ロールス・ロイス 3600万円の世界! 100kg超の防音材と最上の本革・本木目で創られる星空イルミ850個の異空間
MōTA / 2021年1月14日 21時22分
イギリスの超高級車ブランド「ロールス・ロイス」は現在、5つのモデルをラインナップする。今回はその中から、2020年9月1日にフルモデルチェンジを実施した新型「ゴースト」(3590万円~)をテストした。先代ゴーストは、毎年1月に開催される東京オートサロン出展のカスタムカーベースとしても密かに人気を集めていた、高級VIPセダンの究極形だ。生まれ変わった新型ゴーストの後席と前席の印象とは、いったいどのようなものなのだろうか!?
初夢体験! 3600万円のゴーストとは、いったいどんなクルマなのか
高級車で重要なのは“スペック”などではない
ロールス・ロイス史上最も販売されたゴーストが昨年2020年9月にフルモデルチェンジ。その試乗会が奥日光で開催されたのでレポートする。通常の試乗記であればモデルの詳細や解説をした後、実際に乗ってみてどうだったのかというストーリーになるのだが、今回はあえてそうはせず、その世界観をもとに雰囲気を楽しんでもらいたい。エンジン出力は何馬力、燃費はいくつと語ったところでこのゴーストの神髄を語ることはできないと思ったからである。もっとも私のお財布では購入することは不可能なので、夢を語るようなところもあるかもしれないが、そこは新春ということでお許しいただきたい。
最寄りの駅までお迎えに来てくれたのもロールス・ロイス
今回試乗会場に選ばれたのは栃木県の奥日光。中禅寺湖や戦場ヶ原がある地域である。東京から2時間少々、東北道宇都宮インターから日光宇都宮道路を経由、いろは坂を登り切った先が目的地だ。
今回は時間節約のため、新幹線を利用。宇都宮駅にはゴーストとカリナンブラックバッチがお迎えに。まさにロールス・ロイスの真骨頂、ショーファーカー(お抱え運転手が運転するリムジン)として味わってみる。
我々にあてがわれたのはロールス・ロイス初のSUVモデル「カリナン ブラックバッチ」だった。観音開きのドアを開けてもらい室内に乗り込むと、パープルのインテリアカラーが出迎えてくれる。そのカラーは上質でいやらしさは全く感じない。ショーファーに運転を任せ、今回ペアを組む同業者やオフィシャルカメラマンとともにおしゃべりを楽しみながら奥日光へスタート。SUVタイプとはいえ静粛性は高く、ロードノイズはほとんど感じない。すでにここからロールス・ロイスワールドが始まっていた。
およそ1時間で奥日光のホテルに到着。一息ついた後、ゴーストの説明を受け試乗会のスタートだ。
ゴーストは、ロールス・ロイスが考える“ミニマリズム”だった
意外!? コンセプトは「脱・贅沢」!
新型ゴーストは脱贅沢(ポストオピュレンス)をコンセプトに開発。エクステリアデザインは無駄を廃して仕上げられ、それはインテリアも同様だ。あくまでもロールス・ロイスらしさ、つまり上質でありながらも華美にはならず、極めてシンプルにデザインされているのだ。実はこういった方向性は“普通”のクルマの開発と同様の手法が取られている。つまりマーケティングリサーチだ。
先代ゴーストについて、同社最高経営責任者のトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏は、「全く新しい世代の顧客層のニーズを満たすために開発されました。こうしたお客様は、やや小ぶりで、さりげない存在感のロールス・ロイスを求めており、このニーズに応えた結果、2009年以降、10年間でロールス・ロイスの歴史上、最も多くの販売台数を誇るモデルになったのです」という。
余分なものを削ぎ落とした高級品
