次期エクストレイルやキックス、アリア導入で狙う日産の今後のSUV戦略とは?
MōTA / 2020年8月16日 10時50分
新型キックスや電気自動車のアリア、そして次期エクストレイルなど、市場で人気のSUVモデルの拡充を含む商品ラインナップの刷新で狙う業績回復。さらには電気自動車の本格普及など、日産の今後の展望をカーライフ・ジャーナリストの渡辺 陽一郎氏が徹底解説する!
かつては国内販売台数ランキング2位だった日産も、今は5位まで後退
日産は2007年頃まで、メーカー別国内販売台数ランキングがトヨタに次ぐ2位だった。ところが2008年にリーマンショックによる世界的な経済不況が発生して、国内市場に対する取り組み方も激変。商品開発に影響が生じて、2011年以降の日産は、国内では新型車を1~2年に1車種しか発売していないほど。日産の国内販売台数(暦年/軽自動車を含む)を見てみると、2007年は72万973台だったが、2010年は64万5320台、2015年は58万9046台、2019年は56万7617台と減少。12年の間に国内販売台数を21%も下げているのだ。
国内販売ランキング順位も、それまでの2位から、トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツに次ぐ5位まで後退。現在は軽自動車が新車販売台数の40%近くを占めており、スズキとダイハツがシェアを拡大させている。2~5位の販売台数は接近しており、販売台数を21%落とすと順位も大幅に下がってしまうのだ。
当時の商品企画担当者に、国内で発売される新型車が減った理由を尋ねると「最近は市場の規模や将来性に応じて、新型車を投入するようになった。その結果、日本では新型車が減った」と回答。
つまり国内市場を客観的に捉えると、中国、北米、新興国と呼ばれるアセアン地域などに比べて、市場の規模と将来の伸び率が小さく、新型車が1~2年に1車種となってしまったのだ。
2023年度までに商品ラインナップを大刷新
日本のユーザーから見れば「日産はどこの国のメーカーなのか!?」という話だが、経営判断としては理解できる。今では日産に限らずダイハツを除いた各メーカーともに、世界生産台数の80%以上が海外だ。日産も国内に相応に力を入れていた2007年の段階で、世界生産台数に占める海外比率は79%に達しており、2019年は89%まで高まっている。
しかしカルロスゴーン元会長が逮捕されると、日産内部から「国内市場をもっと大切にすべき」という声が聞かれるようになったのだ。
さらに2020年3月期の連結決算で、6712億円の最終赤字に。この時、業績を下げた理由のひとつに、設計の古い車種の増加が挙げられた。そこで日産は、2020~23年度にかけて、商品ラインアップを刷新すると発表。
2023年度までに、先ごろ発表されたアリアを含む電気自動車を国内にも2車種投入するなど、新型車を積極的に発売する方針だ。
この主力がSUVになる。日本では2020年6月に発売されたコンパクトサイズのキックスに加えて、電気自動車のアリア、エクストレイルもフルモデルチェンジを実施。このほかコンパクトカーのノート、スポーツカーのフェアレディZなど、長らくモデルチェンジをしてこなかったクルマたちを順次刷新する。
電気自動車SUVのアリア、実際どこまで使えるのか?
