『損失の悲しみ』は『利益の喜び』の2倍以上? 投資家が株価暴落時こそ知っておくべき心理的落とし穴
MONEYPLUS / 2024年10月3日 11時30分
『損失の悲しみ』は『利益の喜び』の2倍以上? 投資家が株価暴落時こそ知っておくべき心理的落とし穴
株価暴落時、投資している資産に損失が出ていれば、冷静な判断が難しくなることがあります。相場が不安定な時こそ、過去のデータや論理的な思考に基づいて落ち着いた行動ができれば理想的ですが、なかなかそうはいかないですよね。
「行動経済学」という考え方を知れば、陥りがちな投資心理を知ることができ、株価暴落時であっても一歩引いた冷静な判断ができるようになるかもしれません。今回は「行動経済学」の視点から、投資と上手に付き合う方法を解説します。
投資において「感情」を抜きに判断するのは難しい
そもそも「経済学」は、人が経済活動の中でどのように意思決定し、行動するのかを解明する学問です。従来の経済学では、個人や企業は感情や偏見に左右されず、事実や論理的思考に基づいて冷静に判断や行動し、利益を最大化すると考えられてきました。しかし実際の経済活動では必ずしもそうとはいえません。
「行動経済学」は、人が「非合理的な行動をする」ことを前提とする学問です。例えば、お金を増やしたいと思ってもなかなか行動できない方もいらっしゃいます。それは、「現状維持バイアス」がはたらいているからです。「現状維持バイアス」とは人が無意識に、現状の状態を維持することを好むため新しい選択や行動をとること抵抗感を持つという行動経済学の理論です。
投資を例に出していえば「あの時、(株や投資信託を)売らなければよかった。」、「あの時買っておけばよかった」と、後悔した経験はないでしょうか。このような投資における感情的な行動を説明できるのが、「行動経済学」です。
投資の世界に存在する行動経済学の理論を知る
では、投資の世界でよくみられる行動経済学の理論を3つ解説します。
①損失回避バイアス
人間は損失を恐れるあまり、利益を得る機会を逃すことがあります。行動経済学の先駆者であるダニエル・カールマンらによって提唱され、その研究によれば、『損失の悲しみ』は『利益の喜び』の2倍以上とされています。
資産運用における損失回避バイアスの具体例としては、
A.投資した資産に利益が出ているとき、早めに利益確定をしてしまう。
B.損をしているときには損失を確定させたくないため売却を躊躇してしまう。
このような行動が挙げられます。
株価の下落局面で、Bの心理が働いて損をしたくないからとなかなか売却できずにいる間に、売却を促すネガティブなニュースが流れ、多くの投資家が売り注文を出し、より相場の下落を加速させる現象が起きるのも損失回避バイアスで説明できるのではないでしょうか。
②参照点依存症
人はある特定の基準点(参照点)に基づいて判断しがちです。
例えば株式投資において、自分で購入した価格(参照点)よりも株価が上がると利益に感じ、下がると損失を感じます。人は参照点に対して感情的に反応しがちで、時に非合理的な行動をすることがあるという例になります。
③現在志向バイアス
人は将来得られる大きな利益より、今すぐに得られる小さな利益を優先してしまう傾向にあります。マシュマロテストという有名な実験をご存じでしょうか?
数人の子供達を部屋に入れて「自分が帰ってくるまでにマシュマロを食べなければ、もう一つ追加でマシュマロをあげる」と約束するものですが、3分の2の子供達がマシュマロを食べてしまいました。
これと同じことが投資の世界でも起きていて「今日もらえる5万円」と「3年後にもらえる10万円」であれば、多くの人が「今日もらえる5万円」を選ぶでしょう。
株式投資においても、今後の成長性や株価が割安か割高か等を考慮すれば、売却しないという選択肢が仮にあったとしても、目先の株価が上がっているからと売却を選択してしまうことがあります。このように現在志向バイアスが強く働くことで、人は将来的な利益より目先の利益を優先させてしまうのです。
現状志向バイアスを防ぐには、目の前の欲求から目をそらす、遠ざけることが大切です。投資についてもずっと値動きを追わずに、忘れるくらいがちょうどいいのかもしれませんね。
株価暴落時、パニックに陥らないために大切なこと
2024年8月5日、日経平均株価は年初来安値(31,458円)を記録しました。同年7月11日42,224円の年初来高値と比較すると、約25%の大幅下落です。このような状況下では投資家は不安を感じパニックに陥りがちです。では、行動経済学の考えを踏まえて、株価暴落時に冷静さを保つためにはどのようなことに注意すればいいのでしょうか。
①逆張り
逆張りとは、相場が下がっているときに買い、相場が上がっているときに売る投資手法です。株価の急落を目の当たりにすると、「これ以上損をしたくない」という損失回避バイアスが強く働きます。この結果、売りが売りを呼び、株価がさらに下落するのです。
逆張りをする投資家は、このようなパニック売りを過剰反応と捉え、リスクをとって、あえて株や投資信託を買って将来的な利益を狙うのです。しかし、これは高度な知識と経験が必要で、一般投資家には難しいといえるでしょう。
②マネーリテラシーを身に付ける
マネーリテラシーとはお金に関する知識・判断力のことをいいます。例えば、現在の株価が、割安か割高かを判断する際に、「PER(株価収益率)」という指標が用いられることがあります。
PERなどの指標を理解することで、自分の買った値段で高いか安いかを判断してしまう「参照点依存症」にならず、現在の株価が割安か割高かを判断できるようになります。このように、マネーリテラシーの向上は適切な投資判断につながります。
③ドルコスト平均法を活用した積立投資
ドルコスト平均法とは、毎月一定額を投資することで、価格が変動による影響を押さえる手法です。価格が安い時にはたくさん買え、高い時には少ししか買えないので、平均購入単価を抑える効果が期待できます。積立投資であれば、「毎月3万円」といったように、あらかじめ指定したタイミングで購入することができるため感情に左右されることなく資産運用を継続することができます。
自分のルールを決める、投資目的と期間に立ち返る
投資をする前に、自分の「投資目的」と「投資期間」を明確にしておくことが重要です。
例えば購入時より10%下がれば、売却するといったように機械的なルールを決めておくのもいいでしょう。またNISAや確定拠出年金といった長期の資産形成を目的とする積立投資は、価格の動きに一喜一憂せず、積立などで仕組化して資産運用を続けることが大切です。
「行動経済学」の考え方を知ることで自分の感情をコントロールし、株価暴落時でもより冷静な投資判断ができるようにしたいものですね。
【監修】伊達有希子/ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)
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(南真理)
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