SNSで自慢する人より自慢しない人の方が危険?承認欲求の呪縛とは

MONEYPLUS / 2019年8月28日 18時0分

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SNSで自慢する人より自慢しない人の方が危険?承認欲求の呪縛とは

誰もが心に抱く「認められたい」という承認欲求は、様々な形で私たちを強力に支配しています。「出世したい」という欲望や単純に自分の才能をアピールしたいという自己顕示欲だけではありません。集団の中で孤立したくないという気持ちも“承認欲求の呪縛”のなせるわざです。

どうすれば、この呪縛を解くことができるのか。前編に引き続き、承認欲求について研究している、同志社大学の太田肇教授にお話をうかがいます。


仕事をがんばるのはお金のため、ではない

――太田さんは組織論が専門ですが、すでに20年以上、組織論にからむこととして承認欲求について研究を続けています。そもそも承認欲求に注目したきっかけは?

太田肇教授(以下、同): 普通は、組織論というと、組織において人の原動力になるものは何かということで「お金」や「仕事のやりがい」について研究します。でも、実際、働く人たちの間で最も真剣に話され、常に議題として上がるのは、「誰が出世するか」や「誰が注目されているか」。また、組織内における言動の7、8割が「出世するため」とか「注目されるため」にからんだものです。

つまり、働く人の7、8割の行動は出世や名誉がインセンティブになっている。特に、役所や銀行などの伝統的な組織はそうです。私も公務員として働いたことがあるのですが、どこそこに異動になったからどうだとか、本当にそんな話しばかりをしています。それなのに、これらを抜きにして組織論を語っても意味がないと思いました。

「お金をたくさん稼ぎたいから、仕事をがんばる」というのも、お金持ちになれば世間に認めてもらえるから。「やりがいがあるから、仕事をがんばる」にしてもそうです。やりがいというと、内発的モチベーションのように感じます。しかし、よくよくその中身を掘り下げてみると、「人に感謝されるから」「すごいと言ってもらえるから」だったりする。やはり、人に認められることが根本にある。

「お金を稼ぎたいから」「仕事にやりがいがあるから」「仕事が好きだから」は、あくまで表層的なもの。いくらやりがいあって好きだ、楽しいと言っていても、ほめられたり、感謝されなければ、とたんにやりがいを失ってしまうでしょう。人が仕事をがんばり、組織がまわるその根本には、承認欲求が必ず潜んでいる。だから、組織論を研究するにあたって承認欲求について掘り下げることにしました。

日本企業にイノベーションが起こらない本当の理由

――しかし、その承認欲求には、良い方向だけでなく、悪い方向にも人を動かす負の側面がある。今回のご著書『承認欲求の呪縛』はより負の側面に注目したものです。

はい。これまで、承認欲求については正の側面が主に語られてきました。私自身もそうでした。確かに、承認欲求があるからこそ、人は努力したり、健全に成長します。ひとたび満たされると、自己効力感が得られ、才能が開花したり、行動力が上がったり、成績が上がったりもします。

しかし、調べれば調べるほど、今、より気になるのは負の側面のほうです。前述したように、人間は承認欲求を満たすためならば、そして一度得た承認を失わないためには、バカみたいなことでも、人間とは思えないようなひどいことでも何だってやってしまうという点です。

――今、日本は経済状況が悪く、社会全体としても自己効力感が下がっています。この状況下は特に、誰もが承認欲求をこじらせやすい危険な状況なのかもしれません。

「平成は敗北の時代だった」と経済同友会の前代表幹事・小林喜光さんが言っていましたが、確かに、現在も日本の企業にイノベーションはなかなか起こらず、活力もありません。

しかし、それはなぜかというと、イノベーションには必ず痛みを伴うからです。だから、管理職もそれ以下の一般の社員もやらなかった。「そんなイノベーションを起こすよりも今のままでいるほうがまだマシだ」という計算、消極的な承認欲求がここでも働いた、もしくは今も働いているのではないでしょうか。

悪い時ほど悪いほうに転ぶもので、企業やそこに所属する社員が犯罪を犯すのは、大抵、業績が下がっていたり、市場のパイが小さくなっていたりするときなどです。組織も、そこに所属する社員も、自尊心や自己効力感が下がり、消極的な承認欲求にみなが囚われ、イエスマンが多くなります。

しかも、そういう状況や人に対して意見が言えない雰囲気も同時に強くなる。反抗したり、モノが言える人は、早々に見切りをつけて他へ出ていってしまうので、なかなか悪循環から抜けられません。

「承認欲求なんてない」という人ほど危ない

――企業もですが、個人としても、一人ひとりが承認欲求の呪縛に陥っていることに、自分で気づくにはどうすれば?

