2050年にホンダ車の事故を0に!? 新型N-BOXにAIが事故リスクを予見して運転をサポートする「知能化運転支援技術」を搭載する見込み
MōTA / 2021年11月30日 21時0分
世界でも数少ない二輪と四輪モビリティを生み出しているホンダが「2050年に全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロ」という目標を掲げている。2018年、世界では135万人が交通事故によって命を失った。 それをゼロにすることはモビリティカンパニーとしては当たり前のことかもしれないが、数字からもわかるようにあまりにも大きな目標だ。一体どのようにして目標をクリアしていこうとしているのか。歩行者とクルマがつながるシステムなど興味深いものばかりだ。いくつか例を挙げて紹介していく。
交通事故の9割はヒューマンエラーが原因だ
2050年に全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロを実現するには、すぐに搭載できる技術や10年後に量産できる技術などを積み重ねて、少しずつ、死亡事故の起きるシチュエーションを減らしていくしかない。とくに、交通事故の9割はヒューマンエラーだと言われている。
同社でいえばホンダセンシングのような運転支援システム・先進安全機能が進化・普及することで交通事故自体が減少傾向にあるのは事実だ。とはいえ、2050年にホンダ車に関わる交通事故死者をゼロにするというのは、あまりにも高すぎる目標だ。しかも、ホンダによれば2050年に発売するモデルではなく、2050年時点での保有車両すべてにおいて交通事故死者を生み出さないことが目標なのだという。
はっきり言って無謀にさえ思える。しかしホンダは大真面目に交通事故死者ゼロを目指している。今回公開された将来安全技術は、そうした明るい未来を生み出すものだ。
あくまでも人が運転することが前提!
まず注目したいのは、AIを活用した「知能化運転支援技術」である。交通事故のほとんどがヒューマンエラーに起因するというのであれば、人が運転しないで済む世の中を作ればいいという極論もあるが、ホンダは総合モビリティカンパニーとして「自由な移動の喜び」を大切にしている。
現在、普及している先進安全技術は危なくなったときに機械がカバーするという技術だが、AIによる知能化運転支援というのは、上手な運転へ導くことでヒューマンエラーの芽を摘んでしまおうというアプローチだ。
技術の成り立ちを簡単にいえば、運転におけるリスクを定量化し、危険性の高い運転をするドライバーとそうでないドライバーを比較することで、低リスク運転を明確にする。それをAIに教育した上で、そのAIが音声や反力、表示など適切にドライバーに伝えることで、誰もが気持ちよく運転できる環境を生み出そうというものだ。
ちなみに、ホンダがサンプリングした中でもっとも事故リスクの少ない運転をしていたのは同社のテストドライバーで、70万kmの走行で事故につながるリスクは一回だけしかないほどの人物だという。N-BOXで最新技術を研究中
そして注目すべきは、知能化運転支援技術の研究開発に使われているシミュレーターはN-BOXをベースにしているという点だ。ホンダといえば、日本初のSRSエアバッグにはじまり世界初の自動運転レベル3など先進安全技術の実用化には積極的だが、この例ではいずれもフラッグシップのレジェンドに搭載された。
しかし2050年に世界中を走っているホンダ車が関係する交通事故死者をゼロにするには先進安全技術を積極的に普及させる必要がある。そのためにN-BOXのような数が出るモデルでの実用化を目指しているというわけだ。ホンダは本気だ。二輪用でも世界的に人気なモデルにエアバッグを採用しようとしている
そんな本気度は二輪のアプローチでも感じられた。すでに二輪用エアバッグは、大型ツアラーであるゴールドウイングに搭載しているが、世界的に人気の125ccスクーター「PCX125」をサンプルにエアバッグ装着車を開発している。まだ市販までは時間はかかるというが、開発しているエンジニア氏によれば「それなりに現実的な価格帯での上市を考えています」ということで、普及させることで死亡事故を減らすという意識は、二輪・四輪を問わず高い。
二輪でいえば、ミリ波レーダーを用いたAEB(衝突被害軽減ブレーキ)についても研究している。二輪の場合、急ブレーキは転倒につながる部分もあり非常に難しいということで、まずは車体側の安定性を確保できる大型モデル(実験車両はアフリカツインだった)で開発しているということだが、これも広く採用していくことで交通事故死者ゼロにつながる技術だ。「転ばない二輪」は後輪で自立をアシスト
