「新型ステップワゴンは“乗りやすさ”にこだわって設計した造形です」ホンダ デザイナー インタビュー Vol.2
MōTA / 2022年1月12日 19時0分
トヨタ ノア/ヴォクシー、日産 セレナなどが激戦を繰り広げるMクラスミニバン市場。その一角を担うホンダ ステップワゴンは2022年1月7日(金)、2022年春の正式フルモデルチェンジに先駆け、内外装のデザインが先行公開された。 この記事では、新型ステップワゴンのデザイン面にフォーカス。新型ステップワゴンに込められた、ホンダの心意気について、デザイナーインタビューなどを通じて紐解いてみたい。第二回目は、パッケージング、そしてCMFデザイン担当の各デザイナーに話を伺った。
女性でも乗りやすいクルマを生みだす、新型ステップワゴンの「パッケージ」とは
ミニバンで大切な、シートアレンジや着座位置を決めるのがパッケージデザイナーの仕事だ。新型ステップワゴンの室内空間は、ホンダ史上最大と言われる。それをいかに活用したのだろうか。
株式会社本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ パッケージデザイナー 市川 聡子氏は、新型ステップワゴンのパッケージについてこのように話している。
乗りやすいのはだんぜん“Aピラー”が手前にあるクルマです
Honda 市川 聡子氏(以下市川氏):ホンダは、古くからパッケージデザイナーをデザイン部門に置いています。私は、パッケージを決めて、エクステリアデザイナーとやりとりしながら骨格を決めたり、空間設計を行っており、車体サイズの決定にも関わりました。最近のミニバンはワンモーションフォルム化が進んでいますが、やはり乗りやすいのは、Aピラーが手前にあるクルマです。
そこで開発当初から、開発・エクステリアデザイナーと『Aピラーを引き、ノーズもしっかり造形して、ロングルーフにすることで空間も広くできる骨格にしませんか』などと意見を交わしていました。
“乗りやすさ”のためには設計変更も辞さず!
MOTA:プラットフォームの設計に関わるAピラーを、先代に比べてこれだけ動かしたのは、大変だったのではありませんか?市川氏:前に出したのを後ろに下げるのは大変で(笑)、Aピラー周辺の設計をやりなおしてもらいました。
2列目シートにもロングスライドを導入したので、車体強度を増す必要もありました。2列目シートはお子様がチャイルドシートやジュニアシートで座ることが多いと考え、シートベルトを背もたれに内蔵しました。
3列目シートも、ヒップポイントをあげるために床を少し高く、座面を増しました。3列目の格納とロングスライドシートという組み合わせも、大きな強みになると思います。
ボンネットの端も見えるインパネデザインで、車両感覚もつかみやすい
MOTA:四角く、水平基調なので運転がしやすそうです。市川氏:このサイズだと運転を敬遠する女性もいらっしゃるかと思うのですが、四角い箱のようなクルマなので、慣れると運転しやすいと思います。
斜めにキックアップしたようなベルトラインだと、まっすぐ車庫入れができなかったりしますが、このクルマでは、稜線が綺麗に揃っていたり、ボンネットの端も見えるので、車両感覚がつかみやすいのではないでしょうか。
窓のサイズも、大き過ぎると視界は良くても逆に高速道路で怖い感覚があるので、安心感と視界をちょうど良い両立した大きさに設定しました。路面の動きが見えると、なんだかせわしない感じがありますよね。
新しい価値観を提供するAIRは、CMFデザインにも独自性アリ
続いて、新型ステップワゴンのCMFデザインに関する話を、株式会社本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ CMFデザイナー 唐見 麻由香氏にお聞きした。近年では、製品の価値を高めるために、色による印象・手触りや質感のデザイン・設計を行う「CMFデザイン」が不可欠となっている。CMFとはCOLOR(色)、MATERIAL(素材)、FINISHING(加工)の略だ。新型ステップワゴンでも、CMFデザインによってAIRとSPADAという2つの異なる世界観が表現されている。
MOTA:今回のステップワゴンは、カタマリ感のあるシンプルなスタイルとなりましたが、CMFデザインでもやはりそれは意識されたのでしょうか?Honda 唐見 麻由香氏(以下、唐見氏):はい、もちろんです。家にいるような時間の延長を提供したく、主張しないけれど気持ちが明るくなるような内装色を用いました。
エクステリアの色も、シンプルでクリーンなデザインに合わせて原色なども選んでみたのですが、それも合わなかったので、リビングにあるアイテムのような色を考えてみました。
暮らしに馴染む”やわらかな色合い”
MOTA:流行のアースカラーではないのですね。唐見氏:AIRに関しては、暮らしに馴染むことを意識しましたので、ふんわりやわらかな色合いを目指しました。
専用色のフィヨルドミストパールは、ソリッドに見えてパールを入れることで、やわらかな雰囲気、やわらかい面を見せてくれる色になりました。
MOTA:内装色は明るいグレーとブラックの2色あるのですね。明るい色の内装はちょっと……というユーザーも多いのではないでしょうか?唐見氏:パッと見ると普通のファブリックに見えても、使ってみると汚れが目立たないファブリック生地、コントラスト、色のコーディネートを考えました。マルチカラー的に色を混ぜたミックス感もポイントなので、試作を何度も繰り返しました。
シートサイドに『見えないシングルステッチ』を入れていることも強調しておきたいです。これにより、シートがかっちりときれいな形で見えます。見えないのだけど、ステッチを感じるようになっています。
今回は、『感じる』ことをとても重視してマテリアルを選択しました。
新型ステップワゴン SPADA(スパーダ)はスポーティかつ上質に
唐見氏:SPADAは、従来のクルマが持っている、運転するよろこびや所有するよろこびという価値を表現しているので、わかりやすいです。 そのため内装色はブラック1色で、質感も高めにしました。シート形状もスポーティにしました。ダッシュボード上面とドア上部も、AIRと異なりプライムスムースを適用して、高級感をアップさせています。
クルマのデザインは内外装デザイナーだけでは成り立たないという事実
パッケージングデザイナーとCMFデザイナー、まだまだ一般にはあまり知られていない職種かもしれないが、新型ステップワゴンの成り立ちにおいて各々が重要な役割を果たしていたことがお分かり頂けただろう。しかもお話を伺って、共に女性らしい目線や気配りが随所に込められていたことが非常に印象的だった。次回はホンダ 新型ステップワゴンの内外装について、改めてデザインという視点から解説していく予定だ。
[筆者:遠藤 イヅル(イラストレーター/ライター)/撮影:島村 栄二・Honda]
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