新型ヴェゼル購入者の9割が選ぶハイブリッド、しかし30万円以上安い1.5リッターガソリン版も実は狙い目だった!
MōTA / 2021年5月27日 17時0分
2021年4月の発売開始以来、好調な売れ行きを示すホンダの新型コンパクトSUV「ヴェゼル」。発売後1ヶ月の販売状況では、実に93%のユーザーがハイブリッド「e:HEV」モデルを選んでいる。しかし残り7%となる1.5リッターのノーマルガソリンエンジンモデルも、軽快な走りが好印象だった。しかも価格は30万円以上安いのだから、なおさら魅力的に映る! 実際に乗り比べてわかった新型ヴェゼル 1.5リッターモデルの魅力について、ハイブリッドモデルとの比較を交えながら、カーライフジャーナリストの渡辺 陽一郎氏が解説する。
新型ヴェゼルの販売はハイブリッドが93%! しかし1.5リッターノーマルエンジン車も軽快で楽しく好印象だ
ホンダ 新型ヴェゼルのグレード構成は、ハイブリッドの“e:HEV(イーエイチイーブイ)”が中心だ。ヴェゼル4グレードのうち、3種類をハイブリッド占め、1.5リッターガソリンのノーマルエンジンは、一番価格の安い「G」グレードに限られる。開発者も「新型ヴェゼルはe:HEVが中心」と述べており、初期受注台数の比率も93%だ。ノーマルエンジンはわずか7%に留まる。しかし新型ヴェゼルに初めて試乗してみたが、価格の安いノーマルエンジンでも良く走る。車両重量がe:HEVに比べて100kg以上軽いので、峠道では軽快に曲がって楽しいのだ。
そこで今回は、新型ヴェゼルのノーマルエンジン車の魅力と利点について、実際に乗った印象を交えて解説しよう。
ノーマルエンジンの新型ヴェゼルは「優れたクルマづくり」に必要な条件となる「柔軟な足回り」を備えている
軽快でよく曲がり、走行安定性も抜群なノーマルエンジン車
新型ヴェゼルのノーマルエンジン(1.5リッターガソリンエンジン)車は、カーブでも軽快に良く曲がり、勾配路でも良く走る。下り坂のカーブといった負荷の掛かる状態で万が一の危険を避ける時の安定性も、後輪の接地性に余裕があって良好だ。
新型ヴェゼルは先代(初代)モデルとプラットフォームなどを共通化したが、ボディやサスペンションの取り付け剛性や、ステアリングの支持剛性などは向上させている。
ノーマルエンジンの「G」グレードでは、しっかりと造り込まれたボディと足まわりに、比較的軽いパワーユニットを組み合わせたから、走行安定性が一層向上した。
先代ヴェゼルでは常に課題となっていた乗り心地が新型では大きく完全!
一般に、ボディが軽いグレードでは乗り心地が粗くなる車種もあるが、新型ヴェゼルはバランスを取った。タイヤは16インチ(215/60R16)で、試乗車の銘柄は転がり抵抗を抑えたダンロップ・エナセーブEC300だが、硬さは意識させない。指定空気圧は前輪が210kPa、後輪は200kPaだから、抵抗低減のために高く設定することはなく、適切な数値とした。
時速40キロ以下で街中を走ると若干硬めに感じたものの、1.5リッターエンジンを搭載した乗用車の中では柔軟な部類に属する。ボディ剛性の向上などによって新型ヴェゼルの基本性能が高まったことで、快適な乗り心地と良好な走行安定性を両立できた。
この進化は先代型と比べると分かりやすい。先代型も数回の改良で、走行安定性と乗り心地、特に後者を積極的に改善した。コンパクトSUVでは快適な部類に入ったが、新型はフルモデルチェンジとあってさらに洗練させている。
柔軟な足回りが、乗り心地のみならず運転の楽しさや安全性にまで寄与する
特徴的なのは、ボディの傾き方をあまり抑えていないことだ。乗り心地に配慮したから、サスペンションの動きも柔軟で、峠道のカーブではボディが相応に傾く。しかし新型ヴェゼルではこの挙動変化がゆっくりと進むから、安定性が下がりにくくドライバーも不安を感じにくい。ボディの傾く角度が同じでも、急速に(あるいは唐突に)フラリと傾くのか、ジワーッと穏やかに変化するかでは、安定性も乗員の体感も大きく変わる。
この落ち着いた挙動変化は、優れたクルマを開発するための大切な条件だと筆者は考える。クルマが思い通りに動く運転の楽しさのみならず、安全性、快適性まで、さまざまな性能を向上させる効果がある。
新型ヴェゼルもこの点を重視して開発されているが、ノーマルエンジンのGではその良さを実感しやすい。
新型ヴェゼルのノーマルエンジンは先代ヴェゼルに比べややパワーダウン! しかし走行安定性や乗り心地は大きく向上した
逆に、ノーマルエンジンを積む新型ヴェゼル「G」グレードを選ぶ時に注意したいのは動力性能だ。先代型のヴェゼルは、直噴式ガソリンエンジンの1.5リッターを搭載したから、最高出力は129馬力(6600回転)、最大トルクは15.6kg-m(4600回転)であった。それが新型は一般的なポート噴射式になったから、118馬力(6600回転)・14.5kg-m(4300回転)に留まる。
