ソニーGによる買収報道でKADOKAWA株が急騰、そして急落…投資家はどう動けばいいのか
MONEYPLUS / 2024年12月26日 7時30分
ソニーGによる買収報道でKADOKAWA株が急騰、そして急落…投資家はどう動けばいいのか
2024年11月19日、KADOKAWAがソニーグループによる買収協議の報道を受けて株価が急騰。しかし、その後の第三者割当増資の発表で急落しました。このような急騰急落時に、投資家はどうするのがよいのか、その背景と対応策を解説します。
KADOKAWA株の急騰急落はどのように起こった?
11月19日、ソニーグループ(6758)が、KADOKAWA(9468)の買収に向けた協議に入ったと報道されました。もともとソニーグループは、KADOKAWAの株式を約2%保有しているほか、KADOKAWAの子会社にも出資をしており、両者は非常に親和性の高い関係にあります。
ソニーグループは、ヒット作の有無で業績が大きく左右される収益構造を改善したく、コンテンツを多く抱えるKADOKAWAを買収できれば、まさに鬼に金棒といえます。ここ数年で、日本の作品やアーティストに対する海外からの注目は、かつてないほど大きくなっています。KADOKAWAとのマリアージュにより、ソニーが再び世界でトップ企業と呼ばれる日が来るかもしれません。
19日の取引時間中にこの報道が伝わり、KADOKAWA株は制限値幅いっぱいのストップ高となり、前日比23%高の3,745円で取引を終えました。ソニー株は1%高で終えています。買収する側は費用がかかりますので一時的に利益が圧迫されます。一方で、買収される側は、ほとんどの場合は、現在の株価より高い株価で買い取ってくれますので、それを期待して株価が急騰するのは当然といえます。
しかし、12月19日にソニーグループがKADOKAWAを買収するのではなく、第三者割当増資を引き受けると発表。これによりKADOKAWAの株式を10%持つ筆頭株主になりますが、既存の株主から株を買い取るわけではないので、買収を期待していた株主にとっては、まったく聞きたくなかったお知らせです。発表があった翌日、KADOKAWAの株価はストップ安、翌々日も前日比15.6%安で、結局買収されるかもというニュース報道がある前の株価まで行ってこいとなりました。買収を期待して高値で飛びついた投資家は、地団駄を踏んでいることでしょう。
ニュースに振り回されないためには
では、このような報道があった場合、投資家はどう行動するべきなのでしょう?
株式市場には「噂で買われ、事実で売られる」という言葉があります。企業買収や、業務提携、経営統合などのニュースは、投資家の期待を煽り、株価を一時的に押し上げる傾向があります。さらに、SNSの発達により未確認情報が拡散されたり、AIやアルゴリズムが特定のキーワードに反応して、大量の注文を出したりすることにより、株価の急変を助長します。そこに、「今買わないと乗り遅れる!」と焦る群集心理が乗っかると、株価は常識を超えて動いてしまうのです。
こういったニュースに振り回されないためには、まずは「冷静」であるべきです。SNSやネットニュースではなく、公式発表を確認しましょう。今回の場合、11月20日にKADOKAWAは「一部報道について」というお知らせを出しています。
内容は、
・「報道は当社が発表したものではない」
・「初期的意向表明は受領しているが、決定事項はない」
といったものです。
11月19日の報道後、多くの投資家が「今買わなければ利益を逃す」という心理にかられました。しかし、公式発表を待ってからでも十分に対応はできたはずです。もし、翌日の公式発表を確認していれば、急騰した高値で買ってしまうことは避けられたでしょう。
もちろん、このあと正式に買収が決定する可能性もありますが、実際そうなったとしても、すでに株価は急騰しているので、そのニュースは織り込んでいることになります。実際に買収が発表されたとしても、ここからさらに上昇する可能性は低く投資妙味にかけます。
情報リテラシーの大切さ
情報の発信元が複雑化し、なおかつ拡散スピードがはやい社会において、投資家にとってもっとも重要なスキルは、「正確な情報」を入手し、それを冷静に分析する能力かもしれません。
そのためには、
企業のIR(投資家向け情報)やプレスリリースを確認する
2. 複数の情報源を比較
ひとつのニュースソースだけに頼らず、複数の信頼できる情報源をチェックする
3. SNS情報に注意
SNSは情報が早い一方で、誤情報も多く含まれため、かならず情報元を確認する。
この3点をつねに意識しておきましょう。
基本的には株価は業績に連動する
株価は、短期的にはこういった雑音にふりまわされますが、長期的には業績に連動します。この基本を抑えていれば、突発的な報道で、無駄に飛びついたり、売らなくていいのに売ったりといった、コスパの悪い投資行動は避けられます。
画像:KADOKAWA「2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
KADOKAWAの業績を見てみると、前期2024年3月期は、①営業利益18,454(百万円)で、②前期25,931(百万円)と比べて、③-28.8%の減益着地です。
画像:KADOKAWA「2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
さらに今期2025年3月期も、①16,500(百万円)で②前年比-10.6%の減益予想です。
もともと見通しは明るくありませんでしたが、この後、8月14日には、営業利益を15,600(百万円)に下方修正しているため、前年度からの減益幅は当初より広がっています。下方修正の要因は、大規模サイバー攻撃による影響で、今後、さらに広がる懸念もくすぶります。
こういった業績予想の中での買収報道は、すでに保有していた人にとっては、売り逃げるチャンスになりましたが、飛びついて買う材料ではありません。うっかり飛びつきそうになった場合も、業績を確認すれば、いったん様子見といった慎重な行動が取れると思います。
あらためて、12月19日にKADOKAWAが出したお知らせを見ると、ソニーグループとは、資本業務提携を行い、第三者割当てで新株発行を行うとあります。新株発行のため、一株益の希薄化懸念で売り注文が殺到し、ストップ安まで売り込まれましたが、実際にはソニーグループが発行した株を引き受けるので、市場で取引されるわけではありません。
市場が先回りで期待していた買収ではありませんでしたが、資本・業務提携によりソニーグループとのシナジーは期待できます。今回の調達資金のうち200億円を新規IPの創出・開発・取得にあて、297億円をIPのグローバル流通の強化に充てると発表されています。どちらもソニーグループとの協力を視野に入れての施策なので、うまくいけば今後のKADOKAWAの業績が飛躍的に改善すると期待できます。
調達資金の支出予定時期は、2025年1月から2030年3月とあるので、早ければ来期予想には織り込まれるかもしれません。株価は、元の位置まで下げたので、買いたい気持ちも湧きますが、新年度予想を確認してから、投資を検討するくらい慎重でいいと思います。
※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。
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(藤川 里絵)
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