老後資金準備はNISA一択で本当にいい? 50代だからこそiDeCoが有効といえる理由
MONEYPLUS / 2024年6月23日 7時30分
老後資金準備はNISA一択で本当にいい? 50代だからこそiDeCoが有効といえる理由
「老後資金を貯めるためにNISAを始めた方がいいのではないか」。
2024年、新NISAがスタートしたことをきっかけに、そんな思いを抱いている方もいらっしゃるでしょう。ファイナンシャルプランナーの元に相談に来られたAさん(57歳)もそのうちのお一人です。
そもそも、老後資金を貯める方法は当然ながらNISAだけではありません。本記事では、老後資金を貯めるために最初にすべきことと、50代だからこそ活用したい老後資金準備に有効なiDeCo(個人型確定拠出年金)について解説します。
老後資金を貯めるには現状把握から
老後資金を貯めるために「NISAを始めた方がいいのだろうか」といった「手段」から考えるのは危険です。まずすべきなのは、「いくら必要なのか」「あと何年で準備が必要か」といった「目標」を知ることです。そこから「どうやって貯めるのか」を計画します。
そのために、ライフプランを作り、現在から亡くなるまでのお金の収支の全体像を把握します。これからの働き方、どんな暮らしを送りたいのかをイメージしてみましょう。少なくとも平均寿命(男性 約81歳、女性約87歳)まで生きた場合、入ってくるお金(収入、公的年金、保険金など)と持っているお金(預貯金、金融資産)はどれくらいか、暮らしに必要な費用を賄えるか、によって老後資金対策の必要性がわかります。
自分が「これくらいならできそう」と思う金額でNISAを始めたとしても、本来必要な老後資金に足りなければ、老後資金対策として万全とは言えません。
必要な老後資金を確実に準備するためには、まず現状を把握してから必要に応じた対策方法を考える、という順番で取り組みましょう。
50代だからこそiDeCoが有効な訳
必要な老後資金額が明確になったら、どうやって貯めるのか、手段を決めます。50代の方は、NISAではなくiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用することをまずは検討してみましょう。
iDeCoは老後の資産形成を目的として作られた私的年金制度です。自分で掛金を拠出して、運用方法を選び、掛金とその運用益との合計額を一時金または年金として受け取ります。iDeCoには「掛金が全額所得控除」「運用益が非課税で再投資が可能」「受け取る時も大きな控除が受けられる」といった3つの税制メリットがあります。
なかでも、掛金の全額が所得控除の対象となり、税負担が軽減される仕組みは、NISAにはない大きな特徴です。
軽減される税負担額の目安は以下の計算で求めることができます。
相談者Aさん(年収750万円、所得税率20%、会社に企業年金がない会社員)が上限金額(月額2.3万円)まで拠出した場合、年間で軽減される所得税と住民税を合わせた額は以下の通りです。
(23,000円×12ヶ月)×(20%+10%)=82,800円
この所得控除はiDeCoに拠出をしている間、毎年受けることができます(所得の増減などにより所得税率が変わる場合、金額は変動します)。今後も働く期間が一定年数あり、所得が生涯のなかでもピークを迎える可能性の高い50代は、税負担軽減の恩恵を受けやすい世代です。
iDeCoは老後の資産形成を目的とした年金制度なので、原則として60歳にならないと資産を引き出すことができません。これから住宅購入や子どもの大学進学といった大きなライフイベントが控えている若い世代では、60歳以降にしか資金を引き出せない点がネックとなります。しかし、上記のようなライフイベントが落ち着いてくる50代であれば影響が少ないでしょう。以上の点から、iDeCoは50代の老後資金準備に有効な選択肢といえます。
ただし、iDeCoは加入している公的年金の種類や、勤務先の企業年金制度の有無によって拠出できる掛金の上限金額が異なります。また、勤務先に企業型確定拠出年金制度がある場合、iDeCoの利用自体ができない、もしくはマッチング拠出制度を利用した方が効果的な場合もあります。事前に、勤務先の年金制度について必ず確認をしましょう。
その他、すでに住宅ローン控除やふるさと納税を活用している方はiDeCoとの併用ができるものの、そのバランスに頭を悩ませている方も少なくありません。それぞれの制度の活用バランスが人によって異なるからです。「税制優遇制度をお得に活用したい!」と思う方にこそ、ライフプランが有効ということを覚えておきましょう。
60歳目前にiDeCoを始めても遅くないのか?
