スバル 新型レヴォーグをサーキットで試乗|極限状態の中から見えてきたものとは!?
MōTA / 2020年9月22日 14時39分
2020年10月15日から発売を開始するスバルの新型レヴォーグを、ひと足お先にサーキット試乗! 一般道ではなく、あえてサーキットで乗ることで見えてくるポイントとは!? モータージャーナリスト今井 優杏さんがわかりやすく解説します!
イマイさん、新しいレヴォーグって本当に良いの!? その答えは…
『イマイさん、本当にレヴォーグって良いの?』各メーカーさんの試乗会に行くたびに、エンジニアや広報さんなど、業界のナカノヒトにまでそう聞かれるようになってきた。そう、スバルの新型レヴォーグのことだ。
で、そのたびにわたしは金太郎飴のようにこう答えている。「とても良いですよ、このまま市場に出てくれば購入満足度は高いと思います。でもちょっと大人になりすぎたかな」。
そう、我々報道陣に明かされた試乗車には、最終段階ではあるが“プロトタイプ”という冠が載っている。結論から先に言えば、市販車までこのレベルでセッティングされていれば、革新の出来と言えそうだ。走りは上質だし内外装の質感も段違い。その進化幅には現行型オーナーでなくとも目を見張るだろう。
そんなプロトタイプにサーキットでのハイスピード試乗が叶った。早速レポートしよう。
そもそもサーキットで超高速テストをする意味って、なに!?
さて、一般道でなくサーキットで試乗することにはどんな発見があるのか。ちょっと初心に還って考えてみたいと思う。まず、サーキットは速度域が無制限だ。これによってエンジンやトランスミッション、車台、サスペンションなどに、一般道では与えることの出来ない負荷をかけることができる。
実は一般道でもこの“高負荷”という状態はたびたび起こる。
たとえば信号待ちからの発進、高速道路の合流、料金所通過直後、追い越し時、レーンチェンジ時。一般道では登坂道、ワインディング、そして下り坂、急ブレーキなどもそうだ。
しかし、一般道でその現象が起こるのは、ほんの僅かの時間のみとなる。そう、サーキットではその高負荷時の状況をハイスピードで走行することによって人工的に作り出すことが出来る。しかも安全に、合法に。
よって、低速時には隠されていたいわゆる“アラ”の部分を、まるであぶり出しのように探ってゆくことができるのだ。
イケメンルックスに隠された肉体の強化が凄かった
新型レヴォーグは、まずエクステリアの進化が目に新しい。しっかりと“先進顔”を手に入れ、端正なイケメンルックとなった。そして、その下にたくさんの刷新を隠している。まずは1.6リッターから1.8リッターにアップサイジングされた(!)エンジンと80%以上を刷新したという新CVT『リニアトロニック』を組み合わせたパワーユニットの採用。
次に実に+44%というねじり剛性値の向上を図ったボディーの補強だ。
新世代のSGPプラットフォームに国内初となる“フルインナーフレーム構造”、つまり外板パネルを最後に接合する工法を取り入れたことに加え(“外板を最後に接合”だなんて当たり前のことにも思えてしまうが、実はこれまでは外板自体をも補強部材として使用していたこともあったのだという。『液体洗剤の70%が水です!』と同じくらい衝撃の事実…)、構造用接着剤の拡大や樹脂製の補強部材の採用などが図られた。さらに電動パワステも新しくなり(スバル初の2ピニオン電動パワーステアリングを採用)、サスペンションもフロント25%、リア5~10%のロングスロトーク化が図られるなど、総とっかえと言ってもいいくらいの刷新がなされている。
さらにアイサイトは“アイサイトX”という最新世代に進化。これは別の記事にするのでご期待いただきたい。しかし、大門未知子[(C)ドクターX]みたいなネーミングは、ラスボス感すら漂うな…
サーキットをギュンギュン走ってみて、実際のところどこがどう良かったのか
スバルの進化と共に歩んできたCVT“リニアトロニック”の進化
で、前置き長いけど実際走ってどうなのよ、だ。まず一番の感動点。ノーマルのレヴォーグ、それからスポーティーなSTI スポーツ、双方に共通して言えるのが“リニアトロニック”ことCVTの圧倒的な進化だ。
旧型ではややもすれば3000回転くらいをこえてくると「キーン」というCVT独特の金属音のような回転音が耳に入ってきていた。これが綺麗サッパリ払しょくされていたこと。そして音だけでなく、まるでデュアルクラッチトランスミッションのようにきっちりと段付き感もあり、高回転域まできれいにトルクが繋がって、スロットルワークとの遅れや滑り感なくきっちりと高速まで回っていくこと。これは本当に天晴だと思った。
スバルは水平対向というエンジンにこだわり、御本尊のように大事に大事に育ててきた。しかし、とくに近年色々規制が厳しくなった燃費との両立のために、CVTを選ぶしかなかった。だから、近年スバルの歴史はCVTとの戦いの歴史でもあったと、わたしは思っている。で、今回のレヴォーグのCVTは、お世辞抜きである頂点に達したんじゃないかな、と感じた。
