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扶養に入るために働き方を抑えるのは得策ではない? 社会保険の適用拡大で、手取りはどれくらい変わるか

MONEYPLUS / 2024年11月14日 11時30分

扶養に入るために働き方を抑えるのは得策ではない? 社会保険の適用拡大で、手取りはどれくらい変わるか

扶養に入るために働き方を抑えるのは得策ではない? 社会保険の適用拡大で、手取りはどれくらい変わるか

2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大され、これまで年収130万円以内に抑えて働いていた方が、勤め先の規模によって扶養から外れるケースが増えています。

扶養から外れると自分で社会保険料を納める必要があるため、手取り収入が減少することに不安を覚える人も多いのではないでしょうか。そのため「扶養内に収めるために働き方を抑えたほうがお得なのでは?」と考えがちですが、必ずしもそうであるとは限りません。その理由を扶養内、扶養外での手取りの違いを試算しながら解説していきます。


社会保険の適用拡大で、手取りはどの程度変わる?

パートで働いているAさん(35歳・東京都在住)は夫の扶養内で働くために、年収130万円の壁を意識して年収115万円前後になるように働いていました。ところが、2024年の10月から社会保険の適用範囲が拡大され、Aさん自身が勤め先の社会保険に加入することになったのです。自分で社会保険に加入するということは、必然的に夫の社会保険の扶養から外れることになります。

夫の扶養から外れて自分で社会保険料を納めることになると、これまで年間約112万円だった手取りが約97万円になってしまいます。(表1参照)

15万円も手取りが減ってしまうのであれば、扶養内で働けるように働き方を抑えた方がお得なのではないかとAさんは考えています。しかし、これは得策ではありません。

なぜなら、改めて扶養に入ろうとすると年収を106万円未満にする必要があり、仮に年収105万円で働いた場合の手取りは約103万円になります。(表1参照)

画像:筆者作成

確かに自分で社会保険料を納めると手取りは約97万円なので、この場合は手取りが6万円増えてお得に感じるかもしれません。

しかし、扶養を外れる前の手取りは約112万円なので、このときと比較すると9万円手取りが減少しているのです。扶養内で働くと社会保険料の負担はなくなりますが、その分働き方を抑えているので収入も減少し、家計への影響もでてきます。ここまで考えると、安易に働き方を抑えるのは適切ではないことがご理解いただけるのではないでしょうか。

社会保険の適用範囲拡大をおさらい

Aさんが夫の社会保険の扶養に入るため、年収130万円以内に抑えて働いていたにも関わらず扶養から外れることになったのは、2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大し、勤め先の従業員数の条件が変更されたからです。

勤め先の社会保険に加入する義務が生じるのは、以下の条件をすべて満たした場合になります。

①勤め先の従業員数が51人以上
②労働時間が週20時間以上(雇用契約時)
③給与月額が8.8万円以上(雇用契約時)
④継続雇用期間(見込み)が2ヶ月以上
⑤学生ではない

2024年10月から①の従業員数が101人から51人に拡大されたことで、対象となる企業が増加しました。Aさんは元々②〜④の条件を満たしていましたが、今回の適用範囲拡大で①の条件も満たすことになり、扶養から外れることになったのです。

同じ年収であるにも関わらず、扶養から外れて社会保険料を納めることで手取りが大きく減少するのであれば家計にも影響がでてきます。そのため「扶養内で働く方がお得なのでは」と考えるのも無理はありません。ですが、手取りが減少したとしても社会保険料を納めることで得られるメリットもあります。

扶養を外れて社会保険料を自分で納めるメリット

扶養内だと「夫の健康保険に無料で加入でき、かつ国民年金保険料の支払いも免除された上で将来の年金受給資格を維持できる」状態で働くことができます。社会保険料の負担がないことが最大のメリットになるため、一見魅力的にみえますが扶養内でいることと、自分で社会保険に加入して保険料を納めるのとでは「保障」の部分で大きく差が生じます。