今はSUVの人気が高く、新車として売られるクルマの約15%を占める。ミニバンと同等で、軽自動車の37%、コンパクトカーの25%に次いで多いカテゴリーだ。そこで各メーカーともSUVの選択肢を増やしたが、日産はキックス(それ以前はジューク)とエクストレイルしか扱っておらず、SUVの充実という意味も含めて、電気自動車(EV)のアリアを加えるのだ。アリアはSUVスタイルの電気自動車だから、リーフに比べて、居住空間や荷室の広さに余裕がある。グレードは複数用意され、2WDで駆動用リチウムイオン電池が65kWhの仕様は、最大トルクが30.6kg-mで航続可能距離(WLTCモード)は450kmだ。2WD/90kWh仕様は、最大トルクが30.6kg-mで、航続可能距離は610kmと長い。
4WD/65kWh仕様は、前輪に加えて後輪も駆動するから最大トルクが57.1kg-mに増えて、航続可能距離は430kmだ。4WD/90kWhは、最大トルクが61.2kg-mとパワフルで、航続可能距離も580kmになる。
リーフは駆動方式がすべて2WDで、40kWh仕様は最大トルクが32.6kg-m、航続可能距離は322kmだ。62kWhは最大トルクが34.7kg-mで、航続可能距離は458kmに伸びる。アリアはリーフに比べてリチウムイオン電池容量が65kWh/90kWhと大きく、2WD同士で比べると、SUVスタイルながら航続可能距離も長い。
機能の充実した電気自動車SUVのアリアでは、価格上昇が心配だが、日産によるとベーシックな「2WD/65kWhが約500万円」という。リーフに62kWhを搭載したe+Gが499万8400円だから、アリアはSUVのボディに、多彩な機能と装備を採用しながら価格も割安だ。運転支援機能としてはプロパイロットを標準装着する。
最上級の4WD/90kWh仕様には、スカイラインのハイブリッドと同様、手離しも可能な運転支援機能のプロパイロット2.0が採用され、価格は750~800万円になる。
アリアの2WD/65kWh仕様は高機能で割安だが、日本では総世帯数の約40%がマンションなどの集合住宅に住む。充電設備のある集合住宅はごくわずかだから、電気自動車は普及しにくい。
アリアで電気自動車の本格普及を図りたい日産
このような日本における電気自動車は、集合住宅のユーザーも利用できる急速充電器に頼る使い方になる。そこで日産は、日本国内にある約2070箇所の販売店に、約1900機の急速充電器を設置した。日産の開発者は、地域の電力インフラなどのために急速充電器を設置できない販売店を除くと「ほぼすべての店舗に行き渡った」という。リーフなど従来の電気自動車では、急速充電を繰り返すと駆動用リチウムイオン電池の劣化が早まるから、普通充電も時々行って欲しいと説明していた。集合住宅に住む普通充電の困難なユーザーにとって、これが電気自動車の所有を妨げる理由にもなっていたが、アリアの開発者は次のように述べている。
「アリアでは新たにバッテリー温度を一定に保つ温度調節システムを採用した。この機能により、充電の所要時間が短縮され、なおかつ急速充電器の使用に伴うリチウムイオン電池の劣化も抑制される。従ってアリアでは、急速充電器を気兼ねなく使える」。
日産としては、アリアで電気自動車の本格普及を図りたいだろう。これが失敗すると、国内市場に対する熱意が再び下がる心配もあるため、結論を急がず着実に普及させて欲しい。
なおアリアは、2020年7月に概要を発表したが、納車を伴う発売は2021年の中頃だ。この発売タイミングからも、長期的な戦略を取ることが分かる。
大本命、次期エクストレイルを徹底予想!
2020年にはエクストレイルのフルモデルチェンジも実施される。日産の販売店によると「今のところ具体的な話はメーカーから来ていないため、エクストレイルのフルモデルチェンジは早くても2020年10月」という。次期エクストレイルは、海外で披露された新型ローグと基本的に同じクルマだ。ボディサイズは現行型と同等で、居住空間や荷室の広さもさほど変わらない。エンジンはe-POWERと2Lのノーマルタイプ(マイルドタイプのスマートシンプルハイブリッドを含む)になる。基本的にセレナと同じ構成だ。キックスはe-POWERのみだが、エクストレイルではe-POWERの価格が340~400万円に達する。270万円前後のグレードも必要だから、ノーマルエンジンも用意するのだ。プロパイロットなどの運転支援機能も採用するから、エクストレイルの価格帯は270~400万円と幅広い。
以上のように日産のSUVラインナップと価格構成は、キックスが270~290万円、エクストレイルは270~400万円、アリアは500~800万円になる。このように見ると低い価格帯が弱い。キックスに1.5Lノーマルエンジンを搭載するベーシックなグレードを200~220万円に設定する必要も生じるだろう。
次期ノートにはSUV風モデルに期待!
またノートのフルモデルチェンジも予定され、次期型では、現行型のノートCギアよりもデザインを洗練させたSUV風の派生モデルが欲しい。SUVは日本と海外の両方で好調に売れるカテゴリーだから、国内が中心のミニバンよりも開発や生産の効率が優れる。ほかのメーカーと同様、今後の日産はSUVの充実に一層の力を入れるだろう。[筆者:渡辺 陽一郎]
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