無価値な不動産こそ、売却処分は慎重にすべき…高齢者を狙う「原野商法の二次被害」とは?
MONEYPLUS / 2024年6月16日 7時30分
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無価値な不動産こそ、売却処分は慎重にすべき…高齢者を狙う「原野商法の二次被害」とは?
「原野商法」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
原野商法とは、値上がりする見込みがない原野や山林を、ありもしない開発計画などをちらつかせて、「今のうちに買えば、将来確実に土地が値上がりして儲かる」と錯覚してしまう説明によって、青田買いをさせるものです。
現代であれば、そんなうまい話ないだろうと冷静に判断できそうなものです。しかし、原野商法が多発していた1970年代から1980年代は、高度経済成長に伴うバブル期で、さまざまな物価は上昇基調にありました。その影響もあって、「土地神話」という、将来ずっと値上がりし続ける低リスク高リターンの金融資産という価値観が後押しし、このような被害が相当数あったものと予想されます。
そして平成・令和に入り、今度は「原野商法の二次被害」というトラブルを耳にするようになりました。そして、この二次被害は、年々増加の一途を辿っています。相談窓口である国民生活センターに寄せられた二次被害に関する相談は、2010年度までは年間500件以下だった一方、2013年度以降、ほぼ毎年1,000件を超えており、問題は年々深刻になっています。
そこで、今回は
・原野商法の二次被害とはどんなものか
・二次被害に巻き込まれないためにはどうすればいいか
についてみていきたいと思います。
原野商法の二次被害とは?
「原野商法の二次被害」とは、冒頭で紹介したバブル期の原野商法に巻き込まれ、使い道もない土地を買ってしまった土地所有者やその相続人に対して、さらに原野等を売りつけたり、金銭をだまし取ったりするものです。特に、原野商法による土地所有者や相続人は、「不要な土地を子供や孫に相続させたくない」という気持ちを持っており、一方で、一般的な不動産会社には売却相談にも乗ってくれず、行政に寄付を申し出ても断られ、処分できる手段がまったく見つからないまま、八方塞がりになっている焦りがあります。
具体的な被害例を幾つかご紹介します。
①サービス提供型
例えば「あなたの土地を高額で欲しがっている人がたくさんいるので、売却活動を任せてくれないか」などといいつつ、依頼者に調査費用や測量費用などを支払わせるものです。実際には、数十万円から百万円を超えるような費用を払わせた後、特に積極的な営業活動も行わず、「市況が急に変わって、なかなか買い手がつかない」といった曖昧な口実で一向に取引成就のメドも立ちません。依頼者にとっては売却処分が果たせないまま、高額な支払いだけが結果として残ってしまう手口です。
不動産売却のためには、除草伐採や測量、広告費のかかる営業活動などが事前に必要になるケースもゼロではありません。しかし、悪質な業者の中には、はじめから調査費用や測量費だけを得る目的で、買い手を探す努力をするつもりもないのに、まるで売却処分が保証されているような口ぶりで契約を強いるのです。
②下取り型
例えば「あなたの原野を当社が300万円で購入する」などと話を進めつつ、契約直前になって「節税対策のために、別の山林を500万円で購入してほしい。この山林は、いつでもすぐ売れるような好立地の土地だ」などといって、所有地の売却処分の代わりに、200万円の追加支出とともに、欲しくもない新たな土地を購入させられるケースです。
おそらくここで想像できた方も多いと思いますが、強引に購入させられた土地も市場価値はゼロに近い原野や山林で、高額な出費と、またしても不要な土地の処分に悩まされることになります。
原野商法の2次被害には、他にもさまざまな手口があり、かつ巧妙化してきています。特に最近では、不要な土地を国が有料で引き取る相続土地国庫帰属制度(2023年開始)、相続による不動産の名義変更を行わないことに対して罰則を新設した相続登記義務化(2024年4月開始)により、相続や遊休不動産に対する危機意識が高まっているため、その不安な気持ちに漬け込む悪質な業者がさらに増えることも予想されます。