さらに、そもそも「転ばない二輪」の技術開発も進んでいる。今回、公開された自立するバイクは、前輪操舵用アクチュエータと車体・後輪揺動機構の2つのデバイスによって車体のバランスを保つという仕組みが搭載されていた。後者のメカニズムを簡単に説明するとリアアームを捩れるような構造として、それによって倒れた方向と反対に車体を動かし復元力を発生させるというもの。
非常に未来的なマシンに見えるが、ベース車は市販モデル(NM4)であり、また揺動機構にはパワステ用モーターを使うなど非常に現実的な部分もあるテクノロジーとなっていた。後輪で自立をアシストできるためステアリング操作をジャマすることが少なくなり、歩くような極低速でクランク走行をできるほど安定した走りを実現していた。この技術とAEBなどが組み合わされば、ぶつからない二輪の実現は夢ではないと感じた。歩行者とモビリティをつなげる技術も! スマホに注意喚起を表示するシステムを開発
さて、二輪・四輪がリスクの大きな事故を起こさないように進化したとしても歩行者の飛び出しといったリスクは減るわけではない。その点において、今回の発表では大きく2つの技術的アプローチに注目したい。
歩行者用エアバッグは歩行者の脳を守るものに変化している
ひとつは歩行者用エアバッグだ。現在、量産車に搭載されている歩行者エアバッグは車両と歩行者の接触を検知してエアバッグを展開させるが、ホンダが開発しているシステムは歩行者とぶつかりそうになったときに先んじてエアバッグを展開させるというもの。
つまりAEBのセンシング技術を前提とした技術になっている。そして、歩行者エアバッグの目的は脳を守ること。エアバッグによって衝撃を吸収しつつ、歩行者の姿勢をコントロールすることで脳への衝撃を抑えるという思想で設計されている。歩行者に飛び出しを知らせて事故を未然に防ぐ
もう一つのアプローチが、5Gを利用して歩行者に危険な状況を伝えるというV2P(歩車間通信)技術を応用したサービスだ。ソフトバンクと協力して進められている研究を簡単に紹介すると、車両側のカメラが飛び出してきそうな歩行者を見つけると、直接もしくはサーバーを介して、該当するエリアのスマートフォンにワーニング情報を配信。その中でスマートフォンの位置情報や進行方向情報から乱横断の可能性がありそうな場合、歩行者に対してリスクがあることを伝えるという仕組みだ。
その精度を上げるためにサーバー側の仮想空間で常に車両と歩行者の位置情報からシミュレーションを行なっているというのも、この技術の特徴だ。サーバー上ではクルマが割り込んできたバイクを避けようとして歩道に乗り上げるというシナリオまでシミュレーション可能で、その可能性を予見して歩行者に注意を促すこともできるという。ここまでくると、あまりにも未来的と感じてしまうが、2020年代前半には社会実験を開始、2030年代には広く普及させていきたいという。重要なのは交通教育という視点もあり! とくにASEAN地域で広めていく予定だ
ここまでくるとホンダ一社でできる話ではなく、官民一体となって社会インフラとして作り込み必要がある。2050年にホンダ車が関わる交通事故死者ゼロを目指すということは、他社のモデルも含めた交通事故を圧倒的に減らすことにつながるのかもしれない。
さらに教育も重要というのがホンダの主張だ。ハードウェアをどんなに進化させても交通事故死者ゼロは難しく、また交通教育は費用対効果も大きいという。実際、ホンダは交通安全教室などの活動を50年以上続けている。
そうした活動で得た知見をITによって広めようというのが「Honda Safety EdTech」だ。想定しているユーザーは、教習所などの概念がない主にASEANエリアのライダーで、スマートフォンを利用した安全教育コンテンツは、一人ひとりの特性に合わせたアドバイスをできるようにするという。現在、アプリを開発中ということだ。
ホンダを長く愛する人に求められるのは安全意識の高さ!
2050年にホンダ車が関係する交通事故死者をゼロにするという目的において、ユーザーはお客様ではなく、主体的存在でもあるということだ。もし、あなたが先進安全技術をまったく搭載していないホンダ車を2050年まで大事に乗っていたとして、世界で唯一の死亡交通事故を起こしてしまったらホンダの願いを潰してしまうことになる。
それはホンダ車に限った話ではない。旧車を愛する人は、自分自身を磨くことで交通事故死者の生まれない交通社会を作るべく、より高い安全意識と運転技術、自己抑制能力が求められることになる。それができてこそ、真のクルマ好きといえる時代になるだろう。【筆者:山本 晋也】
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