モデューロ Xはここが違う! 絶版間近なホンダ S660ファイナル版をノーマルS660と比較試乗してみた!
MōTA / 2021年3月25日 20時30分
ホンダは2021年3月12日、軽スポーツカー「ホンダ S660」を2022年春に生産終了すると発表。ファイナルエディションとして「S660 Modulo X Vesion Z(モデューロ エックス バージョン ゼット)」を追加した。 さて、ベースとなったカスタムコンプリートカー“S660 Modulo X”とはどんなクルマなのだろう。生産終了のニュースでS660が気になった方々のために、ここで改めてS660とS660 Modulo Xの違いについて、前編・後編の2回に分けてじっくりとご紹介したい。 レポートするのは、国内外のカスタムカー事情にも精通するモータージャーナリストの岡本 幸一郎氏だ。
匠の技で上質に熟成させた純正コンプリートカー“Modulo X(モデューロ エックス)”
独自のキャラとエキサイティングな走りでファンを魅了するS660
S660は、2015年に登場するや、一時期は納車まで年単位とたびたび報じられたほどで、なにかと話題騒然だったことを改めて思い出す。
前衛的なスタイリングの軽自動車のミッドシップの2シーターオープンというだけで興味を持てないはずがないし、軽自動車界でもっとも強力なターボエンジンをMTで操れるクルマが楽しくないわけがない。その独自のキャラクターとエキサイティングな走りはたちまち多くのファンを魅了した。そして、喧騒の一段落した2018年に新たに送り出されたのがS660 Modulo X(モデューロX)だ。
誰が、どんな道で乗っても、安心して気持ちよく走ることが出来るクルマ
モデューロXというのは、ホンダの純正用品等を手がける子会社であるホンダアクセスが開発した「Honda車を知り尽くしたエンジニアが、匠の技で上質に熟成させたHonda純正コンプリートカー」だ。このエンジニアたちによる“匠の技”の数々については、後編で改めてじっくりお伝えするとしよう。
モデューロXシリーズは、初代N-BOXを皮切りに、これまでに初代N-ONE、現行ステップワゴン、現行フリード、S660、初代ヴェゼルの6モデルが送り出され、まもなく累計販売台数が2万台に達する。
内容としては、誰が、どんな道で乗っても、安心して気持ちよく走れるようにするための、専用のエアロパーツと足回りを装着したほか、内外装が専用に仕立てられている。これらにより「意のままに操れる操縦性」、「所有欲を満たし、走行性能にも寄与するデザイン」、「見て、触れて、乗って実感できる上質感」を実現したという。
空気を味方にするモデューロX専用エアロパーツが生み出す走りの新境地
中でもホンダアクセスが「実効空力」と呼ぶエアロパーツが生み出す走りの境地がモデューロXの真骨頂。見た目のドレスアップ効果だけではなく、走行安定性の向上にも絶大な効果を及ぼす“本物のエアロパーツ”なのだ。これらにより、もともと「上物」のS660が、モデューロXでは「特上」へと昇華しているわけである。
S660販売の15%を占めるモデューロXをベースにした最後の特別仕様車
そんな次第で、モデューロXの販売比率が他の車種では3~5%のところ、S660の場合は、実に約15%にも達するほどの売れ行きを見せているというから恐れ入る思い。そしてこのほど、S660の生産終了を受けて、最後の特別仕様車としてモデューロXをベースに設定されたのが「S660 モデューロX バージョンZ」だ。エアロや足まわりやブレーキなど、すでに完熟の域に達したチューニングは既存のモデューロXを踏襲した。さらに最後を飾るに相応しく、専用色のソニックグレーパールにより差別化を図ったほか、エクステリアの細部をブラック系でコーディネイト。インテリアは専用のドアライニングパネルや各部にカーボン調のパネルを配するなど、いくつかの部位が特別に仕立てられている。
空気を味方につけると、クルマはこんなにも変わるものなのか
ノーマル、ホンダアクセス純正パーツ装着車、モデューロXの3台を比較試乗
そんなモデューロX バージョンZを、袖ヶ浦フォレストレースウェイで走らせる機会に恵まれ、ノーマルのS660とやや仕様の異なる用品装着車と3台で乗り比べることもできた。しかも今回は、試乗コースの一部にわざわざ水を撒き、路面を滑りやすくしたときにどんな挙動の違いが出るのかまでも試すことができた。
