超大変身も“らしさ”を踏襲! コレが21世紀の本格オフローダーのカタチ【ランドローバー 新型ディフェンダー試乗】
MōTA / 2020年9月11日 14時40分
72年ぶりに新型となったディフェンダー。シリーズ初のフルモノコックボディとなるなど、旧型モデルと比べるのはナンセンスだが、その実力たるやもはや高級車だ。今回オンロード&オフロードで徹底テストを敢行! 果たして新型ディフェンダーの実力やいかに。
マーケティング戦略の妙! 十二分にアリな選択肢に
一般道と高速道路を3日間800km走った後、別の個体で新潟・上越妙高の特設オフロードコースも走ることができた。
結論から先に言ってしまうと、新型ディフェンダーはランドローバーの狙い通りの魅力的なSUVに仕上がっていた。とくに、オンロードでのパフォーマンスと快適性を確保しながら、同時にランドローバーの真骨頂である、非常に高いオフロード走破能力が両立されていたのだ。
運転支援装備やコネクティビティなど、2020年の新車として要求される新機能も最新レベルだ。日本仕様のパワートレインはひとつだが、90(2ドア)と110(4ドア)のふたつのボディ、4つのグレードや160種類にも及ぶ豊富なアクセサリー、現実的な価格なども幅広い層に訴求できるだろう。SUVとしての完成度も高く、また商品としても企画が良く練られており、魅力もかなり大きい。
もはやディフェンダーではない!? 様変わりし過ぎの内容
ただ、たしかに「新しいディフェンダー」であるけれども、「新型ディフェンダー」と呼ぶには無理があるかもしれない。なぜならば、車名こそ“ディフェンダー”と同じで、デザイン要素も現代風に解釈して散りばめられてはいる。しかし、2世代の間の時間経過が長過ぎるからだ。
先代のディフェンダーは1948年の「ランドローバー・シリーズ1」が、「シリーズ2」(1958年)、「シリーズ3」(1971年)と発展し、1983年に「DEFENDER」としてデビューしたクルマだ。ディフェンダーの名前が付いてからでも37年も経ち、シリーズ1から数えたら72年にもなる。その間に自動車技術は大いに変化し、社会も変わった。蒸気機関車と新幹線を較べるようなものだ。だから、先代のディフェンダーと新しいディフェンダーを“オフロード4輪駆動車同士として比べても、“クラシックカーと最新鋭の現代車”という以上の意味はない。
過酷なテストで実現! 史上最強のフルモノコックに
では、具体的に挙げていってみよう。まず、シャーシがラダーフレームから最新のアルミ製モノコックに変わった。
これまでは、過酷なオフロードを走破するためにはラダーフレームが必須のものと伝えられていた。メルセデス・ベンツGクラスやトヨタ ランドクルーザーなどは、現在でも変わらずラダーフレームを採用している。
しかし、ランドローバーはラダーフレームを止めて、アルミ製モノコックに変えたのだ。プレス資料には「最も強固なボディ剛性を持つオフロードSUV。他社の最も高剛性なラダーフレーム車の3倍のねじり剛性を実現」とある。その開発過程では、過酷なテストを自らに課し「耐久性試験基準の強化。垂直衝撃試験の強化。物理試験回数45,000回。総試験回数62,000回」が実施されたそうだ。
つまり、新たに開発設計されたアルミ製モノコックは過酷なテストを繰り返し、最も強固なボディ剛性を得ることができたというワケ。
モノコックになっても悪路走破性はさすが! のデキ
実際に、上越妙高APAリゾートのスキー場内の斜面に特設されたコースを走ってみても、ラダーフレームに劣るような挙動を見せることは一切なかった。ディフェンダーをはじめとするランドローバー各車に装備されている、おなじみの走行モードシステム「テレインレスポンス」の4種類のオフロードモードの中から、「泥/轍」モードを選んだ。同時に、トランスファーは「ハイレンジ」から「ローレンジ」モードに切り替え、併せて「ヒルディセントコントロール」をオンに。
乾いた泥の急斜面を登り、左に曲がりながら段差40~50センチの凹凸を越えていく。その先は路面は平らなのだが、進行方向に対して左に強く傾斜していて、その上を倒れた夏草が一面を覆い、とても滑りやすくなっている。道が細くなり、樹々の枝も大きくルートを覆っているところを左に曲がり、その先は急な下り坂だ。ここまでは難なく走ることができた。夏草の上でズルッと左右後輪が滑ったが、そこ以外は何事もなく走り切れた。ボディがよじれたり、ボディ剛性の不足によってタイヤのグリップが失われるようなこともない。
急な下り坂は途中に踊り場があって、そこには一時停止の標識が出ている。ヒルディセントコントロールを効かせながらゆっくりと下っていく。アクセルペダルにもブレーキペダルにも、右足は乗せない。クルマ自身が4輪それぞれ個別にブレーキを掛けてコントロールしながら、ホイールロックを防ぎながら下っていく。この装備がなかった頃のクルマで同じようにこの坂を滑らず確実に降りようとすれば、エキスパートのように絶妙にフットブレーキをコントロールできなければ不可能だ。
二つ目の急坂を降りても、滑りやすい下り坂がカーブしながら続いていく。ヒルディセントコントロールを効かせなくても、セカンドギアを維持しながらローレンジモードを使って降りていく。ステアリングもしっかりと効き、4輪も確実にグリップしている。
登り始めたところまで降りてきて、今度は反対方向へ。ほとんどフラットな泥の直線路なので、ローレンジモードからスタンダードモードに戻し、深めにアクセルペダルを踏み込んで速度を上げた。こうした走り方をしても、ディフェンダーは確実に4本のタイヤで路面をグリップし、強めのブレーキを掛けてみても、グッと踏ん張りながら停まる。同じコースを4周してみたが、大きな破綻は何も起きなかった。ディフェンダーの能力が箱庭的なコースを完全に上回っている。大きな自然を相手に再び走ってみたい!