そして、この新型においても「今後の10年に向けて、お客様が何を求めているのか耳を傾けました。ゴーストのユーザーである実業家や起業家などの方々は、ダイナミックで、静粛性と快適性に優れ、ミニマリズムを極めた新しいタイプのスーパーラグジュアリーサルーンを求めていることが分かりました。また、余分なものを削ぎ落とした高級品に目を向けてもいたのです。彼らは過剰で不要な装飾を排除したシンプルなデザインを求めており、そこから脱贅沢(ポストオピュレンス)と呼ぶコンセプトへ移行していったわけです」と説明していた。今回与えられた試乗車は真っ白に塗られたボディカラーで、まるで日本の白磁のようなイメージ。まさに清潔で質素、しかしどこか艶やかさを感じさせるエクステリアだ。やはり塗装も含めてお金を掛けなければ出来ない仕上がりといえよう。
まずはショーファーカーとして後席を楽しんでみる
850もの星が散りばめられた異空間
ぐるりと一周してからクルマに乗り込む。まずはリアシートだ。
ゴーストのユーザーの多くは、平日はリアシートに、休日はドライバーズシートの座るというアクティブな方々が多いそうだ。ちなみにドアの大きさが前後で同じなのはこれが理由でもある(全長5.7メートルのロングホイールベース版「Ghost Extended(ゴースト エクステンデッド)」も用意される)。
さて、これまでのロールス・ロイス各車はドアを開けるときはかなりの重さを感じていたが、このゴーストはアシスト機能がもたらされたので、軽々と開くことが出来る。閉めるときはCピラーにあるボタンを押せばオートだ。ただし、結構な勢いで閉まるので注意が必要ではある。
いつの間にかエンジンがかかり、するするとクルマは中禅寺湖を左手に見ながら奥日光のさらに奥に向けてスタートした。後席はまさに快適の一言。残念ながら試乗車にシャンパンクーラーは備わっていなかったが、ゆったりと広々とした空間を満喫できた。ショーファー付きは究極の“自動運転”
ここで気付いたのは2つ。ひとつは先ほど乗ったカリナンと比較しはるかに左右方向のGが感じられないことだ。これは重心高が低いためで、より安定したコーナリングがそう感じさせていると思われる。
そしてもうひとつは静寂過ぎないことだ。ゴーストを開発する際にあまりの静かさは逆に不安感を生むため、わずかに“ささやき”を残したという。それが効果的で、きちんと移動しているという意識を持たせてくれるのだ。
フロア周りからの振動はほとんど感じられず、先代にあったフロア周りのよじれる感じは皆無だ。路面からの突き上げも、音はするものの体にはほとんど感じられないのは見事だ。また、こういった大型のセダン(やミニバン)でよく感じるのは、コーナーなどでフロントが旋回を開始して、僅かに遅れてリアが追従する動き方だ。これは特にフロアとリア周りの剛性が影響しており、クルマ酔いの要因にもなる。これに関してもゴーストでは全く感じられず、よりコンパクトなショートホイールベースのクルマに乗っている感覚だった。
まさにショーファー付きのゴーストは究極の自動運転といっていいだろう。
今度は高級セダンのドライビングを楽しんでみる
エンジンがかかっていることに気付かず…
さて、帰路はステアリングを握ろう。伝統的にインパネ右側にライトスイッチ等とともにまとめられたスタート・ストップボタンを押すと、エンジンは・・・・止まった。エンジンがかかっていたことを気付かなかったのだ。それほどエンジン音は押さえられている。気を取り直して再びボタンを押しエンジンスタート。ステアリングコラム右側に生えているセレクトレバーを手前に引きながら下に下げDを選択。ゆっくりとアクセルを踏み込むのと、滑るようにゴーストは走り出した。
車幅2メートル、車重2.5トンの高級セダンが軽快に走る!?
