No.1人気のセレナに打ち勝ったヴォクシー! トヨタの販売チャンネル統合で兄弟車戦略を見直し、単一車種でも完全勝利へ
MōTA / 2021年5月17日 20時0分
「ミニバン人気No.1」をうたい文句に販売台数をさらに伸ばした日産 セレナに対し、トヨタは兄弟車戦略のもと、ヴォクシーやノアなど異なる3つのモデルで攻勢をかけた。 そんな中、2020年にトヨタは販売戦略を見直し、4チャンネルあった販売店を実質統合する策に出た。多くの兄弟車が姿を消したりする中でヴォクシーとノアは共存を図り、セレナに単体でも打ち勝つことができた! ヴォクシーがとった差別化戦略と今後について改めて検証してみよう。
ミニバン人気No.1といえば「セレナ」! その宣伝効果がさらに販売を推し進めた
家電や食料品など、複数のメーカーから多彩なラインナップが商品棚に並ぶ中、迷った時には“販売人気No.1”と書いてあるものを選んだ経験はないだろうか。それだけ数多くの人が選ぶ「間違いない選択肢」だと、迷った背中を押してくれる効果がある。
クルマの世界でも同じことが言える。
日産では2020年4月、Mクラスの3列シートミニバンカテゴリーにおいて、同社の「セレナ」が2019年度(2019年4月から2020年3月)の人気No.1であると発表した。これは2018年に続く2年連続の記録だった。
一般社団法人 日本自動車販売協会連合会(自販連)調査による、2019年度(2019年4月~2020年3月)の販売状況を見てみると、日産 セレナは8万4051台を売って、販売ランキングは8位に位置している。同カテゴリーのライバル車では「トヨタ ヴォクシー」が8万1949台(9位)、「トヨタ ノア」が4万9163台(15位)、「ホンダ ステップワゴン」が4万7214台(19位)、「トヨタ エスクァイア」が4万874台(22位)などとなっていて、確かにセレナは同カテゴリーの中で最も支持されていることがわかる。
セレナが「ミニバン人気No.1」であるとのメッセージは、TVやインターネット等の広告にも多く使われた。購入を検討するユーザーの背中押しにも大いに貢献したはずだ。
2019年度、合算すると実は1位のカローラを超える販売台数を誇っていたヴォクシー・ノア・エスクァイア3兄弟
しかしトヨタのライバルモデルは、単体では確かにセレナに台数で敗れたが、兄弟車の3銘柄が存在している。ヴォクシーとノア、エスクァイアは2019年当時、異なる販売店で売られていた。
2014年1月に登場した3代目ヴォクシーは比較的若い層向け、同時発売の3代目ノアはファミリー層向け、2014年11月に追加投入されたエスクァイアは上級仕様という、3台が異なるキャラクター付けもされている。
2019年度の販売実績を合算してみると、3モデルで合計17万1986台に達する。これは同年度の1位「トヨタ カローラ」(11万4358台)を上回るほどの規模を誇っていたのだから驚く。
トヨタの4チャンネル販売制度が邪魔をして「3兄弟セットで販売記録達成!」とは宣伝出来なかった
兄弟合わせればミニバンNo.1(いや乗用車No.1)だと堂々と宣伝してもよさそうなものだが、そうしていなかったのは、それぞれを別のクルマとして販売する各販売店の事情があった。ヴォクシーを売っていたトヨタネッツ店と、ノアを売っていたトヨタカローラ店、エスクァイアを売っていたトヨタ店・トヨペット店では、それぞれの特徴や違いを武器に販売競争をしていたのだ。周知の事実とは言え「実は同じ仲間、兄弟です」とは、正面切って言いづらい事情があった。
4つの販売力が結集し、単一車種販売台数でもセレナに打ち勝ったヴォクシー
そんな事情に変化が訪れたのは2020年5月のことだった。トヨタが4つ用意していた販売チャンネルを統合し、全店舗で全商品を扱えるように改めたのだ。2020年度(2020年4月~2021年3月)の販売状況は、ヴォクシーが7万1903台(9位)[前年比87.7%]、ノアが4万6755台(16位)[同95.1%]、エスクァイアが1万9800台(33位)[48.4%]となっていて、3兄弟合わせると1年間で13万8458台を記録した。コロナ禍の中、エスクァイア以外は最小限の台数減に留まっている。
販売統合に先駆けた2020年4月、ヴォクシーはエアロパーツを備えたモデルのみにグレード展開を整理。同一店でノアと一緒に売るために、自らのキャラクターを強める作戦に出た。結果として、前年の1割減に留めているのだから、この策は成功と言えるだろう。
なお13万台を超える台数は、2020年度1位の「トヨタ ヤリス」(20万2652台)に次ぐ、堂々2位の台数規模である。ヤリスもコンパクトカーの「ヤリス」、コンパクトSUVの「ヤリスクロス」、スポーツカーの「GRヤリス」という、全く性格の異なるヤリスファミリー3モデルを積み上げた数値だ。ちなみに3位は「トヨタ ライズ」(12万988台)となっている。
トヨタ勢一丸となった販売猛攻勢を前に、2割以上も台数を落とした日産 セレナ
エスクァイアともに影響を受けたと考えられるのが、日産のセレナだ。セレナは2020年度に6万5302台(12位)[前年比77.7%]と、2割以上も販売台数を落としている。もちろんNo.1は名乗れなくなってしまった。
毎年3月は、各販売店にとっても決算月ということもあり販売に特に力が入る。そのため年間を通じてクルマが最も売れる月だ。2021年3月の状況を見てみると、トヨタはヴォクシーを1ヶ月で9891台(前年同月比110.4%)、ノアは6377台(同112.9%)をそれぞれ販売した。
対する日産は、セレナを9207台(100.8%)とノアを超える台数を売り、かなりの奮闘をみせたが、ヴォクシーに対しては力及ばずだった。
ちなみにエスクァイアは1794台(40.6%)と、3兄弟の中ではすっかり影の薄い存在となってしまっている。
デビューから丸7年、次のヴォクシー・ノアはフルモデルチェンジでも統合されずに残る!?
先に記した通り、2020年の販売統合を受け、トヨタはこれまで多数存在していた兄弟車戦略の見直しを図っている。コンパクトワゴンの兄弟車「ルーミー」と「タンク」はすでにルーミーに統合されているし、「アルファード」の兄弟車「ヴェルファイア」は、なんと1グレードのみが残され他グレードは廃止と、大幅に規模を縮小されていたりする状況だ。
そんな中少なくともヴォクシーとノアは、兄弟車の棲み分けに成功した珍しい例である。
2014年のデビューから7年が経過し、いよいよフルモデルチェンジのうわさものぼるヴォクシーとノア。新型も兄弟車のまま残るのか、行方が非常に注目されるところだ。
[筆者:MOTA(モータ)編集部 トクダ トオル]
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