ちなみに、悪質な業者は、どうやって原野商法の所有者を特定して勧誘をしているかというと、バブル期に原野商法として切り売りされた原野や山林がどこにあるかを把握しているのです。その土地一帯の登記簿を取得して、所有者として載っている住所に手紙を送ったり、電話番号を調べて勧誘営業をしたりしてくるのです。
その意味で、バブル期に購入した原野商法の土地の購入者やその相続人は、いつ標的にされてもおかしくない状態にあります。
二次被害に巻き込まれないためにはどうすればいいか
それでは、こういった悪質な二次被害に巻き込まれないためには、どうしたらよいでしょうか。「怪しい勧誘に惑わされないようにしましょう」といった抽象的な内容では、本質的な対策になりませんので、もう少し実践的な対策を挙げてみたいと思います。
①家族として課題に向き合う
実際に原野商法の二次被害に遭った方から聞いた中で、顕著な傾向だと感じたことは、「契約するまで、周囲には相談しなかった」ということです。悪質な業者が、意図的に冷静さを失わせ、周囲に相談する時間を与えないように契約を急かしている可能性もあります。
しかし、それに以上に「過去に原野商法で失敗した後ろめたさ」や「原野商法の土地を持っているという恥ずかしさ」といった感情から、「この問題は周囲に迷惑をかけずに、なんとか自力で解決しなくては」という心理状況が生まれやすくなっていることも原因の一つです。実際に、相続が発生してから、相続人の子供達が、故人の遺品整理中に原野商法の土地の権利書を見つけて、その時に初めて「実は親が原野商法で土地を買わされていたことを知った」ケースも珍しくありません。
尚、国民生活センターの統計によると、二次被害に関する相談者の約9割が60歳以上であり、他の詐欺的商法同様に、高齢者が狙われやすい傾向が非常に強い特徴もあります。そのため、もし自分が子世代であれば、親にとって縁のない遠方の土地の権利書を持っていないかを確認したり、こういった記事や行政の注意喚起のWEBページ、ニュース等に触れる機会を作ったりして、「もし不要な土地を持っているなら、一人で抱え込まずに、家族で処分策を考えよう」といった話題を出してみることが非常に有効です。
②契約書の事前開示を求める
不動産会社は通常、契約書の事前開示を求められれば、それに応じて冷静な状態で契約内容を確認できる機会を設けます。言い換えれば、例えば「署名する日まで契約書は見せられない」といった不穏な対応をされる場合は、依頼者にとって不都合な内容が含まれている可能性があります。その意味で、積極的に契約書の事前開示を求めることも、二次被害を未然に防ぐ有効な対策の一つと言えます。
③セカンドオピニオンを求める
不動産取引や法律に詳しい専門家に、セカンドオピニオンを求めることも有用です。
専門家であれば、勧誘経緯や業者からの提案条件などから判断して、状況に合った的確なアドバイスを得られることが期待できるでしょう。尚、先に挙げた契約書の事前開示があった場合には、契約内容の精査を依頼できる可能性もあり、より安全で冷静な判断につながるでしょう。
また、身近にそういった相談先が無い場合には、国民生活センターに相談するだけでも、参考になる情報や判断材料を得られるかもしれません。
無価値な不動産こそ、売却処分は慎重に
いかがでしたか。原野商法の土地の多くは、資産価値が極めて低く、「1円でも売れない」「売る手段はない」と諦められた土地であることが大半です。
それだけに、怪しい勧誘であっても、当事者にとっては救世主であるような錯覚や、藁をもすがる思いで早期処分してスッキリしたいという気持ちが生まれやすいといえます。
しかし、原野商法の二次被害は、不動産自体の価値ではなく、こうした「消費者の心の弱み」に漬け込んで近寄ってきます。そのため、オレオレ詐欺といった特殊詐欺などと同様の警戒意識を持ちながら、悪質な勧誘に惑わされないことが重要です。
■参考情報
国民生活センター「より深刻に!「原野商法の二次被害」トラブル-原野や山林などの買い取り話には耳を貸さない!契約しない!-」
政府広報オンライン「「原野商法」再燃! 「土地を買い取ります」などの勧誘に要注意」
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(小林弘典)
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