<毎回「脳内脚本」を書いてます>私、江川達也は大河ドラマ「花燃ゆ」の屈折した大ファンである
メディアゴン / 2015年5月20日 10時30分
江川達也[漫画家]
* * *
NHK大河ドラマは、毎週楽しみに見る。
歴史が好きなのだ。ドラマより、史実に興味はあるが、それをどうドラマにして見せるかにも興味がある。
筆者は、平安時代から太平洋戦争後4年までの史実の一部を漫画化した経験がある。なので、史実をドラマとしてどう見せるかということの苦労は経験のない人に比べてわかっているつもりである。
光源氏(これは架空の人)、楠木正成、足利義教、織田信長、吉田松陰、伊藤博文、山県有朋、山本権兵衛、石原莞爾。
自分以外の作者の描く歴史漫画は大体が嘘八百だと思っている。まあ、自分も編集者から漫画として面白くする為にウソをつくように説得されてしまったことがあるので大きな顔は出来ない。
漫画として面白く描こうとすると歴史的史実と矛盾する。漫画として面白いということと、現実として面白いことが違うからだ。
いや、読者が期待する面白さは現実的な面白さとは違うのである。ドラマもそうなのかもしれない。歴史的に意味のあることを描こうとすると漫画の読者は離れて行く。ドラマの視聴者も離れて行くのだろう。だから、筆者は大河ドラマを見ながらつっこむことを一つの楽しみにするようになってしまったのだろう。
自分はドラマ的な面白さも、漫画的な面白さも求めてない。ただ、事実的な面白さのみを楽しみたいだけだ。「事実は小説より奇」なのだ。その奇を見たい。そして、リアルな人の営みを見たい。
でも、大河ドラマには、それはあまり期待はしてない。少し期待しているのは史実に基づいて映像化することでシミュレーション効果があり、何か気付くことがあるからだ。普通に見ていては気付かないこともいろんな知識や経験を照らして見ると見えてくるものがあるのだ。
今回の大河ドラマ「花燃ゆ」もいつもつっこみながら、頭の中で「自分ならこういうセリフを入れるだろうな」などと別の「マイ脚本」を創りながら見ている。でも、歴史上の人物として松蔭先生や松下村塾の教え子たちが好きなので、画面だけでも充分楽しめる。
だから、概ね今回の大河ドラマの大ファンである。ただし、かなりの屈折した大ファンだ。何せ一番に録画したドラマの中から見るのがこの大河ドラマだからだ。
それでも、脚本も時代考証も軍事的意味合いもダメなドラマだ。どうダメかは、筆者のFacebookのタイムラインに昔、公開で書いたのでここでは、割愛する。
戦後教育をまじめに受けた人には軍人先生・吉田松陰のことはわからないのだ。戦後教育を不真面目に受けて自分で調べた人にはよくわかる。今までの流れでは、松陰先生が、何がやりたかったのかよくわからなかっただろう。
しかし、これからの展開にはかなり期待している。歴史的事実を追うだけで何に向かっているかがわかるからだ。脚本家がよくわからなくても、動かし難い事実経過を見せるだけで、見えてくるものがある。とんちんかんなセリフを選んでも画面をリアルに再現するだけで心に訴えてくるものがあるはずだ。
高杉晋作が上海に行ったエピソードは重要だ。これを割愛しなかったことはかなりの高評価だ。もっと詳しくやるべきだったとは思うが、清国人が西洋人に足蹴にされている映像だけでもうよく描いたと言おう。(偉そうですみません。)
イギリス公使館も燃やすだろうし、西洋の国四カ国と下関で長州一国が戦争だってするだろう。講和の時の高杉の気概だって描くだろう。奇兵隊やそれに続く諸隊だって描くしかない。(屠殺隊は描かないだろうが)その映像と気迫があれば、この時代の人が何の為に動いているのかよくわからない脚本でも何かが伝わる。
大河ドラマは、創られたドラマを見るのではなく、このドラマの先にあった史実はどうだったのか? というパズルを解くきっかけとして見るのが楽しい。本物の松陰先生とその門下生は何を見て何を考えていたか。考えるのが楽しい。登場人物で一番注目しているのは、劇団ひとりさんが演じる伊藤博文だ。
自分も日露戦争物語で伊藤博文を笑えるキャラで描いたが、本当にこの人はおもろい。アゴというあだ名で高杉晋作の子分みたいな男だが、明治になってからも本当に活躍する。
日露戦争後に相当勘違いしたテロリストによって殺されるが吉田松陰の一番の弟子はこの男かもしれない、と思っている。最後までひょうきんなキャラの脚本でいってほしい。いつまでも必死な男だったに違いない。
言っておく、筆者は今回の大河ドラマの大ファンである(屈折して見ているが・・・。)
「まあ、俺が脚本書けばもっと面白いだろうが」
とは思うが、自分には大河ドラマの脚本の仕事は来ないだろう。一般の人にとって面白いかどうかは疑問でもあるし。(筆者は脳内脚本を毎回書いているので満足している)
(江川達也)
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