燃費が悪くて何が悪い! ちっちゃなジムニーが世界中で愛される真髄は“オーバースペック”な造りにあり! ガチオーナーが語るスズキ ジムニーの魅力
MōTA / 2021年6月29日 20時10分
2018年に4代目となるJB64型が発売され、若者や女性からの人気も獲得したスズキ ジムニー。今だ納車1年以上という人気の理由は、そのレトロでポップなデザインだけでなく、日常生活ではまず不要の本格的なオーバースペックです。1994年式のJA11型ジムニーを愛車に持つ筆者が、世界も驚くミニオフローダー ジムニーの本格的なスペックについてご紹介します。
燃費に不利で乗り心地が悪い! でもジムニーには欠かせないラダーフレーム
やはり、ジムニーの魅力を語る上で外せないのは、ジムニーが“ラダーフレーム構造”を採用した数少ない国産車だということです。あまり車に詳しくない方にとっては、ラダーフレームって何?だからどうしたの? と思われるかもしれません。まずはラダーフレームについて簡単にご紹介しましょう。
ラダーフレームとは、その名の通り、ラダー=ハシゴ状の骨組みで、エンジンやトランスミッション、サスペンションといった走行には欠かせない重要なパーツが取り付けられています。そして、ボディ(車体)はフレームに載せられているような状態で、走行で発生する衝撃を受け止めるフレームと、車を形づくり車室を形成するボディといったように、それぞれ役目が分かれています。
対して、現在多くの車に採用されているのがモノコックボディです。簡単に説明すると、モノコックはフロア(床)やピラー(柱)など、ボディ全体がフレームの役目を担い、ラダーフレームと比べてスペース効率が高く軽量。そのため、軽自動車から大型ミニバンまで多くの車種が採用しています。
ジムニーは本格オフローダーでなければならない
令和になっても、初代から続くラダーフレーム構造を採用し続けているのは、ジムニーはSUVではなく、本格オフローダーでなければならないからです。
悪路の大きな段差や凸凹を乗り越えるときの衝撃を何度も受けた場合、モノコックではその力がボディに加わり、最悪の場合車全体が歪んでしまう感応性があります。その点、ラダーフレーム構造は、堅牢なフレームで衝撃を受け止めるため車全体が歪むことはありません。
ただ、ラダーフレーム構造はモノコックより重いため、燃費性能では不利。また、ボディ全体で衝撃を受け止めるモノコックと比べてしなやかさに欠け、乗り心地をしづらいという欠点があります。
しかし、ジムニーが林業や狩猟、レスキューなど未舗装路を移動しなければならないプロの現場、過酷な状況下で使用される車だからこそ、強靭なラダーフレーム構造でなければならないのです。
シンプルで頑丈なリジットアクスルは悪路走行でも有利
ジムニーには、現在多くの車種が採用する独立懸架ではなく、前後ともリジットアクスル(車軸懸架)を採用しています。独立懸架は、タイヤが1輪ずつ動くことで路面の追従性が高く、走行性能と乗り心地に優れたサスペンション方式です。ではなぜジムニーが頑なにリジットアクスルを採用しているのか?それは、やはりリジットアクスルの方が悪路に向いているからにほかなりません。
すべては悪路の走破性能を優先させるため
左右の車輪が同軸上で繋がっているため、片方の車輪が持ち上げると、反対側は下に押し付けられ、悪路を走るために欠かせないトラクション(路面とタイヤの摩擦力)を稼ぐことができます。また、車軸自体が斜めに持ちあがるため、路面とのすき間を大きく取れ、大きな岩が転がっているような場面でもぶつけにくくなるのです。さらに、部品点数が独立懸架に比べ少なく構造がシンプルなため、トラブルが起きにくく堅牢で、設備が整っていない環境でも整備がしやすいというのもメリットです。
もちろん、リジットアクスルにはデメリットもあります。ラダーフレームと同じく車軸が重いことに加え、ボディが揺れやすく乗り心地は悪化。それでも、悪路の走破性能を優先させるため、ジムニーにはリジットアクスルが採用されています。
副変速機に大径タイヤ!まだまだあるジムニーの“オーバースペック”
副変速機で自在に駆動力をコントロールできる
日常ではまず不要なジムニーのオーバースペックは、ラダーフレームやリジットアクスルだけではありません。シフトレバー近くには、機械式トランスファー(副変速機)の切り替えレバーがあり、ドライバーが任意で駆動方式を変更できます。舗装路を走行する場合は後輪駆動の“2H”、滑りやすい雪道や未舗装路を走る場合は4WDの“4H”。さらに、大きな駆動力を必要とする場合は同じく4WDの“4L”を選択します。
一見面倒くさそうにも思えますが、この「自分で操作している感」もジムニーに乗る醍醐味です。
ダイニングテーブルとほぼ同じ高さ!直径686mmの大径タイヤ
また、直径686mmという大径タイヤも忘れてはいけません。重く大きなタイヤは燃費にとっては不利ですが、悪路の走破性能という点では欠かせないポイント。直径を大きくすることで縦方向の接地面積を広くでき、トラクションの向上に繋がります。加えて、タイヤの直径が大きくなることで、先に述べた車軸の高さを稼ぐことにも繋がることもメリットです。
かわいいだけじゃないカクカクデザイン
そして、現行型にあたるJB64型ジムニーの人気を支える“カクカクデザイン”も、見た目だけじゃなく悪路や細い道を走る上で見切りが良いというメリットがあります。一見空気抵抗が高そうな角度の立ったガラスは、雪や泥が溜まり難く、さらに、前後に短いオーバーハング(前後バンパーとタイヤの距離)は、大きな凸凹を超えるためのアプローチアングルとデパーチャーアングルを確保。レトロでシンプルなカクカクなデザインも、ジムニーが悪路を走るオフローダーだからこそのデザインなのです。
オーバースペック満載のジムニーは誰でも買える日常のスーパーカーだ!
例えば、水深1000mまで潜れる腕時計や、-40度にも対応したダウンジャケットなど、日常ではまず必要ないオーバースペックなものに惹かれる男性も多いもの。また、見た目だけではなく、求められる機能を極めたシンプルなデザインのカッコ良さも魅力的です。車も同じで、時速300キロ出せて500馬力以上の出力を持ったスーパーカーに憧れるつつ、実際に所有できる人はそういません。
ジムニーほどの本格的な悪路走破性能は、日常生活ではまず不要。でも、その非日常のスペックを、軽自動車やコンパクトカークラスの気軽さで所有できることが、オーバースペック好きの男心をくすぐってはなさないのです。
[筆者:増田真吾/撮影:SUZUKI・MOTA(モータ)編集部]
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