<日本の学校に足りないのは「戦争」という授業>アホの巣窟・戦後日本を正すために漫画家になったのだ
メディアゴン / 2015年6月1日 7時20分
江川達也[漫画家]
* * *
「政治家は戦争の勉強を全くしていない。」
これは、「戦前」の石原莞爾(1889〜1949・陸軍中将)の言葉。
「教養のある政治家」近衛文麿のボンクラ振りにほとほと疲れ果てた石原莞爾の痛切な悩みだったのだろう。政治家には、教養より先に必要な勉強がある。それが、戦争に対する最低の知識と考察、そして独自の哲学だ。
外交も政治家の仕事の一つだ。外交の先には戦争が存在する。馬鹿でも分かる話だ。戦略は政治と密接につながっている。というより、政治なくして戦略なしだ。
この視点で江戸中期から幕末、明治、大正、昭和、平成を見てみよう。明らかに政治を行っている人の戦略的視点がどんどん劣化している。しかも、今の政治家は「今が一番進化してる」と勘違いしている。最も劣化した人間が過去の人より優秀だと自分にうぬぼれてるので、過去の人の苦労や優秀さが全く見えて来ない。
吉田松陰は軍学者だ。政治家というより、軍人だ。参謀だ。江川英龍は武士だ。軍人だ。西郷隆盛も軍人なのである。
幕末に活躍した人物のほとんどが軍人なのだ。だから、軍人としての戦略眼を持って動いていた。戦略的視点からの政治や経済を考えていた。戦争論的な視点を持たずに幕末を描くから戦後のドラマはとんちんかんなものになってしまう。松蔭先生が頭のおかしい人に見えてしまう。
坂本龍馬は商人だから戦略眼はあまり持ってない。明治の政治家はみんな叩き上げの戦争に指揮官として参加したサムライ、そう武官だった。軍人だったし、参謀だった。
日清戦争を主導したのは、外務大臣の睦奥宗光と陸軍参謀次長川上操六で、その時の総理大臣は伊藤博文。参謀総長は宮様だった。外務大臣の睦奥宗光は、ばりばりの軍人だった。ひきずられた総理大臣の伊藤博文も叩き上げの軍人だ。睦奥宗光は、
「外交に於いては被動的立場をとり、軍事に於いては主導的立場をとる。」
という方針を常に意識の最重要課題として川上操六とともに動いた。
そして、彼らはイギリスとの不平等条約一部撤廃を日清戦争直前の軍事的優位性によって実現した。しかも、清国よりもロシアの南下に対する戦略。日露戦争の時も、総理大臣・桂太郎はバリバリの軍人。元老達もバリバリの軍人。大蔵大臣の高橋是清もサムライのような絵師の家系で、アメリカで奴隷として売られている経験を持つ叩き上げ。
欧州大戦(第一次世界大戦)に参加した時もまだ、幕末からの叩き上げの軍人は政府にいた。そこまで、十年ごとに戦争をして来た日本だったが、そこからちょっとした平和が続き、実戦を俯瞰で経験した世代が鬼籍に入り出し、日本の政治家は急速に「戦争を勉強しないバカ」で一杯になって行った。
政治家に必要なのは、教養の前に戦争分析と戦略眼である。阿呆な政治家が結局、阿呆な戦争へのレールを敷いて行った。軍部の台頭ではないのだ。政治家の戦争への無知が引き起こした惨劇だった。
「戦闘すべき時に戦闘せず、戦闘すべきじゃない時に戦闘しようとする政治家」だったのが近衛文麿だ。まあ、近衛文麿一派にはソ連(ロシア)の手先がいて、アメリカと戦争するように仕向けてもいたが、それにまんまとのるのも、近衛文麿の戦略眼のなさのなせる業であろう。
戦後になり、政治家の戦争への勉強はますますゼロに近づいて行った。一般でも戦史を研究する人は稀となり、自衛隊の防衛大学ですら、戦史はみなの嫌いな科目だそうだ。戦後の政治家は驚くほど、阿呆だということになる。
政治家だけでなく、日本人のほとんどが阿呆だろう。戦争を反省するなら、戦争を分析し尽くして、どうしたら回避できたか、出来るかを一生懸命考えるのがまともな脳を持ったヒトの所業だろう。戦争を反省することが、戦争を全く頭の中で考えないことになった戦後日本は阿呆の巣窟じゃないだろうか。
日本の学校に足りない授業は、「戦争」という授業だと思う。
ついでに言えば、「性」という授業も足りない。「性」と「戦争」を漫画で描いたが、やはり「考えちゃダメ」と思っている人が多くて、充分描けなかったという残念な状況はあった。売りにして誤摩化して描いてる卑怯な精神構造を持ったヒトは社会でもてはやされ、正面きって、正々堂々と描くと攻撃される傾向はある。
困ったもんだ。
・・・とFacebookに書いたところこれを膨らまして記事にして下さいと依頼がきた。というわけで、この先を以下に書く。先というよりも何故こういうことを考えているのかという個人的経緯を書く。
