口座凍結によりお金を引き出せなくなる? NISA契約者が認知症になった時に起こること
MONEYPLUS / 2025年1月10日 11時30分
口座凍結によりお金を引き出せなくなる? NISA契約者が認知症になった時に起こること
2024年から大幅に改正されたNISA。それに伴い利用者が増えましたが、認知症のことまでしっかりと考えていますか?
NISA契約者が認知症になってしまうと、自分で資産の処理ができないため、今まで貯めたお金が使えなくなってしまいます。そうなる前に5人1人がなるといわれている認知症(独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所調べ)に対して、事前にやるべきことをFPがお伝えします。
新NISAの落とし穴! 認知症になった時に起きること
2024年から大幅な制度拡充をした新NISA。非課税期間が無期限になることや投資枠の拡大でさらに利用しやすくなりました。これを機にNISAを始めた人も多いでしょう。2024年10月の段階で、新NISA制度の利用率は約60%となり、以前と比べて急速に利用者が増えています。
では、もしNISA利用者が認知症になった場合、口座はどうなるのでしょうか? 銀行や証券会社は判断能力に疑いがある顧客とその資産を守るために、口座を凍結します。一度口座を凍結されると、本人やその家族であってもお金を引き出すことができなくなります。また定期預金の解約、株・証券の売買もできなくなります。
認知症だと銀行が気づくタイミング
では、銀行が認知症と気づく(事実を知る)時はどういう時でしょうか。
①家族が本人の認知症について相談をした時
家族から「預金者が認知症になったため、代理で手続きをしたい」という申し出があると、銀行は口座を凍結してしまいます。
②本人が窓口に行った時
本人の銀行窓口での言動や行動を元に、銀行員が判断能力の低下に気付くことがあります。通帳や印鑑を頻繁に無くす、同じ内容について何度も窓口で尋ねる、なども該当します。
③詐欺と疑われるような多額の出金や振り込みがあった時
詐欺だけでなく、家族が本人のカードを使って多額の出金をしている場合も疑われます。この場合本人が銀行に行かなくても、取引履歴によって判明することもあります。
これらをきっかけに、銀行が判断能力の低下を認めた場合、口座が凍結されてしまいます。口座が凍結されてしまうと、せっかく今までNISAで築き上げた資産を使うことができなくなってしまうのです。
認知症を発症し、口座が凍結された「後」の対処法
認知症になり口座が凍結されてしまった場合、どのようにすればお金を引き出すことができるのでしょうか? その唯一の方法が成年後見制度の「法定後見制度」です。逆にいうと、「法定後見制度」以外に、お金を引き出す方法はありません。
法定後見制度とは、認知症により判断能力が不十分となった方を法的に保護・支援する制度のことをいいます。預貯金や不動産などの財産管理について、成年後見人からサポートを受けることができます。この制度を利用することで、認知症になったとしても、財産を動かすことができます。
法定後見制度の注意点
法定後見制度にはいくつかの注意点があるので、ここでまとめておきます。
①家庭裁判所での申し立てが必要
法定後見制度は家庭裁判所への申し立てが必要です。そのため、申し立てから実際の利用開始まで約1~4ヶ月かかります。すぐに資金が必要な場合は、本人の代わりに生活費や医療費などを立て替えなければならない可能性があります。
②途中でやめることができない
法定後見制度は一度利用を開始すると、原則として途中でやめることができません。やめることができるのは、本人の判断能力が回復して、本人自身で財産を管理できるようになった場合です。
③後見人になれる人が限られている
後見人は家庭裁判所が選任するため、家族が選ばれるとは限りません。むしろ親族が選任されることは2割ほどで、8割は司法書士や弁護士などの専門家が選ばれます(厚生労働省「成年後見制度の現状」参照)。そして専門家が選ばれた場合、報酬を支払う必要があります。一般的に、後見人への報酬額は月額2〜6万円と安い金額ではなく、被後見人が亡くなるまで支払い続けないといけません。
このように、万が一に口座凍結された時の対処法はあるにはありますが、デメリットや利用制限も多く、金銭的な負担も少なくないということを覚えておきましょう。
口座凍結への対策方法
ここからは、認知症になり口座が凍結されてしまう前に対策できる方法をお伝えします。
①任意後見制度を活用する
先に述べた法定後見制度の他にも、任意後見制度というものがあります。任意後見制度とは、本人の意思能力がある時に、本人が希望する人を任意後見人として指定することができます。公正証書で「任意後見契約」を交わし、認知症などで後見人が必要になった時に、家庭裁判所に利用開始の申し立てをし、「任意後見監督人」の選任を経て利用できるようになります。
任意後見制度は、事前に本人が希望する後見人を指定でき、双方の合意があれば定めることができます。家族や親族など、信頼のおける人を任意後見人に指定しておけば、万が一認知症になって口座が凍結した後も、財産管理を任せることができます。しかし、任意後見人を監督する「任意後見監督人」の選任が必須であり、それに対しての報酬支払いが発生します。法定後見人と同様に費用負担があることは覚えておきましょう。
②家族信託を利用する
近年話題になっているので、名前だけは聞いたことがある方も多いかもしれません。家族信託とは文字通り、本人の財産や運用を家族に託すことができる仕組みのことです。具体的には、財産を託す委託者(親)と、財産を託され管理や運用を行う受託者(子)の間で信託契約を結びます。
その後、信託財産管理用の銀行口座を開設します。受託者は自分の財産と信託財産を分別管理する義務があるためです。家族信託は成年後見制度と違って、裁判所を経由しない制度となります。信託契約の内容も柔軟に定めることができるため、成年後見制度と比べると自由に財産管理ができます。また成年後見制度のように専門家に必ずしも依頼する必要がないため、比較的低コストで済むことが多いのも特徴の一つです。
事前対策をすることが肝心、保険を活用するのも一つの手
ここまで認知症による口座凍結とその対策について解説しました。口座凍結された後だと、法定後見制度を利用するしか方法がありません。家族信託や任意後見制度など、事前に対策をすることが大切となります。また保険を活用するのも一つの手です。保険には無料で指定代理請求特約をつけることができます。これにより認知症になったとしても、あらかじめ指定しておいた指定代理請求人が保険金の請求をすることができます。資産運用するタイプの変額保険であれば、NISAのように投資をしつつ、認知症になった時の対策をすることもできます。もちろん新NISAで運用をした方が、手数料が低いため効率がいいのは確かですが、万が一に備えて、一部を保険で運用することも選択肢の一つとして覚えておくといいかもしれません。
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(松本 耕太郎)
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