<フジ「IPPONグランプリ」の弱み>芸人を「かっこいいもの」と扱うのはもう限界
メディアゴン / 2015年6月3日 6時20分
高橋維新[弁護士]
* * *
IPPONグランプリ(フジテレビ・2015年5月23日に放映)は、大喜利である。
言うまでもないが、大喜利は、与えられたお題に演者がボケて答えるというお笑いのショウである。そして、この手法は、とっくに限界が来ている。大喜利というショウ自体が頭打ちなのである。
大喜利力は、お笑いにおける基礎体力に当たるのは間違いがない。「このシチュエーションならこうボケる」というのを、質・量ともに高いレベルで出せることが一流のお笑いでいるための一つの条件である。こうやって考えたボケを適切に組み合わせていくと、漫才やコントの台本になる。
つまり、大喜利をやるときと漫才・コントのネタを書くときの頭の使い方は一緒なのである。両者で異なるのは、ネタを書くときは、全体の流れの中でのボケの位置付けや、前後の継ぎ目なども考える必要があるということである。
例えば前半で出したボケをしばらく時間を置いてからまた出せば「天丼」という形でより高いレベルの笑いが生み出せる。大オチに向けての伏線を冒頭に張っておけば深みのあるネタになる。
ところが大喜利では、こういう全体の流れが全く関係なしに、一つ一つのボケがぶつ切りで提供される。個別のボケのレベルが高くても、きっちりと練られた漫才やコントよりは全体のクオリティが低くなるのは不可避なのである。
強みがあるとすれば、基本的にはアドリブでボケを出していくことになるので、視聴者のハードルも多少下がる点である。しかし、「大喜利」と銘打ってこれをやってしまうと、「今から画面の中の彼らはおもしろいことを言います」と宣明するに等しいので、ウケ狙いでやっているということが視聴者に分かり、結局ハードルが上がってしまう。大喜利的なボケの積み重ねは、真面目なクイズなどの状況で、ひっそりとやるべきものなのである。そうであれば視聴者も油断しているので、奇襲の妙味を存分に発揮することができる。
「メロスはなぜ激怒したのでしょうか」という大喜利のお題は作れる。作れるのだが、わざわざ大喜利と銘打ってやることではない。クイズ番組で同じ問題が出たときにボケろという話である。無論、現在は真面目なクイズ番組でこれをやると敬遠されることの方が多いと思うので、このようなシチュエーションの設定は番組側が行うべきことである。大喜利をやるにしても、番組の側がまずは真面目なクイズ番組の体で始めればいいのである。
これは、全ての大喜利に共通する弱みである。
もう一つ、IPPONグランプリには、IPPONグランプリに特有の弱みがある。
この番組は、THE MANZAIやすべらない話と同じように、芸人や大喜利を「カッコいいもの」として取り扱っている。オープニングやスタジオセッとの作りはカッコいい感じにしてあるし、観覧ゲストには演者をとにかく褒めさせる。
そうなると、芸人は自分がおもしろい大喜利のできる人間であることを示さざるを得なくなる。するとまず、演者が緊張するという弊害が生まれる。次に、スベった場合にそれを笑いに変えにくくなる。「笑いのとれる芸人」がカッコよい芸人であって、IPPONグランプリもその頂点を決める番組ということになってしまうので、スベることが忌避されるのである。
スベった場合でも適切なツッコミがあれば笑いを生み出せるのが「お笑い」という手法の良さなのに、それができなくなるのである。このスベった時の笑いは、普通におもしろい答えが出たときの笑いとは種類が違うものなので、視聴者にとってはアクセントになるのだが、これがなくなるので笑いも一本調子になる。
笑点には、木久扇というスベリ枠がいる。これは明らかに上記の「スベリ芸による笑いのアクセント」を狙ったものである。「座布団をとりあげる」というスベった時のツッコミまで用意されているのである。
IPPONグランプリにも、今回の狩野英孝や斎藤司のように、毎回「スベリ枠として起用されたのではないか」という人は混じっている。ボケの点数も分かりやすく視覚化されるため、「低い点数しか入らないこと」がツッコミにもなっている。
ところが肝心の番組全体がスベリを許さないような空気を生み出す作りになっているので、彼らがスベった時も視聴者はどうすればいいかが分かりにくい。コンセプトが中途半端なのである。
本当に純粋に大喜利のナンバー1を決めたいのであればスベリ枠は廃止すべき(そして松本はプレイヤーの側に回るべき)であるし、おもしろいテレビショウを目指すのであれば、芸人をカッコいい人扱いするのはやめるべきである。視聴者のためになるのは確実に後者なので、筆者としては笑点に近付ける方向で番組を変えていってほしいと思っている。
芸人がカッコつけたりモテようとしたりしたら終わりなのである。
中身であるが、個人的に一番おもしろいと思ったのは板尾である。それはもう、図抜けていた。なので、彼がいないBブロックと決勝戦は集中して見ることができなかった。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【2024年下半期】今注目すべき芸人3選! 『M-1』準決勝3位、『THE W』決勝進出など実力派コンビぞろい
オールアバウト / 2024年6月30日 21時25分
-
テレビ街道爆進へ、元同居人対決、岡村隆史と再会を…『ツギクル芸人グランプリ2024』ファイナリスト<3>
マイナビニュース / 2024年6月29日 6時0分
-
リベンジ決意、漫才愛!!、ライバルに地元の友達が…『ツギクル芸人グランプリ2024』ファイナリスト<2>
マイナビニュース / 2024年6月28日 6時0分
-
怒涛のギャグ13連発、抜群の演技力、全力一人漫談…『ツギクル芸人グランプリ2024』ファイナリスト<1>
マイナビニュース / 2024年6月27日 6時0分
-
M-1常連さや香「次はコント」"見せ算"からの進化 TVも重視、「令和の視聴率男になりたい」発言も
東洋経済オンライン / 2024年6月21日 14時30分
ランキング
-
1「なぜその格好...」ルーブル美術館を貸し切った米モデル、名画の前に佇む写真に「マナー違反」「不衛生」と批判殺到
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月3日 17時10分
-
2『イッテQ』いとうあさこ、スタッフに「絶対触らないで」 とっさの“気遣い”が反響呼ぶ
Sirabee / 2024年7月2日 12時45分
-
3反町隆史 50歳の「POISON」に酔いしれる視聴者続出「イケおじ」「かっこよ」「激アツ」
スポニチアネックス / 2024年7月3日 21時53分
-
4夏クールドラマで「月・火」連続の「学生の妊娠」扱われる 春は「記憶喪失」多く...流行りなの?
J-CASTニュース / 2024年7月3日 20時18分
-
5元純烈・小田井涼平の“年表の1行”に空目する人続出 「違和感ない」「知らなかった」
Sirabee / 2024年7月2日 12時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください