もはや誰にも止められない電動化への道 プレミアムBEV市場の勢力バトルはレクサスVS欧州メーカーとなりそうだ!
MōTA / 2022年1月9日 18時0分
2021年12月14日にトヨタが2021年内で閉館となるメガウェブで、「バッテリーEV戦略に関する説明会」と銘打ったプレゼンテーションを実施した。ここでトヨタは、2022年に発売予定のbZ4Xなど16車種ものBEV(電気自動車)を並べ、2030年にBEVをグローバル販売年間350万台を目指すと明言した。日本ではまだそれほど馴染みのないBEVだが、ヨーロッパ諸国では急速にBEVが普及し始めている。その影響から日本で販売される輸入車ブランドの一部にもその片鱗が見えてきた。今回はブランドごとのBEV戦略を見ていこう。
ディーゼルから電動車へ! 環境対策としてヨーロッパの各メーカーは舵を切った
2015年12月にCOP21の場で採択されたパリ協定を機に、世界は急激に気候変動の原因とされる温室効果ガスの削減に向かい、自動車業界も一気に電動化へ舵を切った。特に2015年9月に発覚した「ディーゼルゲート」で、それまで描いていたロードマップが水泡に帰したフォルクスワーゲン(VW)グループを中心としたドイツ勢はもちろん、ヨーロッパの多くのメーカーは、急激に電動化への道を進み始めた。
EU内では、欧州委員会が2021年から新しいCO2排出量規制(平均95g/km以下)を導入する事になっていたため、ディーゼルが使えなくなったヨーロッパの自動車メーカーは、電動化へ向かうしかなかった、という事情もある。
また多くの都市で大気中のNOx濃度が環境基準を上回る状況を受けて、2018年からヨーロッパ各地で、ユーロ4またはユーロ5以前のディーゼル車の都市部への流入規制が始まった。結果、ディーゼル車のシェアは急激に落ちる事となった。各メーカーはガソリン車やPHEVでしのぎながら、消費者をBEVに導かなければならない状況に陥ったのである。 ヨーロッパが電動化へ向かう理由は、これ以外にもある。ヨーロッパ最大の自動車大国であり、最大の市場でもあるドイツのエネルギー政策だ。ドイツは2011年に東日本大震災における福島第一原子力発電所の事故を受けて、2022年までの脱原発を決定。同時に再生可能エネルギー(再エネ)の開発に注力し、2020年の時点で総発電量のうち45%ほどにまで高まっている。このことは、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の観点からも、BEVを普及させる正当な理由となっていると言えるだろう。また2021年12月8日に発足した新政権は、2030年の再エネ比率の目標を、従来の65%から80%に引き上げた。ちなみにイギリスやフランスなどは、原発をフル活用することでCO2削減を目指す方針で、ドイツと正反対の姿勢を取っている。これもまたBEV普及の後押しとなっているのは明らかだ。
ヨーロッパのユーザーはBEVへの関心度も高い
消費者も変化している。ヨーロッパでは、近年の度重なる異常気象や自然災害を受けて、環境意識が高まり、9月に実施されたドイツ総選挙では、環境政策が最大の争点となったほど。結果、つい10年ほど前までは「ハイブリッドや電気自動車に興味はない」という人が大半だったが、今ではBEVへの関心は大きく高まっている。ヨーロッパ全体ではBEVのシェアはすでに10%程度にまで伸びている。
とはいえBEVは、リチウムイオンバッテリーが高価であるため車両価格が高い。そのためVWやアルファロメオやプジョー、シトロエンなどのステランティス各ブランドなどを除き、もともと車両価格が高いプレミアムブランドが積極的である。現時点では、ボルボ、ジャガー・ランドローバー、DSオートモビルズ、メルセデス・ベンツ、アウディ、ベントレー、ロールス・ロイス、ミニが、2035年まで(またはそれ以前まで)にポートフォリオを完全BEV化するとアナウンスしている。