「自分は承認欲求なんてない」と言う人ほど危ないですね。会社では「部下が自分より活躍するのが、妬ましいとか信じられない」などという上司もそうです。「大欲は無欲に似たり」という言葉があります。欲が深くて、そこに囚われている人ほど無欲を装います。というか、自分でも自分の欲深さに気づいていないんですね。

フロイトによれば、人間は「これはよくない感情だ」と思うと、それを隠そうとします。「認められたい」という感情や欲望をあからさまにすることは、"恥ずかしいこと"。だから、とことん隠して、無意識下にまで押し込んでしまう。そのため、自分でも気づけない。

本当に認められたい人ほど、「認められたい」という気持ちそのものを隠します。本気で承認欲求なんて自分にはないと思い込んでしまうわけです。そう考えると、インスタグラムでブランド物をあからさまに自慢する人などは、逆にそれほど自己顕示欲も深くないというか、承認欲求としてはかわいいものなのかもしれません。ネットにあげてちょっとちやほやされる程度で満足しているわけですから。

本当に欲深い人は、ネットで自慢したりはしないでしょう。自慢したい"恥ずかしい気持ち"がばれたら、周囲は白けて、認めてもらえないことがわかっていますから。SNSで自慢する人よりしない人ほど、本当は欲深いのかもしれません。

承認欲求の呪縛の解き方

――バリキャリ層の人が「本当に仕事で成功したいなら、承認欲求なんて青くさいものは、30代で克服しとけ」と言うのを聞いたことがあります。しかし、実際は、30代で克服できるほど、生易しいものでも、青臭いものでもなさそうです。

多次元で終わりがありませんからね。呪縛を解くには、まずは、自分自身の「認められたい」という気持ちを素直に認める。自分は誰に認められたいと思っているのかにも気をつけたいですね。

――組織や承認を求めている相手への依存度を下げるというのは?

まさにそれが対策になります。組織や認められたいと思っている相手との関係性をフラットにする。そのためには、別の世界を持つなど、その場を相対化すること。別のところで認められれば、承認欲求も満たされます。まずは別の世界を見る必要があります。

ヨーロッパの人は仕事よりもプライベートが大事だとよく言いますが、怠けているわけではなく、その方が本当に仕事の効率がいいからです。組織や仕事に入れ込みすぎると、むしろ合理的でない判断・行動をするようになります。仕事自体が楽しみで全てになると、仕事の本質とあまり関係ない細かいところが目につくようになり、無駄に力を入れたり、無意味に人にも厳しくなるからです。

そして、何より期待感と自己効力感(求めている結果と実際にできるだろうと思える気持ち)のギャップに気をつける。このギャップが大きくなると危ない。期待は高いのに、できる気がしないということになり、特に手を抜かない人は、周囲の期待を裏切ることに慣れていないため、仕事を抱え込んでしまい、メンタル不調になりがちです。適度に、自分で自分に対する期待を下げることが大事です。

これは、部下を育成中の上司や子育てしている親の心構えにもつながります。昨今は、ほめて相手の自尊心や自己肯定感を高めようとよく言われます。しかし、そればっかりはやはりダメ。周囲の期待感だけを強調してしまうことになり、部下や子供にとっては、逆に大きなプレッシャーになってしまいます。

――人を育てるにしろ、自分を育てるにしろ、期待感と自己効力感のバランスに注意していれば、承認欲求の呪縛にも囚われにくいということですね。よくわかりました。ありがとうございました。

前編:「誰もがはまる『承認欲求の呪縛』から逃れるには」

太田肇
太田肇(おおた・はじめ)
1954(昭和29)年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学経済学博士。専門は個人を尊重する組織の研究。『承認欲求の呪縛』『個人尊重の組織論』『承認欲求』『がんばると迷惑な人』『個人を幸福にしない日本の組織』など著作多数。

(三木いずみ)

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