60歳、貯蓄0円からの老後資産作りは本当に可能なのか。3つのパターンを検証
MONEYPLUS / 2024年11月19日 7時30分
60歳、貯蓄0円からの老後資産作りは本当に可能なのか。3つのパターンを検証
60歳代世帯における金融資産保有状況を見ると、3,000万円以上という方が20%以上いる一方で、同程度の割合で資産を保有していないと答えた方もいます。就労収入にも限界があるなか、貯蓄0円からの老後資産作りは本当に可能なのでしょうか?
「資産を創るための」の行動が必要
金融広報中央委員会の調査(2023年)によると、世帯主が60歳代の世帯における金融資産保有額は平均で2,026万円となっています。しかし、詳細を見ると、3,000万円以上あると答えた方が20%以上いる一方で、まったく持っていない「非保有」と答えた方も21%という結果になりました。つまり、老後資金の準備状況には大きなバラツキがあるといえるのです。
ただでさえ老後に不安を抱えている方が多く存在する中、老後を目前に控え蓄えがないとすると暗澹たる気持ちになってしまうのも無理はありません。
そのような不安に配慮してか、「60歳からでも無理なくお金が貯まる」といったようなタイトルの書籍や記事など、最近は多く見受けられます。それを見ると、現時点で貯蓄がまったくなくてもなんとかなるのかと思ってしまうかも知れませんが、なんとかなるわけがありません。書籍を手にとってみただけではなんともならず、「資産を創るための」の行動をおこさないとなんともならないのです。
金融資産保有状況の違いで3つのパターンを検証
では、どのような行動変容が必要なのか? 60歳だからとあきらめずに、定額での積立をiDeCoとNISAを利用して実行する「積立期」、その後はしばらく運用のみを継続する「運用期」、そして取崩を開始する「取崩期」の確保、そんなお金の「三段活用」が必須です。この三段活用の具体例として金融資産保有状況の違いによって3つのパターンを検証しました。
一つ目は、退職金をNISAで運用するパターン。退職金を5年に分けて投資し75歳までに2000万円を作ります。
二つ目は、65歳まで就労を継続し、その収入からiDeCoに積立を行うパターン。退職金と公的年金の繰下も利用し、実質1800万円のメリットを享受します。
三つ目は、70歳までの就労を見込みながら、NISAとiDeCoを活用し、60歳時点で貯蓄が0円であっても、新たに1000万円を確保します。
1. 退職金をNISAで運用するケース
では、一つ目のケースから詳しく見ていきましょう。
ここでのポイントは退職金を一気に投資せず月20万円ずつNISAで積立をします。これにより時間分散を図ります。多くの方が実感している通り、市場の動きは平坦ではありません。ときに大きく上下することもあり、投資のベストタイミングを計ることは誰にもできません。
そのため、まとまった資金である退職金であっても、小分けで投資をするのがベターです。20万円の積立を5年間継続することにより投資元本は1200万円、そこで積立を終了します。
運用利回り5%で仮定すると、5年間の積立期間で資産は1,360万円となります。1,200万円の元本に対し160万円ほどの利益です。NISAであればこの利益から税金が引かれないので大きなメリットとなります。
今回は積立だけで終わらず、そのまま10年運用のみを継続させます。この間も同様に運用利回り5%を得ることができれば75歳時点での資産は2,000万円以上に膨らみます。75歳以降この資産を取り崩します。
75歳時点でNISAの資金を全額売却して0%金利の預金などにおいて毎月少しずつ引出をすると91歳8ヶ月で資金が尽きてしまいます。しかし、NISAで資金を運用しながら少しずつ売却して取り崩すと5%運用であれば110歳まで資金が枯渇することはありません。
このように「積立期」のあとで一定期間「運用期」をもうけ、さらに運用しながら少しずつ解約していく「取崩期」の三段活用を実行することで資産寿命を延ばすことが可能です。
2. 65歳まで就労を継続、その収入からiDeCoに積立を行うケース
二つ目のパターンを見ていきましょう。ここでのポイントは65歳までの就労により生活費を確保します。その間退職金を運用し、さらに公的年金を繰下により不足しがちな資金を年金でカバーします。
まず就労継続する5年間は、節税も兼ねてiDeCoで会社員の掛金上限である月23,000円を積立します。65歳になると受け取りが可能になりますが、運用は75歳まで継続します。仮に5%運用が可能であれば75歳時点での資産は254万円です。