スバルらしい真面目で地道な取り組みが、上質で強い新型レヴォーグの足腰を生み出した
そして、さらに剛性の向上のためか、サスペンションのフレキシビリティはもちろんのこと、急制動時のボディーのブルブル、バタバタが全く出ないこと。今回、STI スポーツには電子制御サスペンションが採用されたのも大きなニュースだが、この電制サスですらもブレーキGの影響をさほど受けなかった。エンジニアに聞けば、剛性はもちろんのこと、サスペンションの回転軸とホイールセンターのズレ、いわゆるマスオフセットを15%低減したこともこのブレーキフィールに貢献しているのだということだ。
さらに、コーナリングの特に後半の気持ちよさったらない。これはアンシンメトリカルAWDのおかげかと思ったら、これもスバル初である空力アイテム群(マッドガードスリットやエアアウトレット)がとくにリアの接地性に貢献しているのだという。ううむ、細かい。実に細かい。しかし、こういう重箱の隅を突く技術こそが洗練につながるってことは、クルマづくりの定説なのだ。
で、これらを手に入れて、ノーマルのレヴォーグは冒頭に述べたとおりの「大人」なフィールを手に入れている。エンジンこそ1.8リッターになったから、音だけはともすれば先代より踏めばそれなりにコックピットに入ってくるのだけど、低回転域、つまり一般道領域ではかなり静か。ねばるサスペンションでコーナーへの出入りの際にもレーンチェンジのような左右にGが変化していくようなシーンでもキャビンは驚くほどフラットだし、反発するような揺り返しも感じさせないのだ。よって、本当に「良いクルマになったなぁ」という印象だ。まるで高級車だ。しっとりジェントルなんである。
上級バージョン「STI Sport」専用! 5つのドライブモードセレクトが凄かった
期待のSTI スポーツは、これにZF製の電子制御ダンパー(スバル初! 地味にこれは凄いことだと思ってます)と、ボタン一つでキャラ変する“ドライブモードセレクト”が備えられる。選択できるモードは優しい順からコンフォート・ノーマル・スポーツ・スポーツ+と4つ、さらに“ほかはコンフォートでいいけどアシだけ硬めたい”とか、“全部スポーツでいいけどエアコンはマイルドにしたい”など、ドライブとアイサイトとエアコンに関する設定をそれぞれ自分好みに設定出来る“インディビジュアル”モードの計5つ。
このレヴォーグを創り上げたスバルのプロダクトゼネラルマネジャー 五島 賢氏はドライブモードチェンジを「キャラ変」と呼んでいらしたが、まさに言い得て妙。しかも「劇的キャラ変」なんだから。
これはまさに“キャラ変”! ドライブモード毎の様変わりがオモシロイ
コンフォートではゆったりとした出力にルーズめのハンドリング、また滑らかなサスペンションでわたしの性格までゆったりエレガントになり(いやほんとに踏む気がなくなるの!)、スポーツ+にした瞬間に(爆発的なエンジン音とともに)キュッとアシが締まりステアリングも重くなり、そしてぐいん! と回転数が上がる。ペダルレスポンスもいきなりクイックになって、まさに目の中に炎がメラっと燃える感じに!! 嘘みたいでしょ。でも本当なんです。まるでボディーサイズまで変わってしまうかのような乗り味変化の違いをつけたのは大拍手だ。スゴイ! 複数の任意設定可能な“インディビジュアル”は、ドライバーの顔で個別設定を呼び出す!
しかし、スバルならではの凄さは、インディビジュアルにこそある。アイサイトXとも密接にかかわるドライバーモニタリングシステムのカメラ(ナビの上部に隠されている)を、このお好みモードの記憶にも役立ててくれるのだ。最初に任意の設定さえしておけば、なんと5人分の顔と設定を記憶してリンクし、乗員が乗り込んだ瞬間に顔をセンサリング。さらにステアリングスイッチの★を押せば一発で自分のインディビジュアル設定を呼び出してくれるというものだ。正直、これは世界をリードする技術だと思っている。未来すぎる。しかもこの価格帯のクルマで!!
遠慮なくマシマシで全部載せしちゃうのがスバルの凄いところ
いろんなメーカーのクルマをずっと観察していると、このレヴォーグには二郎系ラーメンでいうところのマシマシ全部のせ! みたいなこってりモデチェンがなされている。五島氏が言う。「ほかのメーカーさんにはたくさんクルマがあるでしょう。セグメントごとの制約も多いはずです。ウチはラインナップが少ない分、全部コレに込めることが出来ました。だから競合には負けない商品力を凝縮できたと、自負しています」。
そう、濃く深く、それがレヴォーグの真髄。
さらに言えば全体的な印象が“オトナ”なだけに、正直、このクルマはサーキットより一般道でのほうが良さを実感できそうでもある。楽しみだ。
[筆者:今井優杏/撮影:茂呂 幸正・小林 岳夫・SUBARU]
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