新しいディフェンダーから、テレインレスポンスシステムの中でパワートレイン、ステアリング、ディファレンシャル、トラクションコントロールなどを個別に設定できるようになったが試す時間がなかった。同様に、斜面の途中で意図的に停め、そこからの発進をしやすくするグラディエントリリースコントロールなどの機能も試せなかったのが惜しかったところ。
オフロードコースを走ったのは限られた時間ではあったが、アルミ製モノコック由来と思われるような能力不足や不満はまったく感じられなかったというコトはお伝えしておこう。
超便利で安全! 透けて見える装備がスゴい
このディフェンダーに限ったことではなけれども、ランドローバーの悪路走破性能にはいつも舌を巻かされてしまう。この日のコースだって、クルマを降りて2本の足で歩いて上まで登れないほど険しく滑りやすいところがあった。しかし、新しいディフェンダーにとっては朝飯前だ。
テレインレスポンスシステムをはじめとする電子制御デバイスは洗練が進み、イヴォークから装備され始めた「クリアサイトグランドビュー」や360度の3Dサラウンドのようなカメラとデジタル画像による視界確保のような、今まで存在しなかった新しいデバイスも確実にオフロード走行では有効で有用なものであることがわかった。長距離にも最適! とにかく静かになった
オンロード走行もまた、先代のディフェンダーと比べても意味がない。なにしろ、あちらは偉大なクラシックカーなのだ。新しいディフェンダーで高速道路や一般道を走ると、その静かなコトと、フラットな姿勢に驚かされる。日本仕様はオフロード用タイヤが標準装着されているにもかかわらず、だ(注文時に舗装路向きのオールシーズンタイヤに変更可)。
先代のディフェンダーはオフロード走行に力点が置かれていたので、オンロード、ましてや長距離高速走行は二の次、三の次だった。
先進安全装備も最新のデバイス&コネクテッド機能も
ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)やLKAS(レーンキープアシスト)のような運転支援機能も最新レベルだ。事故を未然に防ぎ、ドライバーの負担と疲労を軽減させるからこれからは必須の装備だ。必須といえば、インフォテインメントもランドローバーの中で最も新しい「Pivi Pro」が装備されている。スマートフォンをつなげ、音声入力によってさまざまな操作を簡単に行える。SIMカードも挿入するコトもできるので、インターネット接続によって便利な機能を駆使することができるのは他の最新のクルマと変わらない。
オフロード走破性能には暫定的に満点に近い採点を下すことができる。それと両立するオンロード走行性能や運転支援、ドライバーインターフェイスなども最新レベルだ。
唯一の懸念はエンジン! ディーゼル追加を待つのもアリ
数少ない不満点のうち最大のものは、日本仕様ではまだ2.0リッター4気筒「インジニウム」ガソリンエンジンしか選べないことだ。最高出力300馬力を発生し、加速性能に不満はないが。しかし、レンジローバーではこのエンジンがPHEV化されていて、その加速の滑らかさと静粛性の高さを日本国内で知ってしまっているので、ディフェンダーでも選べたらいい。ヨーロッパでは選べる2種類のディーゼルエンジンも気になる。おいおい追加されるかもしれないから少し待つのも手だろう。
コロナ禍が落ち着くまでは時間がもう少し時間が掛かりそうなのだから、僕ならば、そうする。タスマンブルーかパンゲアグリーンに白ルーフのショートボディ。エアサスペンション。運転支援やPivi Proは必須で、メリディアンのオーディオも奮発したい。他にもいろいろ選べるので、じっくり選びながら待つ時間も楽しみたい。
新しいディフェンダーはとても魅力的だった。先代ディフェンダーがあまりにも偉大な存在で、ランドローバーもそのブランド価値をマーケティングとして存分に活用したいから、この車名とデザインを採用したのだろう。だから、先代と比較することはナンセンスだし、そんなことをしなくてもこのクルマの魅力と実力の高さが霞むこともないのだ。
【筆者:金子 浩久】
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