iDeCoの場合、NISAのように口座をずっと保有することができません。75歳までに一括で受け取るか、分割で受け取るかを決定します。
分割の場合、年金保険のような商品に移し換えて5年や10年の確定年金とすることもできますし、投資信託での運用を継続しながら取崩を行う設定もできます。例えば10年で取崩をする場合は、1年目は資産の10分の1を解約し、2年目は9分の1を解約し、10年目で全部の資産を解約するといった具合です。運営管理機関によって取り扱いは異なるものの、事前に設定することによりストレスなく資金を受け取ることができます。
一方、75歳という年齢は公的年金の受け取りもあるので、iDeCoを分割で受け取るとさらに課税される金額が大きくなることも考えられます。課税される金額が多くなるとその分負担する社会保険料、さらに医療費や介護費の自己負担割合が高くなることがあります。そのような場合は分割受け取りを選択せず一括受け取りの方が税金等の負担を抑えることが可能です。
60歳からの積立期間である5年間は、退職所得控除を計算する上での勤続年数として読み替えられます。5年x40万円=200万円ですから、254万円の資産のうち課税対象は54万円となります。
iDeCoの場合、この54万円もさらに2分の1され年金収入とは切り離して課税されるので結果所得税は13,500円、住民税は27,000円、合計40,500円の納税で済みます。退職金扱いなので、254万円は社会保険料の算定対象にもなりませんから、この場合、分割受け取りよりも一括受け取りの方が有利に受け取れます。
70歳までの就労が可能であれば、公的年金は70歳まで繰下げます。それにより65歳時点の年金額より1.42倍増額された年金を受け取ることができます。
額面ベースとはなりますが、一般的な会社員の例で70歳から90歳まで20年間の受け取り総額は、65歳から受け取る年金総額より600万円も多く受け取ることが可能です。
仮に退職金から500万円でも運用に回せるのであればNISAを利用します。ここでも一括投資ではなく月20万円の積立投資を実行します。5%の運用が可能であれば25回の積立を終了時点で資産は527万円です。それを75歳まで運用を継続すると1000万円ほどに資産を増やすことができます。
つまり、就労収入と退職金の積立と運用、そして公的年金の繰下を実行することで、1800万円ほどのメリットの享受が可能、これが二つ目の試算です。
3. 70歳までの就労を見込みながら、月々5万円の積立を行うケース
三つ目のパターンを見ていきます。
iDeCoは65歳まで月23,000円を積立、NISAには、65歳まで月27,000万円を積立て、それ以降5年間はiDeCoが終了した分をNISAにまわし5万円を積立てます。
前述の解説の通りiDeCoを積立かつ運用を継続すると75歳時点で254万円の資金となります。NISAは途中で積立を増額しかつ75歳まで運用を継続すると733万円ほどになります。合計1000万円近い資金を60歳から創ることが可能です。なお、NISAの投資商品を解約して引き出すとき、利益に対して税金はかかりませんし、引き出す資金は収入として課税されることもなく、社会保険料の算定にも該当しません。
公的年金は65歳から受け取り、生活に不足する分はできるだけ長く働くことでカバーし、75歳からは資金の取崩を開始するシナリオであれば、75歳で運用を終了し0%金利の預金で取崩を開始したとしても月3万円の取崩を100歳まで継続できます。
iDeCoとNISAでの運用は投資信託を利用します。日本と外国の株式と債券それぞれ4分の1ずつ均等に投資をしている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用実績が年率4.26%ですから5%運用を期待した場合、もう少し株式への投資配分を高める必要はあるでしょう。
60歳からでも資産形成はできる
確かに60歳という年齢は、多くの会社が「定年」と定めていることもあってか、これからの資産作りは無理だとあきらめムードの方も少なくありません。
しかしながら、60歳からでも「積立」「運用」「取崩」とお金の三段活用を実行する期間を設けることにより、資産形成は充分可能であると筆者は考えます。
机上の空論と一笑に付すのもみなさん次第です。しかし、「老後の資産作りのためになにか始めなければ」と思っている方がiDeCoやNISA、投資信託もしっかり理解した上で行動を起こしていただけましたら幸いです。
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