自分で社会保険料を納めることで得られるメリットは次の2つです。

<社会保険に加入するメリット>
①将来の年金額が増える
②医療保障が充実する

①は厚生年金に加入することになるため、老後に受け取れる年金額が扶養内で働いた場合に比べて増えます。また、遺族年金や障害年金も厚生年金から支給されるため、万が一の場合の備えが手厚くなります。

②は怪我や病気で一時的に働けなくなった場合の傷病手当金や出産のために休んだ期間の収入を補う出産手当金が支給されます。収入の心配をすることなく、安心して休業することができるのです。

扶養内で働いている時はこのような保障はありません。社会保険に加入して保険料を納めることで保障が充実してくるため、手取りの増減だけを見て判断するのではなく、長期的な視点で得られる収入を比較したり生活の安定性を考慮したりすることが重要になります。

何より自分で社会保険を払って仕事をしているという経済的自立が、想像以上に自分の“自信”に繋がったというお声もよくいただきます。扶養を外れて、自分で社会保険を収め始めることで、自身の働き方について、今までにはない視点が手に入るかもしれませんね。

扶養内・扶養外の選択で変わる働き方と総収入

同じ年収115万円でも、扶養を外れて社会保険に加入すると手取りが15万円減少し、扶養内の年収105万円に抑えて働いたとしても、元々扶養を外れる前にあった手取りよりも9万円減少することになるとお伝えしました。

以下のグラフは、Aさんが35〜59歳の定年まで働いた時の手取りと65〜90歳まで支給される年金の総額を示したものです(年金の計算をする際、34歳までは厚生年金ではなく国民年金を支払っていたと仮定します)。

画像:筆者作成

年収115万円で扶養から外れると、扶養内の時と比べて手取りは少なくなりますが、厚生年金の上乗せがあるため総収入は扶養を外れた方が上回る形になります。ただし、これは将来を見据えた結果であるため、Aさんの家計で年収115万円の扶養内で働いていた時と同じ手取りが必要な場合は、年収134万円で働かないと同じくらいの手取りにはなりません。(表1参照)

では、年収115万円と年収134万円の働き方にはどのような差があるのかを確認してみましょう。Aさんが平日5日、東京都の最低賃金1,163円でパート勤務していたとすると、年収115万円の場合の1日の勤務時間は4.1時間です。同じ勤務条件で年収134万円で働くとなると、勤務時間は4.8時間になります。1日0.7時間働く時間を増やすことができるのであれば、扶養内で働いていた時と同じ手取りで、かつ将来の年金や医療保障が充実した環境で安心して働くことができます。

もし、働く時間をこれ以上増やすことができないのであれば、時給が高い仕事に変える方法もあるでしょう。同じ平日5日で4.1時間勤務する場合、時給が1,362円だと年収134万円になります。このように、同じ年収であっても働く時間や時給の条件を変えることで働き方を各家庭の状況に合わせて調整することが可能です。

扶養に縛られすぎず各家庭にあった最適な働き方を見つけよう

社会保険の扶養内で働く方が、負担が少なく一見お得に思えることは確かです。しかし、「扶養内で働く」という選択が必ずしも最適であるとは限りません。扶養を外れて社会保険料の支払いが増えたとしても、厚生年金に加入することで将来の年金額が増える点や怪我や病気・出産で働けなくなった時の保障が充実するなど、長期的な視点で得られるメリットもあります。

また、扶養内で働くとなると必然的に「働ける時間の上限」が決まります。そうなると、会社側も責任のある仕事を任せにくくなるためキャリアアップの機会を逃す可能性も高くなります。手取りの増減という目に見える変化だけでなく、今後の自分自身のキャリアを考えたときに「どんな働き方をしていたいのか?」も踏まえて、扶養内で働くか扶養外で働くかを選ぶことが大切です。

今回のように具体的に計算してみると、自分ごととして考えやすいのではないでしょうか。社会保険の適用範囲の拡大という外的要因で、扶養を外れてしまった方は、是非この機会に「扶養内で働く」という考えを一旦手放して、自分のキャリアや家計の未来を考えてみましょう。

扶養という制度に囚われすぎず、“うまく活用できるならする”位に捉えておいた方が、今回の様な制度拡大時にも慌てずに済みそうですね。

【監修】伊達有希子/ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)

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(栗山美希)

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