この状況にはアメリカのBEVメーカーであるテスラの影響も無視できない。2012年から販売されているテスラ モデルSは、特に北米市場でプレミアムカーのマーケットを食う人気を博したため、特にドイツのプレミアム御三家は以前から相当に意識している。「多少価格が高くてもBEVは売れる」と判った事は、彼らをよりBEVに向かわせた。 いずれは全メーカーがBEV専用モデルを出してくるだろうが、現時点ではメルセデス・ベンツやBMW、VW、アウディ、ポルシェ、ジャガー、ルノーが、すでにBEV専用プラットフォームを用いたモデルをリリースしている。やはりコストをかけられるプレミアムブランドが中心だが、販売規模が大きいVWグループの各ブランドも入っている。 興味深いのは、各ブランドのプロダクトの方向性だ。メルセデス・ベンツやアウディ、ポルシェ、ジャガー、ボルボ、ミニなどは、BEVであっても従来のブランドイメージを継承させている。iXは既存のBMWのイメージとは異なるテイストになっている
だがBMWは、特に先日日本上陸を果たしたiXは、「未来のプレミアムBEVの在り方」をイメージさせる、既存のBMWのイメージとは一線を画す体裁をまとっている。インフォテインメントや各操作系、サウンドに至るまで新しさに溢れている。
BMWは過去にi3やi8を独自路線としているが、iXではそれがさらに飛躍した。iX3やi4は「既存モデルのBEV版」としているが、果たしてiXの商品戦略が吉と出るか凶と出るか、とても興味深い。レクサスブランドでは2030年までに全車BEV化を果たす
では今回大々的にBEV戦略をアナウンスしたトヨタはどんな商品戦略を取るのだろう。披露されたスタディモデルを見るかぎり、bZ4XをはじめとしたbZシリーズは、トヨタ・ブランドのBEVに特化した新ラインといった感じで、ハイテク感を強調したデザインに統一されている印象。
その他のモデルは、それぞれのカテゴリーのトレンドに合わせた感じだ。レクサスについては、意外なほどに保守的に映る。つまり現行ラインアップのBEV版に未来風味のスパイスを効かせたくらいというイメージである。だが今回、レクサスが2030年までに全車BEV化し、グローバルで100万台の販売を目指すと公言した事は、世界の、特にヨーロッパ市場におけるプレミアムカー市場に大きなインパクトを与えたに違いない。
これまでトヨタ/レクサスは世界をリードする電動化技術を持っているにもかかわらず、商品がなく、具体的なロードマップを示していなかったがために、「電動化に消極的」と言われる事もあったが、今後はそのようなことはないだろう。むしろ世界一の販売台数を誇る自動車メーカーが動き出したことの影響は絶大だ。特にプレミアムカー市場は、今後本格的にBEVが中心になっていくだろう。すでにドイツのプレミアム御三家はBEVを続々と市場に投入しているが、レクサスにとっては、どのように個性や魅力を打ち出していくかが成功の鍵となる。プレゼンテーションでは「秘伝のタレ」という話も出たが、乗り味の部分以外にもデザインや機能、自動運転技術、コネクティビティ、モビリティサービスなど様々な点で、レクサスのBEVならではの独自性をどう打ち出していくのか期待したい。
その点では、「電費」はひとつのキーワードになるかもしれない。2022年はトヨタが「世界初の量産ハイブリッド乗用車」であるプリウスの発売から四半世紀を迎える。この間、トヨタが培ってきた高効率な電動車を作るノウハウは、BEVでも活きてくるはずだ。 BEVはこれまで、ローカルでCO2フリーである事ばかりが持ち上げられ、電力消費量にはあまり目が向けられてこなかったが、サステイナブルな社会の実現に向けて「低電費であること」は重要なポイントだ。アウトバーンの速度無制限区間を廃止する動きが出るほど、環境意識が高まっている今、ハイパフォーマンスを打ち出すよりも、むしろ今のヨーロッパでは消費者の関心をより多く集めるかもしれない。プレミアムカーとしてのBEVは、決して白物家電ではない。ブランドごとに異なる商品戦略は、今後勢力図を大きく変える可能性もある。もしかしたら今はヨーロッパで年間販売7万台ほどのレクサスが、2030年にはドイツのプレミアム御三家と肩を並べているかもしれない。
【筆者:竹花 寿実】外部リンク
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