Aさんから「現在57歳なので、今からiDeCoに加入しても加入期間が数年にしかなりません。あまり意味がないでしょうか?」という質問がありました。
以下の2つの条件をクリアしていれば、60歳目前からiDeCoを利用しても遅くはありません。
①60歳以降も厚生年金に加入して働く
厚生年金に加入している(第2号被保険者である)場合、60歳以降も65歳になるまではiDeCoの拠出を続けることができます。
②受給開始年齢が65歳以降でも家計に支障がない
iDeCoは、老齢給付金として原則60歳から受け取ることができます。ただし、60歳になるまでにiDeCoに加入していた期間が10年に満たない場合、受給可能となる年齢が加入期間に応じて繰り下げられます。加入期間が1月以上2年未満の場合、65歳で受給開始となります。
Aさんは60歳以降も現在の職場に継続雇用され、フルタイムで働く予定です。引き続き厚生年金に加入するため、65歳までiDeCoの拠出を続けることができます。受給開始も退職予定の65歳以降で問題がないことから、iDeCoの利用を決めました。
老後資金をより効率的に貯めるには
iDeCoは掛金が全額所得控除となるため、基本的には年間の拠出限度額の枠を最大限利用することでより控除の恩恵を受けることができます。ただし、前述した通り他にも控除が可能な制度はいくつかあるためバランスに注意しなければならないケースもあります。
掛金は、毎月決まった額を拠出するのが基本ですが、ボーナス払いや年単位拠出(年1回以上任意に決めた月にまとめて拠出)を選択することもできます。ただし、年途中で加入した場合、加入前の経過月に相当する掛金を後から拠出することはできません。拠出可能額は「上限金額×加入月以降の月数」の範囲内となります。
iDeCoの加入手続きには1カ月半~2カ月半かかることが想定されるため、利用を検討されている方は早めに手続きを進めましょう。
iDeCoを利用することで所得控除により税負担が軽減します。本来、税金として支払うはずだったお金をそのままにせず、NISAの運用資金に回すことで、より資産形成の効率を上げることができます。
また、iDeCoを上限金額まで拠出したとしても老後資金の必要準備額に足りない場合、NISAを併用することで、必要な準備額を確保することができます。
iDeCoとNISAを両方利用する場合、運用商品の選定はiDeCoから決めましょう。iDeCoの方が選択可能な商品数が少ないため、iDeCoで選択をした商品と金額を元にNISAの運用プランを決めることで選択肢の幅が広がります。
iDeCoには元本確保型商品もありますが、投資による効果を期待して元本確保型ではない商品を選択する場合、NISAで選択する商品においては、元本割れのリスクがあることを理解の上で老後資金のための資産形成に役立てましょう。
出口までの計画が老後の安心に繋がる
老後資金はいつかは使うお金です。何歳まで積立を続けて、何歳から受け取るのか、貯め方だけではなく、受け取り方まで想定しておく必要があります。
ライフプランを立てるときには、iDeCoやNISAへの加入期間のシミュレーションだけではなく、受け取り期間のシミュレーションもあわせて行いましょう。老後の生活がより具体的にイメージしやすくなり、安心感も増すはずです。
元本確保型ではない商品で資産運用を行う場合、資産がどれだけ増えるかを確定することはできません。それでも、期待できる効果が可視化できると、資産形成を行うモチベーションや持続力に繋がります。
新NISAの話題をきっかけに、老後資金準備に向けて動き出すのは歓迎すべきことです。ただし、老後資金を貯める方法を最初からNISAに限定することはやめましょう。必ずしも、世の中で話題になっているものが自分にとっても有益だとは限りません。
自分にとって必要な対策は何か、自分に合う方法は何かを見つけるためにも、まずはライフプランでお金の流れを把握することからはじめましょう。全体像がわかれば、自分にとって適した方法を選択しやすくなります。望む老後の暮らしを実現するため、手段を選ぶ前に現状把握から老後資金準備を進めていただきたいと思います。
【監修】伊達有希子/ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)
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(伊藤寛子)
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