日本のメディアは日韓関係悪化ばかり報じている場合なのか

MONEYPLUS / 2019年8月30日 6時0分

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日本のメディアは日韓関係悪化ばかり報じている場合なのか

8月22日に韓国大統領府が日韓軍事包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、歴史問題などをめぐり悪化していた日韓関係はさらに深刻になり、安全保障分野に影響が及ぶことになりました。

この韓国政府の判断が米中を含めアジア地域の地政学動向に将来どのような影響をもたらすかが筆者の最大の関心ですが、これは門外漢の筆者の力量を超えるテーマです。以下では、両国の金融市場、そして経済活動への影響について考えてみます。


日韓関係悪化の市場への影響

金融市場では、通貨ウォン(対ドル)は年初来で約8%安と下落。韓国の株価指数も年初から▲5%と、日本を含めた多くの主要国対比でアンダーパフォームしています。

日韓関係悪化などの韓国における政治リスクは、金融市場である程度反映されているといえます。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、将来の北朝鮮との経済統合を目指すことを見据えるなど、北朝鮮に融和的な外交姿勢を示しており、経済への悪影響だけではなく、朝鮮半島を取り巻く地政学情勢が変わることに伴うリスクが市場で意識されているかもしれません。

それでは、最近の日韓関係悪化によって、日本や韓国経済にどの程度、悪影響が及ぶでしょうか。まず日本は、7月に半導体の材料の一部品目の韓国への輸出に関して審査ルールを変更しました。

これについて、韓国に対して禁輸あるいは輸出規制強化を日本政府が行ったなどと報じられ、日本の対応が韓国政府の軋轢を強めたなどとの見方も散見されます。日韓という微妙な2国間の関係ゆえに、メディアもこれをセンセーショナルに報じたり、さまざまな立場の論者の声も大きくなっているようにみえます。

企業活動に及ぼす悪影響は限定的

実際には、韓国への輸出の取り扱い変更は、安全保障に関わる一部の材料のみが対象です。それらの輸出ができなくなるわけではなく、審査に関するこれまでの優遇措置が取りやめとなり、輸出する際の審査・許可を通常のルールに戻すのが、日本政府の対応です。特別な優遇措置を、他国同様の原則のルールに戻したということです。

輸出品が三国などを経由して問題国へ輸出されるのをしっかり管理することは、安全保障の観点から、どの国も責任を持ってやる必要があります。今回の日本の対応は、安全保障の理由で、どの国も自国の裁量で行うことができる対応です。

また、今回通常の管理対象になったのは半導体の材料になる3品目ですが、管理変更の対象になるのは試作段階のものに限られ、すでに量産されている半導体分の材料については対象外になる、との専門家による指摘もあります。

これらを踏まえれば、今回の韓国への輸出規制変更が、韓国の半導体セクターの生産活動を含めて、日韓の貿易など企業の活動に及ぼす悪影響は限定的といえます。

<写真:ロイター/アフロ>

観光面へのインパクトは大きいが…

一方、政治的な日韓関係の悪化は、観光面については無視できない影響が及ぶでしょう。韓国からの訪日客の2割を占め、すでに7月時点で訪日客数は前年比▲7.6%と減少に転じています。一方、中国などからの訪日客が引き続き大きく伸びているため、訪日客全体は同+5.6%と底堅い伸びが続いています。

韓国からの訪日客は8月からさらに落ち込むとみられ、このまま関係悪化が長期化すれば、前年対比で半分程度まで落ち込む可能性もありえるでしょう。2018年のインバウンド消費は約4.5兆円ですが、約2割の韓国人訪日客が半減すると大胆に仮定すると、約1割訪日客数全体が減るため、単純計算で0.4兆~0.5兆円のインバウンド消費が減る可能性があります。

実際には韓国からの訪日客が減った分は、中国、台湾など他のアジアからの訪日客が増える可能性があるため、これはインパクトを最大限見積もるための仮定ですが、それでも日本のGDP(国内総生産)の0.1%の規模で経済全体への影響ではほぼ誤差といえます。

これまで判明している日韓関係悪化の、日本経済への影響はほぼありません。そして、日本から韓国への観光客も大きく減るため、韓国経済も悪影響を受けるでしょうが、同様に誤差程度の悪影響しか想定されないでしょう。

消費増税は失政になる可能性が高い

むしろ、日本経済全体に影響を及ぼすのは、10月から行われる消費増税です。2014年の消費増税は判断ミスだったと安倍首相は後悔していた、とメディアで報じられました。今回も同様に、失政だったと振り返られる可能性が高い、と筆者は考えています。

消費増税による家計負担増の金額を確認すると、消費増税にともない約4.6兆円の税収負担が増えます。増税によって、幼児教育と高等教育の無償化などの制度が始まりますが、これらによって約2.4兆円が政府から家計に支給されます。このため、今回の増税によって、恒久的な家計負担は約2.2兆円増えます。

この家計負担に対して、政府は平成31年度予算として2兆円規模の臨時の景気対策を行いますが、このうち1.35兆円は防災、国土強靭化政策で、家計の所得負担を直接軽減させることになりません。時限的な対策として、いわゆるポイント還元制度などがありますが、これらは0.66兆円となっています。

これらの予算が実際にすべて政府支出として家計に給付されるかは不明なので、先に挙げた2.2兆円の恒久的な家計負担のごく一部しか相殺されないことになります。

なお、2兆円は家計の可処分所得300兆円の約0.7%に相当します。今回の増税で個人消費がどの程度落ち込むかは見方が分かれますが、名目賃金が1%程度しか伸びていない中で、家計所得に無視できない規模の負担が生じれば、少なくとも個人消費はほぼゼロに失速すると筆者は予想します。消費増税以降、日本経済の成長率はほぼゼロ成長に減速するリスクが大きいと考えています。

日韓関係の悪化が大きなニュースになっていますが、それよりも日本人の生活に直結する問題として、消費増税の影響のほうがかなり大きいことは明らかです。最近の日本の報道では、こうした冷静な視点が欠けていると筆者は感じています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

(アセットマネジメントOne 執筆班)

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