最初のコーナーを抜けた瞬間にこのクルマが歴代ロールス・ロイスの中でベストハンドリングカーだと気づいた。実はゴーストに乗る少し前に1000kmほどカリナンブラックバッチ(宇都宮駅から乗せてもらったクルマそのもの)をテストしていたのだが、同じ2mの車幅とは思えない程、ステアリングがシャープなのだ。特にゴーストの場合は狙った通りのラインをトレースする実力を備えており、また、ボディ剛性が高いので、コーナー途中に段差やうねりがあったとしても、リアタイヤの接地は失われずしなやかにショックを吸収していく。 この印象は2日目のいろは坂の下りでいかんなく発揮された。新幹線の時間の制約があり、朝の宇都宮市内の渋滞を考慮し早めに出発する予定が少し遅れてしまったため、そこそこのペースで下り始めたのだが、意外にもホールド性の高いシートと相まって、コーナーを楽しむことが出来る。さらに、ステアリングの舵角をほぼ一定に保ちながらコーナーを抜けられるのも良い。
まるで飛んでいるよう!? 水平を保つ高度なサスペンションシステム
この安定し、かつ軽快なハンドリングは四輪駆動・四輪操舵システム(そう、四駆なのだ)とともに、プラナー・サスペンション・システムが大きく影響している。このプラナーとは“完全に平らで水平な幾何学的平面”を指す単語に因んだものだ。極めて高度なスキャニングやソフトウェア・テクノロジーも駆使したこのシステムは、フロント・サスペンション・アセンブリーの上部に世界初のアッパー・ウィッシュボーン・ダンパーを装着。同社技術者によると、「ダンパーのためのダンパーで、道路からクルマに伝わる衝撃を可能な限り排除した。どんな道路状況にあっても滑らかな道路のように感じられ、まるで飛んでいるかのような感覚を味わってもらえるだろう」とコメントしており、まさに魔法の絨毯のような乗り心地を提供してくれる。
カメラが路面を読み取り瞬時にサスペンションを最適化する
そして、これに連動して働く“フラッグベアラー・システム”を搭載。これは、フロントガラスに一体化されたステレオカメラで前方の道路を読み取り、100km/h までの速度域でサスペンションを事前に最適化するもの。そこにGPS データを利用することで、これから向かう先のカーブに合わせて事前に最適なギアを選択する、ロールス・ロイス独自の“サテライト・エイデッド・トランスミッション”が加わり、これら全てをプラナー・ソフトウェア・システムと呼ばれる、いわば司令塔がまとめて管理している。少々小難しい話をしてしまったが、つまりはロールス・ロイスが常に目指す魔法の絨毯のような乗り心地は進化し、さらにそこに高いハンドリング性能が加わったのだ。
ロールス・ロイス ゴーストの基本は“ドライバー”にあった
高速を降り、朝の渋滞を迎えた宇都宮市内を走らせると、2mの車幅が全く気にならないことに気付いた。これは正確なハンドリングとともに、左右の見切りが良いこと、そしてボンネット先端のスピリットオブエクスタシーが水先案内人の役目を果たしてくれるので、安心して狭い道でも入っていけるのだ。無事に宇都宮駅でクルマを引き渡し、滑らかだと思っていた新幹線に意外な振動の多さを感じながら東京への帰路、新型ゴーストの印象を振り返る。
やはり一番印象に残っているのはハンドリングの素晴らしさなのだが、もうひとつ、きちんと運転しているという自覚をドライバーに与えてくれることも記憶に残っていた。これは、例えばボディ剛性が低いがために無理やり足を固め、電子デバイスをてんこ盛りにした結果、クルマに乗せられている感が強まってしまう(一部の日本車にありがちな)ものなどとはレベルが違う。
ロールス・ロイス ゴーストの基本は“ドライバー”で、そこに自然に寄り添うようにクルマがアシストしてくれるというものだ。そう、全てが自然で違和感を覚えない仕立ての良さ、いわば、テーラーメイドの上質なスーツを着こなしている様子と言い換えてもいい。
こんなに楽しい走り、ショーファーだけのものにするのはもったいない!
それにしてもロールス・ロイスに乗って、ワインディングを走り、運転が楽しいと感じるとは思いもよらなかった。冒頭でショーファー付きのゴーストは究極の自動運転車と語ったが、前言撤回。こんなに楽しいゴーストのステアリングをショーファーなどに渡してなるものか。
[筆者:内田 俊一 撮影:ロールス・ロイス/内田 俊一]
ロールス・ロイス 新型ゴースト 主要スペック
ボディサイズ:全長5545mm×全幅2000mm×全高1570mm/ホイールベース:3295mm/車両重量:2540~2590kg/乗車定員:4/5名/駆動方式:全輪駆動/総排気量:6748cc/エンジン種類:V型12気筒 DOHC ツインターボ ガソリンエンジン/最高出力:571ps(420kW)/5000rpm/最大トルク:850Nm/1600rpm/トランスミッション:8速AT/タイヤサイズ:255/50R19(標準仕様)/0-100km/h加速:4.8秒/最高速度:250km/h
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