九州の面積にもおよぶ所有者不明土地問題…じつはあなたも無関係ではない?
MONEYPLUS / 2024年12月22日 7時30分
九州の面積にもおよぶ所有者不明土地問題…じつはあなたも無関係ではない?
いま、日本では所有者不明土地の問題が深刻であるといわれています。
所有者不明土地とは、言葉の通り「所有者が誰なのか、わからなくなってしまっている土地」です。もともとは誰かの土地であったものの、その土地所有者が亡くなってから相続手続きが行われなかったなどの理由で、相続人が誰なのかを特定することも困難になってしまい、結果的に所有者不明状態に陥っているのです。
この所有者不明土地の面積を合計すると、2016年の調査時点で九州の土地面積を上回り、2040年には北海道の面積に匹敵する面積が所有者不明土地になると予想されています。都市部の地価は高騰している一方で、維持管理も整備もされずにどうにも手が出せない無価値状態になってしまった土地が、これだけ日本国内に散在しているという著しい歪みが生じています。
この記事では、この所有者不明土地がもたらす影響や、日常生活にも及んでいる変化についてご紹介します。
所有者不明土地は何が問題?
所有者不明土地自体はずっと昔から存在していたものの、この認知度が大きく高まったきっかけは東日本大震災でした。
震災復興のために、新たな道路などの公共施設や災害対策整備が必要となった一方で、その工事にあたって「整備したい土地の所有者が不明」という場所が続出し、用地取得に時間を要したり、工事がスムーズに進まなかったりなどの問題が多発したのです。
例えば、相続登記が行われていない土地では、その土地の使用や売却についての権限を持つ存命の所有者(相続人)を特定しなければなりません。しかし、登記簿に載っている最新の土地名義人が昭和初期の所有者であった場合には、ひ孫や玄孫(ひ孫の子供)の世代にまで相続人が増えており、関係者が100人を超えているケースも珍しくありません。
こうなると、用地取得をするにも相続人全員の名前や居場所を特定し、全員に交渉をして承諾を取り…と、ちょっと考えただけでも気が遠くなるような作業が必要になるのです。
毎年のように発生している激甚災害により、防災意識も年々高まり、全国各地で災害対策も積極的に取り組まれています。しかしその裏では、所有者不明土地がその整備を妨げ、思うように対策が進んでいない場所も多くあるのが現実なのです。
所有者不明土地をなくすためには?
この深刻な状態を受けて、国も真剣に対策を検討しています。その具体例を幾つかご紹介します。
1.相続登記の義務化(罰則の新設)
これまで、不動産の所有者が亡くなった際の名義変更手続き(相続登記)は、事実上任意の手続きとされていました。これが、2024年4月1日から義務化され、手続きを一定期間怠ると、過料が科されるよう改定されました。
これは、身の回りの財産の中で最も価値があると思われる不動産であれば、その所有者が亡くなったとしても、その相続人は積極的に相続登記をして、自ずと権利を守る動きを取るだろうという考えも、義務ではなかった背景の一つと予想されます。
しかし、実際には価値が見えやすい都市部の住宅地等であればまだしも、山奥にある場所も分からない山林の一角や、雑草が伸び放題で放置状態の農地など、価値を見出しにくい不動産については、積極的に相続登記をしようという意識が芽生えにくく、結果として相続登記の必要性についての意識の希薄化が進行している側面もありました。
そのため、これを義務化することにより、不動産の所有者名義を存命の相続人にすることを促し、所有者不明状態の解消を目指していくとされています。
2.住所変更登記の義務化(罰則の新設)
前述の相続登記の義務化と同様に、住所変更登記についても罰則が新設されました。これまでも、原則として転居した際には、不動産所有者として登記されている自宅住所の変更登記が必要とされていましたが、2024年4月1日からはこれが義務として厳格化され、正当な理由がないのに申請をしなかった場合には、過料が科されることとなりました。
これも、有事の際などにスムーズに連絡が取れるようにする狙いがあるものと読み取れます。
3.相続土地国庫帰属制度の新設
相続登記を義務にしたものの「使い道もない、売れる見込みもないような要らない土地を相続するのは嫌だ」といった所有者の救済措置として、相続した要らない土地を、国が有料で引き取ってくれる制度が新設されました(2023年4月27日施行)。
これまでは、新たな買い手が見つからない限り、自分の子や孫などから反対されようとも強制的に相続させ、それを永遠に繰り返していくしか方法はありませんでした。そのため、こういった背景も、相続登記を敬遠し、所有者不明土地を生み出す温床として課題認識されていたのです。
しかし、この制度によって、有料ではあるものの「処分ができる」という選択肢を取ることができるようになりました。一方、国が引き取る審査基準は厳しく、審査が通らない土地も多いために評判はいまいちという側面もあります。しかし、不要な土地を相続した所有者にとっては有力な救済措置として、国としても所有者不明土地になる前に国有地化できるという点から、今後が期待されている制度です。
4.所有不動産記録証明制度
親名義の不動産が、全国のどこにあるか一括で確認ができる証明書を発行してもらえる制度が始まります(2026年2月開始予定)。
これまで、故人の親が不動産の権利書をきちんと保管していたならばまだしも、権利書を紛失している場合や、家族に伝えず所有していた不動産があった場合には、その不動産がどこにあるか把握することは困難でした。
そのため、災害や事故等をきっかけに、ある日突然「あなたは、〇〇の土地の所有者だ」と、寝耳に水のような便りが届いたり、相続登記義務化による過料を科されたりする可能性を払拭できない状況だったのです。
自分が知らない”親の所有している不動産”を見つける方法は、市町村役場の固定資産税を管理している部署へ、親名義の不動産一覧が見たいと申し出れば、名寄帳(なよせちょう)という書類で確認をすることができます。しかし、例えばA市役所で確認できる情報はA市内の不動産のみであるため、B市の不動産はB市役所、C村の不動産はC村役場…と、極論をいえば全国1741市区町村すべてに照会をかけなければ、もれなく確認することは不可能でした。
この制度が始まることにより、親がどんな不動産を所有していたか、相続登記が必要かなどの調査について、効率的に実施できるようになると期待されています。
一人一人ができること
所有者不明土地は、一見すると日常生活には縁のない「対岸の火事」とも思えますが、むしろ「明日は我が身」ともいえる深刻な問題です。
もしかすると、名前も聞いたことのないほどの遠い先祖名義で手続きが止まっていた不動産を突然相続することになることもあるでしょう。また、お隣から土砂が流出してきて困っているのに、隣地が所有者不明で、対処を求めることも、勝手に直すこともできないような場面に遭遇するなど、いつ所有者不明土地問題に巻き込まれても不思議ではない状況に直面しているのです。
このようなリスクから自分の身を守る意味でも、改めて家族・親族間で相続登記が終わっていない不動産がないかを話す機会を設けるなどして、早めの対策を講じることが非常に重要であるといえるでしょう。
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(小林弘典)
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