高額療養費制度があっても自己負担額は意外と多い…食事代、入院セット、差額ベッド代…制度の対象外になるものとは?
MONEYPLUS / 2024年10月27日 7時30分
高額療養費制度があっても自己負担額は意外と多い…食事代、入院セット、差額ベッド代…制度の対象外になるものとは?
病気やケガなどで高額な医療費がかかった時、自己負担額を一定額以下に抑えてくれるのが高額療養費制度です。家計を助けてくれるありがたい制度ですが、入院時にかかる費用がすべて高額療養費の対象となるわけではありません。高額療養費を適用したうえで実際にどのくらいの費用がかかるのか解説します。
高額療養費制度の仕組みは?
日本では、すべての国民が公的医療保険に加入することが義務付けられています。病気やケガで医療機関にかかっても、治療費の一部を支払えば治療が受けられます。
自己負担の割合は年齢などによって変わりますが、基本的には3割負担、つまり7割引で治療を受けられる仕組みですから、大きな負担はありません。ですが、検査や手術などを含む入院治療になると、自己負担額が高額になる場合もあります。そのような場合は「高額療養費制度」の適用で、自己負担の上限額を超えた分が戻ってくる仕組みです。自己負担の上限額は年齢や所得によって異なります。
下表は、厚生労働省の「高額療養費制度を利用される皆様へ」をもとに作成した、69歳以下の自己負担限度額表です。(70歳以上になると限度額が変わります)
例えば年収500万円の場合、適用区分はウです。1ヵ月の医療費が100万円かかったとすると、
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円
となり、治療費が高額になったとしても1ヵ月87,430円の自己負担で済む計算です。
高額療養費の対象にならない出費とは?
1ヵ月9万円程度の出費なら、貯蓄から捻出できると考えがちですが、高額療養費はあくまで、治療にかかる費用が対象ですから、入院した時にかかる高額療養費対象外の出費を忘れてはなりません。対象外になる費用にはどのような費用があるでしょうか?
1. 食費
入院に伴う食費は対象外です。入院中の食事代は、公的医療保険制度で一律1食につき490円と定められています。1日3食として1,470円。1ヵ月入院となると44,100円。軽視できない金額です。
2. 入院セット
最近では、病衣・タオル・日用品など、レンタル業者を使い、自宅から準備するものを極力少なくし、手軽に入院できるようなシステムを導入している病院が増えています。1日500円程度の費用で、病衣やタオルなどの洗濯が不要になる便利な仕組みですが、この費用も対象外です。1ヵ月だと15,000円程度の費用がかかります。
3. 差額ベッド代
個室や少人数の病室利用が治療に必要な場合を除き、個人の申出で特別な病室を希望する場合は差額ベッド代がかかります。病院により差額ベッド代はまちまちで、全国平均で約6,600円程度ですが、都心部では1日1万円以上の室料がかかる場合もあります。
体調が悪いときに、同室の人に気を遣うのは精神的にストレスがかかります。空きがあれば差額を払っても個室で過ごしたいと考えるひとは増えています。この差額ベッド代も高額療養費の対象外なので、注意が必要です。
4. 先進医療にかかる費用
先進医療は厚生労働省が認めた先進的な医療ですが、健康保険適用外となりますので技術料は全額自己負担です。この費用も高額療養費の対象外です。先進医療に該当する治療法が、自身の病気に有効だった場合、選択肢のひとつになることもあります。ガンに有効といわれる陽子線治療などは、高額な治療費がかかりますから、万一の場合を想定して、民間の医療保険の特約で備えることをおすすめします。
5. 療養型病院の居住費
療養型病院とは、急性期が終わった後も継続的に治療を続けることが必要となったひとが利用する病院です。入院費や治療費は健康保険の対象ですが、別途居住費がかかり、この費用は高額療養費の対象外です。居住費は難病指定を除き、1日370円と安く設定されていますが、1ヵ月1万円程度の自己負担がかかります。
高額療養費制度を利用しても自己負担は意外にかかる
実際に入院治療した場合、自己負担はどのくらいかかるのでしょうか? 1例をあげて考えてみましょう。
入院治療は短期化の傾向にあるといわれていますが、病気の種類や重さによって長期に渡る場合もあります。厚生労働省「令和5年病院報告」によると、一般病床の平均在院日数は15.7日です。
胃がんで入院した例
女性45歳 胃に不調を覚え内科を受診。医師から総合病院を勧められ、検査の結果胃がんと診断。他の臓器への転移はなかったが、胃の全摘手術を行った。術後の抗がん剤治療も含め15日間の入院となった。9月3日に入院。入院後3日目に手術。手術後2日間ICUでの治療を受けた後、退院まで個室を希望。空きがあり、10日間は個室を利用し9月17日に退院。この女性の高額療養費の適用区分は上記の表区分ウでした。
医療費の自己負担額:2,200,000円×3割=660,000円
高額療養費の自己負担限度額:80,100円+(2,200,000円-267,000円)×1%=99,430円
上の計算式により、高額療養費を使う前の自己負担額は660,000円ですが、高額療養費制度適用により、99,430円を超える560,570円が支給され、自己負担額は99,430円となります。
高額療養費制度の対象外で入院にかかった費用は、以下のとおりです。
差額ベッド代:6,600円×10日=66,000円
入院セット:550円×15日=8,250円
合計:86,500円
医療費にかかる自己負担額と合算すると185,930円です。他にも入院となると目に見えない出費がかさむものです。退院後の自宅療養を考えると、収入減も考えられます。健康保険や高額療養費制度は、病気やケガの際、強い味方ではありますが、無料になるわけではありません。ある程度の貯蓄、民間の医療保険などの備えが必要ではないでしょうか。
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(寺田 紀代子)
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