新型ヴェゼル Gの車両重量は、2WDが1250kg、4WDは1330kgだから軽くはない。先代型ヴェゼルの「G ホンダセンシング」と比べても60~70kg重い。従って先代型のノーマルエンジンから新型に乗り替える時は、パワー不足を感じるかも知れない。ノイズは抑えたが、先代型の余裕のある加速感は薄れ、幅広い回転域で物足りない印象も受ける。その代わりエンジン特性自体は扱いやすく、前述の通り走行安定性と乗り心地が良いのが新型ヴェゼルで大きく進化したポイントだ。
直噴式からポート噴射に変更した理由を新型ヴェゼルの開発者に尋ねると『直噴式はディーゼルに似たノイズを抑えるのが難しい。コストが高まる欠点もあった』という。新型のGと、先代型で充実装備のX ホンダセンシングを比べると、動力性能が下がった代わりに、走行安定性、乗り心地、安全面の機能を向上させて価格はほぼ据え置きとされている。
先代ヴェゼルに比べ大きく改善された新型の室内空間! 荷室の広さはあまり変わらないが使い勝手は向上した
居住空間や荷室の実用性は、新旧モデルともに同程度だ。前後席の頭上と足元の空間は十分に確保され、特に後席の広さは上級クラスの「CR-V」並みに広い。 荷室については、新型ではリヤゲートを少し寝かせたから、背の高い荷物は積みにくいが、床面積は広い。またリヤゲートを寝かせたことでヒンジが前寄りに装着されたから、開閉時に後方への張り出しが少ない。後ろに壁が迫るような屋内の駐車場などでも、リヤゲートを開閉しやすい。シートアレンジも先代型と同様に充実する。内装はコンパクトSUVでは上質な部類だが、先代型もていねいに造り込んでいたから質感はあまり変化していない。しかし新型のインパネはワイド感を強調したため、室内幅が広がったように見える。前方視界も良好だ。
1.5リッターガソリンのノーマルエンジン車とe:HEV(ハイブリッド)の価格差は実質30万円! 郊外路や長距離走行の頻度が少ないならガソリン車を推奨する
同等装備の「G」と「e:HEV X」を比較! 年間1.5万キロ乗るユーザーなら価格差は7年で回収できる
Gの装備内容は、e:HEV(ハイブリッド)モデルでは「X」グレードに近い。車両接近通報装置など、ハイブリッドの専用装備以外はほぼ同じだ。2WDの価格は、ノーマルエンジンのGが227万9200円、ハイブリッドのe:HEV Xは265万8700円だから、後者が37万9500円高い。
ただし購入時に納める税額は、e:HEV Xが7万4100円安い。そうなると実質価格差は約30万円に縮まる。レギュラーガソリン価格が1リッター当たり145円(今は約150円だが平均すると下がる)、実用燃費をWLTCモードで計算すると、Gの1km当たりのガソリン代は8.5円、e:HEV Xは5.8円だ。e:HEV Xは1km当たり2.7円安い。
この燃費の節約で30万円の実質価格差を取り戻せるのは、11万kmを走った頃になる。単純に損得勘定で考えると、1年間の走行距離が1.5万kmのユーザーであれば、7年少々で取り戻せる。1年間に1万km以下の場合はGを選ぶのがオトクだ。
ハイブリッド「e:HEV」には低燃費以外のメリットも多いが、ノーマルエンジン車も併せて比較検討したい
それでも前述の通り、新型ヴェゼルのグレード構成はe:HEVが中心で、90%以上のユーザーが選んでいる。人気が最も高いのは上位グレード「e:HEV Z」で、ヴェゼル全体の76%を占める。ホンダの2モーターハイブリッドe:HEVには、低燃費以外にもモーター駆動による機敏な反応、滑らかな加速感、優れた静粛性といったメリットがあるから、1年間の走行距離が1万km以下のユーザーも選んでいるわけだ。 最多販売グレードのe:HEV Zは装備も充実して、後方の並走車両を知らせるブラインドスポットインフォメーション、曲がる方向を照射するLEDアクティブコーナリングライトなども備わる。その代わり価格は2WDでも289万8500円と高い。従って新型ヴェゼルを選ぶ時は、割安で走りが軽快なGも検討したい。特に街中を中心に使う場合は推奨度も高まる。最小回転半径は、16インチタイヤのGとe:HEV Xは5.3mに収まるから、18インチを装着するe:HEV Zやe:HEV PLaYの5.5mに比べて小回りが利く。
Gグレードのさらなる装備改善にも期待
新型ヴェゼルが発売されてまだ間がないが、しばらく時間が経過するとノーマルエンジンのGグレードの販売比率も増えるだろう。実は現在、e:HEVハイブリッドモデルに注文が殺到し、短いモデルでも約5ヶ月、e:HEV PLaYに関しては およそ1年という非常に長い納期待ちが発生している。いっぽうで1.5リッターのノーマルガソリンモデルなら、今のところおよそ3ヶ月前後の待ち時間で納車が可能。この差も見逃せないところだ。
ただ現状では選ぶことが出来ないブラインドスポットインフォメーションなどは、Gにもオプションなどで装着可能にして欲しい。安全装備には、グレード間の格差を設けるべきではない。早期の改善を期待したい。
[筆者:渡辺 陽一郎(カーライフ ジャーナリスト)/撮影:和田 清志・茂呂 幸正・Honda]
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