用品装着車は、ホンダアクセスが開発したS660向けの純正パーツを用いており、モデューロXと同様の開発思想により設計された。ノーマルのS660に対し、新車時のみならず、後から装着することも可能である。なお、モデューロXと用品装着車の走りに関する部分での違いは、フロントバンパーの形状とリアスポイラーにガーニーフラップが付いている点のみで、それ以外はほぼ同じ。この2点により走りがどう変わるかも興味深いところだ。
特設コースのウェット路面を通過してわかる、ノーマルとモデューロXの違い
さて、3台のS660の走りを比べてみよう。正直なところ、乗るとどれも楽しいのだが、楽しさの「質」が違う印象を受ける。件のウェット路に入ると、ノーマルは動きが早いので、それをねじ伏せて走る楽しさがある。ちょっとスリリングなものの、軽くて手ごろなサイズという素性のよさが活きて、多少なにかあっても手の内で操れる感覚があるので、臆することなく走りを楽しめる。
対する用品装着車とモデューロXはいずれもグリップ感が高くて、ウェット路でも挙動が穏やかで、ゆっくり流れるので、とてもコントロールしやすく不安感も小さい。ステアリングを切ったときの反応も、より素直でしっくりくる。乗り心地はあくまで快適なまま、ノーマルと同じタイヤを履いているとは思えないほど違う。
空気を味方につけた! モデューロXの完成度に改めて驚く
さらにはモデューロXのほうが全体的にグリップ感も高く、コーナリング中も内輪がよりしっかり接地している感覚があり、切り増してもさらに曲がってくれることに感心する。立ち上がりではアクセルオンにできるタイミングが早く、トラクション(接地感)も高い。ブレーキングでの安定感も違う。
エンジンには手を入れていないので性能的にはまったく同じなのだが、より前へ前へと進むようになったせいか、心なしか速くなったように感じられたほど。空気を味方につけることで、これほど走りが変わるとは驚きだ。
その成熟した走りには、軽自動車であることを忘れさせるかのような上質な味わいがある。
お店に急げ! こんなに軽快で楽しい純エンジン車、きっともう出てこないはず
ホンダ S660に興味を持っている人、そして今回の生産終了の知らせで改めて興味を抱いた人は少なくないことだろう。この貴重な世界最小のピュアスポーツは、軽自動車最強の純ガソリンエンジンを搭載し、6速MTが選べ、ミッドシップならではのハンドリングを楽しませてくれる稀代の1台だ。こんなクルマなどこの先もう世に出てこない可能性は高い。
新車で手に入れられるのに残された時間はあと1年。いつか買おうと思いながら機会を逸してきた人は、もう迷わず少しでも早く注文すべし。そしてせっかくなら最後を飾る特別な存在であるモデューロXのバージョンZを、強く強くプッシュしておきたい。
モデューロパーツを後付けするよりもはるかにお得な“モデューロX”
ご参考まで、価格はノーマルのS660 α(シルバーの試乗車)が約232万円。これに、モデューロ純正用品を内外装にフル装着した今回のブルーの試乗車は、モデューロXに近い(全く同じではない)エアロパーツやサスペンション、ホイールなど主に外装だけで約100万円相当のパーツが載っている(内装を含めたフルオプションの総額は約170万円)。そしてS660 モデューロXが約304万円、特別仕様車のモデューロX バージョンZでも約315万円だ。
これを見ただけでも、いかにモデューロX バージョンZがお買い得かがご理解いただけることだろう。しかも購入後も値落ちしないどころか上がることすら予想されるのだから。
後編では、冒頭で少しお伝えした“匠の技”の数々について、モデューロX開発関係者の直撃インタビューなど、より濃いぃー話をお伝えするので、お楽しみに!
[筆者: 岡本 幸一郎/撮影:小林 武夫・Honda・ホンダアクセス]
ホンダ S660 Modulo x Version Z(S660 Modulo X特別仕様車) 主要スペック(諸元)
全長3395mm×全幅1475mm×全高:1180mm/ホイールベース:2285mm/車両重量:830kg/乗車定員:2名/エンジン形式:直列3気筒 DOHC インタークーラー付ターボチャージャー ガソリンエンジン/最高出力:64ps(47kW)/6000rpm/最大トルク:10.6kgfm(104Nm)/2600rpm/トランスミッション:6速マニュアルトランスミッション/サスペンション形式:(前・後)マクファーソン式/タイヤサイズ:(前)165/55R15(後)195/45R16/メーカー希望小売価格:315万400円(消費税込)※主要スペックはベース車の「S660 α」に準ずる(メーカー参考数値/燃料消費率除く)。ただし登録時に持ち込み検査が必要なため、検査時には実測値が適用される。
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