時58分

黒田麻衣子[国語教師(専門・平安文学)]

* * *

◼︎ 名作の掘り起こし

TBS金曜22時~の「アルジャーノンに花束を」は、50年も前に書かれたアメリカの作家ダニエル・キイスの同名小説が原作のドラマだ。アラフォーの筆者がこの小説の存在を知ったのは、高校生の時。

BOOWY解散後(1981〜1989)、ヴォーカルの氷室京介が初のソロリリースしたアルバムファーストアルバム「FLOWERS for ALGERNON」(1988)の収録曲に、「DEAR ALGERNON」という曲があった。静かで、どこか懐かしい響きを持つこのバラード曲は、氷室が小説「アルジャーノンに花束を」を読み、書きおこした曲であると、ラジオで知った。

主人公に向かって思わず曲を書きたくなるほどの小説とは、いったいどんな作品かと興味をひかれ、本を手にした。アルジャーノンは主人公ではなく、実験動物のハツカネズミであった。小説を読み、感動にうち震えて泣いた。氷室の歌声が、心に響いてきた。

 DEAR ALGERNON 優しさには出会えたかい
 DEAR ALGERNON 迷路のようなこの街のザワメキに
 DEAR ALGERNON 温もりには出会えたかい
 (『DEAR ALGERNON』氷室京介・作詞)

何のためにドラマを作るのか。誰のためにドラマを作るのか。

作り手によってさまざまであろうし、誰もが「模範解答」を述べる必要もないと思う。時には、こうした「名作を掘り起こす」目的であっても良いし、それもまた、メディアの役割のように思う。

TBSドラマ「アルジャーノンに花束を」は、人並み以上の知能を手に入れて「幸せ」をつかんだはずであった咲人(山下智久)が、殺伐とした世の中と対峙し、苦悩する部分に入る。「賢い」ことは「幸せ」で、賢くなれば幸せになれると信じて疑わなかった咲人は、何を見て何を感じたのか。

小説の世界観をうまく引き継ぎながらも、現代風にアレンジしたドラマと、原作の小説を読み比べてみる価値がある作品となっている。

「アルジャーノンに花束を」自体は、2002年にフジテレビがすでにドラマ化しており、「今さら」「また」との声も、ネットには散見される。しかし、今この作品をまたドラマ化することにも、意味はあると筆者は思う。アラフォーとなった筆者世代には、2002年なんてほんの数年前のような感覚だけれど、今の中高生にとって2002年は、はるかな昔だ。

フジ制作の前作など、観ている中高生は少ないだろう。そういう世代に向けて、若い世代に人気のジャニーズを起用してこのドラマを作ることには、大きな意義があると思う。今から観ても遅くはないし、このドラマが、若い世代にとって、原作小説との出会いになってくれたら、一国語教師としては嬉しい限りだ。

同じTBS制作の日曜21時「天皇の料理番」は、文部科学省が「トビタテ!留学JAPAN」とのタイアップ企画を実施した。福井県の田舎町で生まれ育った1人の青年が、天皇の料理番となるまでの立志伝。

明治の時代のお話なので、現代劇の何倍も撮影に苦労しているだろうが、一つ一つのシーンを丁寧に撮っていることがよくわかる。キャストの1人、鈴木亮平は、役作りのために20キロも体重を落としたという。実在の人物を映像化することは、様々な困難も伴うだろうが、ノンフィクションだからこそ、人の心に強く訴えるメッセージを伴う作品となる。

ドラマを通して、書物と出会う。そんなドラマがあっていい。

ドラマを通して、立志伝中の人と出会う。そんなドラマもあっていい。

「視聴率、視聴率」とあちこちで騒がれる中、制作者たちは、身を削る思いで制作にあたっていることと思う。偉そうなことをたくさん書いた。失礼もあっただろう。それでも、筆者はドラマに期待している。いろんな意味で、私たちの人生を豊かにしてくれるもの。それがドラマである。

このドラマを通して、何を伝えたいのか、何を見せたいのか、そんな気持ちのやりとりのできる素敵なドラマを、これからも楽しみに待っている。

さて、今日のドラマを観るとしようか。(了)

(Part.1|Part.2|Part.3|Part.4)

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