iDeCoや NISA に影響は? 自民党総裁選で話題「金融所得課税を強化すべき」の意味
MONEYPLUS / 2024年9月10日 7時30分
iDeCoや NISA に影響は? 自民党総裁選で話題「金融所得課税を強化すべき」の意味
自民党の総裁選において、「金融所得課税」が話題となっているようです。これを受け、ネット上ではiDeCoや NISA にも影響が及ぶのではないかと不安な声も上がっています。今後、iDeCoや NISA で築いた財産も課税されたりするのでしょうか?
iDeCo、NISAの税制優遇
事の発端は、石破茂元幹事長があるテレビ番組で「金融所得課税」の強化を実行したいと述べたことにあります。金融所得課税については、以前岸田総理も強化する方針を打ち出したものの実行されぬままになっていたので、それを再度提言したいという意向のようです。
金融所得とは、金融商品から得られた利益を指します。銀行預金の利息も金融所得ですし、株の配当金、投資信託の売却益などすべてが金融所得です。この税率は一律20.315%(復興特別所得税0.315%)です。
例えば、定期預金の利息は金融所得ですし、投資信託をスイッチングした際に生じる譲渡益も金融所得です。しかし、iDeCoでは運用中においてこれら金融所得に対する20.315%の税金がかかりません。
NISAでは、個別株、ETF、REITや投資信託などを売買して資産を増やしますが、配当金などのインカムゲインや売買で得られるキャピタルゲインが金融所得となります。もちろんNISAでは、これら金融所得は無期限で非課税です。
このような税制優遇のお得さを知っているからこそiDeCoやNISAで資産運用を始めたという方たちからは、「貯蓄から投資へ誘導し、いきなりはしごを外すように課税強化をするなんて、けしからん」と言った声も上がっているようです。
現に石破氏の言葉を受け、小泉氏、小林氏、河野氏等が次々と「金融所得課税の強化で貯蓄から投資の流れを止めるべきではない」「iDeCoやNISAなどはむしろ拡充し中間層の金融所得を増やすべき」などと非難めいた発言したこともあり、世の中少しざわついています。
その後石破氏が国会で自らの発言の真意は、iDeCoやNISAについての課税強化をするものではないとしましたが、税の優遇という恩恵を受けている人達にとっては今後の行方に不安も残っているようです。
所得に応じて高い税率が掛けられる「所得税」
では石破氏が指摘する「金融所得課税」を強化すべきというのはどういう意味なのでしょうか?
所得には、いくつか種類があり、「どうやってその資金を得たのか」によって税金の計算方法が異なります。金融所得はその中でも特別待遇なので結果的にお金をより多く持っている人有利になるという指摘が「金融所得課税」に対する論点です。
例えば、会社員の給与収入は、年間で得た賞与と給与の合計額から給与所得控除額を差し引いて給与所得を計算します。給与所得控除とは、会社員に必要な様々な費用を経費として認める仕組みです。経費と言っても、領収書の提出は不要で収入によって一定の額をみなし経費としています。
保険の満期金など一時所得とされる資金の受取り方もあります。その場合、受取額からそれを得るための経費、つまり受け取る保険金に対して支払った保険料を経費として差し引き、そこから50万円の特別控除を引きさらに2分の1した金額が課税対象となります。
人によっては不動産所得や雑所得といったものもあるかも知れませんが、それぞれ得た資金を収入と呼び、税金の計算上認められた金額を経費として差し引き、残ったお金が所得となります。
それらの所得は、合算されそこからさらに社会保険料控除や生命保険料控除、扶養控除や基礎控除など様々なお金を差し引き、いよいよ所得税率が掛けられる「課税所得」が導き出されます。
所得税は、所得に応じて階段式に上がっていきます。所得が149万9000円までは5%、195万円から329万円9000円までについては10%と段階的にあがり、4000万円以上の部分については45%もの税率が掛けられます。ちなみに課税される所得は1,000円未満は切り捨てて計算されます。
このように所得には複数の種類があり、それぞれ経費として差し引ける金額は異なるものの、最終的には合算されそこに所得税が掛けられるのが原則です。所得に応じて高い税率が掛けられるは、「税の応能負担の原則」に則った仕組みです。応能負担とは、能力に応じて負担することをいい、他にも健康保険料や厚生年金保険料などあり、世間一般的には納得感のある仕組みとして浸透しているのではないでしょうか?
「1億円の壁」とは?
一方、金融所得課税は他の所得と合算されることなく課税される「申告分離課税」です。厳密にいうと、利子所得は申告不要で20.315%の税金が自動的に差し引かれますし、証券取引における特定口座では、源泉徴収ありを選べばこちらも自動的に税金が差し引かれる仕組みです。配当は場合によっては他の所得と合算できる総合課税を選択することもありますが、ここではまず金融所得は他の所得と合算されることなく一律20.315%の課税で税金処理が終了するという点がポイントです。
もちろん一律の税率であれば、公平ですからなにも問題にはならないのでしょうけれど、税金は応能負担が原則とされているので、お金持ちの金融所得については、もっと税金をとっても良いのではないかと議論されている訳です。
実際、所得が多い方ほど金融で得られる収入が多いというデータもあるようで、ここに対して「1億円の壁」という言葉も存在します。
1億円の壁とは、所得に対する所得税の負担率は所得に応じて増えていくものの、所得が1億円を超えると減少するという事象を指しています。
例えば所得が2000万円超3000万円以下だと負担率は20%程度であるところ、5000万円超1億円以下では、26.3%となります。これが1億円超2億円以下になると25.9%へと低下しさらに、50億円超100億円以下の層では15.7%となるそうです。(国税庁「申告所得税標本調査」2022年より)
財務省の分析によると、2020年所得が1億円を超えた納税者は1万9000人もいて、これまでご説明したような税金の計算方法の仕組み上納税額が比較的少なくて済むような資産での所得を多く保有している特徴もあったそうです。
もちろん金融所得課税が強化されると、それらの富裕層が日本を嫌い海外に出て行ってしまう可能性もあり、単純に進行する議論ではなさそうですが、税の仕組みという点では学びの大きな話題であったのではないかと思います。
いたずらにiDeCoやNISAの課税が強化されるかも知れないから、辞めた方がいいなどと考えずに、あらためて税のメリットを享受できるところは最大限に取り込んで、資産形成を継続する意思を固めていただけると良いかと思います。
【参考資料】
日本経済新聞「金融所得課税、自民党総裁選争点に浮上 石破氏の強化方針に小泉・小林氏反論」
オリックス銀行「【2023年版】金融所得課税とは?仕組みや1億円の壁についてわかりやすく解説」
日経ビジネス電子版「自民総裁選で注目の金融所得課税とは 石破氏が猛反発浴びる理由」
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(山中 伸枝)
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