筆者も学校の先生をしていたことがある。名古屋市立の中学校で数学を教えていた。ただし、数学よりも、美術や国語や社会の方が好きだった。
なので、数学を使う仕事より文系芸術系的な漫画家を何十年もやってきたのだろう。しかし、学校の勉強は嫌いだった。数学が一番ましだった。なので、数学科を選んだのだ。本当は小学校の先生になりたかった。全ての教科を教えたかった。
「今まで勉強して来た美術や国語や社会の学校の勉強が間違っていて、本当はこうなんだよ」
と教えたくて教育大学を受験したのだった。
筆者の能力では数学は短期間ですぐ成績を上げられる。2週間もあれば、クラスでビリだった成績をトップの成績に出来た。他の教科はくだらない暗記が主であるし、試験問題を作った人がどの程度に頭が悪いのか類推できず、苦労した。先生をやってみて、よくわかったのは、学校の教育は内側からは変えることが出来ないという現実だった。
学校という組織や労働組合に毒された教員達だけじゃなく、親や子供も何ともならない。どうしようもない教育を何処から変えるか。やはり、漫画や小説やメディアから変えていくしかない。ということで、先生の道から漫画家の道に乗り換えた。今から32年前だ。
最初は売れないと話にならないので、売れる為の研究をし始めた。有り難いことに弟子入りした本宮ひろ志先生は他の漫画家の先生より遥かに「売れる」ということを研究して来た先生だった。本宮先生の研究をさらに発展させて、筆者は売れる理論を漫画家デビューの前から、そして、漫画家になってからもデータを分析して丹念に行って来た。
その実験結果として、連続して4本の連載が大ヒットし、真似る漫画家が多数出現し、より、売れる分析の確証を得た。
しかし、売れるものは、教育とは真逆のものであるという分析結果も出てしまい筆者はここで苦悩する。自分は教育のために漫画家になったのであって、売れることは手段でしかない。売れる手段が目的と真逆をいっているとして、どうバランスをとればいいのか苦悶した。売れた後は教育方向に舵を切る。そうすると立ちどころに人気が下がる。思った通りの現象だ。
しかし、自分が描き、人に啓蒙したい歴史教育の漫画は絶対描きたい、と思っていた。漫画家の道に転身する前後から大東亜戦争について調べ始めてもいた。いつかチャンスを。というか、デビューする時に計画を立てていた。
まずは、講談社の青年誌でデビューし、ヒット。その後、集英社の少年ジャンプで連載し、ヒットする。その後は、小学館のヤング誌でヒットしようと考え、そのどれかのヒットの勢いで歴史漫画を講談社の青年誌で描くという計画だった。
歴史漫画は絶対、講談社で書くのがよい。男性向き漫画の世界では、講談社、小学館、集英社が、大手三社なのだ。そして、講談社は資料写真を沢山持っているし、きちんとした歴史がわかっている編集者や関連の人脈がしっかりしているのだ。
また、国を愛する社風もある。対して、小学館や集英社は歴史を勉強している編集者が少ないし、少々、社会主義や共産主義方向に偏った編集者が多いのである。筆者の歴史観は講談社の社風の方にあっており、小学館や集英社の社風には馴染まないことはデビュー当時から分かっていた。ライトなネタなら小学館や集英社はいいのだが、重いネタはどうもあわない。
小学館や集英社には、明らかに大した取材もせず憶測で描いている「従軍慰安婦」が、
「かわいそうだから、政府はちゃんと対応するべきだ。」
という主張の漫画を描いていた漫画家が権力をふるっていた時があった。この漫画家に圧力をかけられた人も多数存在する。なので、歴史漫画は小学館や集英社ではなく講談社で描こうと思っていた。
そうではあったものの、小学館の編集者に海好きの編集者が存在し、「東京大学物語」を描いている終わりの頃にその人が担当になり、
「『海上自衛隊もの』を描いて下さい」
との依頼に心が揺らいだ。「海軍ものを描きたい」との筆者の言葉に「いいですね。」との快諾。これで、念願だった歴史漫画が描ける、と喜んだ。
が、「自分としては、講談社で歴史物を描くと決めている。」とやはり断った。小学館では、歴史認識が自分と違う読者が多すぎるのだ。たとえると、右翼の会合で右翼の主張をしようと思っていたのに左翼の会合で右翼の主張をしても意味ないんじゃないか。というカタチだ。(たとえ話になってない。実態に近い)
(次回につづく:http://mediagong.jp/)
(江川達也)
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