50-60代夫婦に大きく影響! 遺族年金に関わる年金繰下げ問題が改正の方向へ
MONEYPLUS / 2024年12月25日 7時30分
50-60代夫婦に大きく影響! 遺族年金に関わる年金繰下げ問題が改正の方向へ
年に一度送られてくるねんきん定期便。受け取りを65歳より遅らせると金額が増える「繰下げ受給」の仕組みを周知する目的もあり、50歳以上に届くねんきん定期便には70歳/75歳の見込額が記載されています。
老後資金に不安がある人にとって、繰下げは対策の一つとして有効ですが、現行制度では繰下げをしたくてもできない人がおり、改正の方向へ進んでいます。
遺族年金に関わる新たな改正案が浮上
2024年7月に厚生労働省が発表した年金制度の改正案について過去の記事で触れましたが、2025年の年金制度の改正に向けて厚生労働省の社会保障審議会(年金部会)での話し合いが継続しています。
直近の年金部会は12月10日に開催され、メディアで大きく話題になっている「年収の壁」についての議論が重ねて行われました。いっぽうで、あまり報道されていないものの、アラカン世代に大きく影響を及ぼす遺族年金の事項について、新たに話し合いが行われました。
12月10日の年金部会で配布された資料「遺族年金制度等の見直しについて②」の「遺族厚生年金受給権者の老齢年金の繰下げ申出の見直しについて」に詳細が記されています。この改正はアラカン世代にとって朗報となるため、現行制度の問題点と改正案について詳しくお伝えします。
現行制度の「繰下げできない問題」とは
現在、遺族厚生年金をもらっている人は、自身の老齢年金(基礎(国民)年金と厚生年金)の受け取りを遅らせて増額する「繰下げ」ができません。具体的な事例として、Aさん(59歳、会社員)のケースを取り上げます。
Aさんは40代で配偶者である夫を亡くし、遺族厚生年金を受け取っています。夫が存命中は親の介護もあり専業主婦でしたが、年金だけでは心もとないため、会社員として働き始めました。63歳まで厚生年金に加入して働いた場合の老齢厚生年金額を年金事務所で試算したところ、65歳以降のAさん自身の老齢厚生年金額が受給中の遺族厚生年金額を上回ることが分かりました。
しかし、年金事務所で「遺族年金の『権利』を放棄することは法律上できないため、権利がある場合は、たとえ遺族年金を受け取っていなくても、自身の老齢基礎年金および老齢厚生年金の繰下げはできない」と説明されました。
Aさんは老後資金が十分ではなく、今後もできるだけ長く働き続けたいと考えていますが、持病もあり、いつまで働けるか不安を抱えています。60歳を目前に、体力や気力の衰えも気になっています。年金を繰り下げて増額できれば、年金受給までの期間は自身の資産を取り崩すことで対応できると考えていましたが、現行制度では不可能です。
女性の就労が増えて、夫婦ともに厚生年金に加入するケースは増えています。厚生年金の適用拡大によりパート主婦の加入促進も要因のひとつと考えられます。このような状況の中、Aさんが直面した「繰下げできない問題」を解消するため、制度の見直しが進められることになりました。
具体的な見直しはどうなるの?
12月10日の年金部会では、以下の2点が検討事項として示されました。一つずつ詳しくみていきましょう
1)老齢基礎年金については、繰下げ申出を認めることとしてはどうか。
遺族厚生年金を受け取っていても、自身の老齢基礎年金を繰下げできることになります。特に、国民年金保険料の納付期間に未納・猶予・免除などがあり満額受け取れない人にとって、繰り下げして増額できるメリットは大きいでしょう。
2)老齢厚生年金については、一定の条件を満たす場合において、繰下げ申出を認めることとしてはどうか。
おもに、2つの状況を想定しています。
1つ目の状況は、老齢厚生年金の受給権を獲得する前、つまり、65歳になる前に遺族厚生年金の受給権が発生した場合です。現行制度では、遺族厚生年金を受け取らずに、老齢厚生年金の繰り下げを行うことはできません。改正により、遺族厚生年金を受け取るかどうかを選択できることになり、受け取らなければ、老齢厚生年金を繰り下げできるようになります。
ただし、前述のAさんの事例のように、配偶者の死亡時点で就労をしていなければ、遺族厚生年金を受けとらない選択をするのは実際のところ厳しいのではないかと個人的に思うところです。
2つ目の状況は、老齢厚生年金の受給権の発生後、つまり65歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生した場合です。現行制度では、繰下げ待機中に遺族厚生年金の受給権が発生すると、繰下げが中断し増額が確定します。また、遺族厚生年金は老齢厚生年金相当額が支給停止となります。改正により、遺族厚生年金の受け取りを選択でき、受け取らなければ引き続き老齢厚生年金を繰り下げできるようになります。
この見直しによって、遺族厚生年金を受け取る人も、自分の状況に応じて年金の受け取り方を選べるようになる可能性が広がることは間違い無いでしょう。今後、見直し案がどのように着地するか、引き続き注目したいと思います。
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(三原由紀)
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