日産 新型アリア試乗解説┃日本の美を散りばめた内外装に国産BEVらしいなめらかな加速が魅力
MōTA / 2022年6月6日 12時0分
2022年1月下旬に販売、同年3月下旬に発売を開始し、いよいよオーダーした人の間でも納車完了の声が聞こえてきた日産 新型アリア。注目の国産BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー駆動の電気自動車)を自動車ジャーナリストの今井優杏さんが試乗したのでその模様をお届けします。
みんなの期待値が高い日産 新型アリア
毎度YouTubeの話で申し訳ないのですが(筆者のチャンネル『今井優杏の試乗しまSHOW!』のことです)、正直、このクルマほど「え?そんなに注目度高かったの?」と思わされたことはありません。少なくとも昨年までは電気自動車(EV)動画のセオリーとして、アクセスは少ないけれど好きな人は最後まで観る、みたいな傾向が強かったからです。しかし、新型アリアは最初から爆発的に“回った”。いやはや、それほどの期待値で出てきたという、何よりの証拠だと思います。そして実際に今回試乗した日産 新型アリアは、そんな期待度をある意味で上回り、ある意味で下回る結果となりました。正直にお伝えしていきます。良い意味で国産SUVらしからぬ際立った個性の外装
まず、上回ったのは高い品質。商品力が高い、とも言い換えられます。外装・内装ともに伝統的な“日本の美”からインスピレーションを得たというモチーフがあちこちに散りばめられています。グリル部分にあたるシールド部には組子細工のような幾何学模様が入り、同様のモチーフが室内にもふんだんに配されています。
また、日産の先進デザインのキモである“Vモーション”と呼ばれる意匠が与えられたグリルまわりの美しさそのものも圧巻。LEDライトの効果的な演出は、先述の組子モチーフと組み合わされて、新型アリアのたっぷりしたボディーサイズ(エクストレイルと似たようなディメンションになっていますが電気自動車らしくホイールベースが延長され、エレガントな姿をしています)の中で印象的な表情を醸し出しています。 そんなツルンとしたフロントフェイスに対して、意外にもプレスラインを強く押し出したサイドビュー。そして高見え感抜群のリアライト周辺。ICE(内燃エンジン)のエクストレイルに比べても長いホイールベースは、その威風堂々ぶりに拍車をかけています。“暁アカツキ サンライズカッパー”と名づけられた、甘いピンクゴールドのようなCMやカタログなどでよく目にするカラーも、ノーブルな新型アリアの存在感を際立たせるよう。立ち姿だけでも、良い意味で国産SUVらしからぬ、際立った個性を匂い立たせています。
箱庭のように凝縮されて散りばめられ、ミニマルな日本家屋を思わせる静謐を内包した内装
さらなるサプライズは内装にもあります。ごく個人的には日産史上、最も美しいと言っても過言ではないかも。世界観が上手に箱庭のように凝縮されて散りばめられ、ミニマルな日本家屋を思わせるような静謐を内包しているようです。
実は日産には、新型ノートあたりから少し、内装に関する質感のブレイクスルーがあったんじゃないかと推測します。それほどに新型ノート、そして新型ノートオーラと、セグメントを越えた室内空間づくりがなされてきました。特に新型オーラに関しては外装でも新型アリアを思わせるような“匂わせ”があったので期待はしていたのですが、目の前にした新型アリアの内装は、控えめに言っても想像以上の美しさでした。
試乗車に用意されたのはグレー内装のもの。このカラーリングの妙にも心躍りました。新型アリアには黒基調の内装も用意されていますが、個人的には断然、グレーをお勧めしたいと強く思ったほど(あまりに美しいから、テレビ番組にて新型アリアを紹介する際、グレー内装のモデルに差し替えをお願いしてしまったくらい!)。このグレーはトーンが明るく、落ち着いたホワイトのような明るさで、ドアを開けた瞬間にふっと心が華やぐような、安らぎと華やかさを兼ね備えていると感じました。
水平基調のダッシュボードには、モノリスと呼ばれるフラットで水平なインターフェースが収まっています。メインディスプレイとメータークラスター、2枚のパネルを一枚に連結させたかのようなデザインで、双方グラフィックも美しくて視認性も非常に高いです。 メインディスプレイの下には木目のパネルがあしらわれ、スタートボタンを押して新型アリアを起動させた瞬間、木目パネルにクライメート系のスイッチがふんわりとバックライトのように浮かび上がる仕組み。触るとクリック感もしっかりと感じられますが、あくまでも木目のデザインを崩さないよう控えめに光ります。 外装にも取り入れられた組子モチーフは、室内にこそ多用されていて、こちらもほっと安らぐような空間づくりに貢献しています。ドアパネルやフロア足元のセンターコンソール下部に配され、それぞれ間接照明のように、ふんわりと優しい光を投げかけます。 センターコンソールにはひとつ、電気自動車ならではの仕掛けが用意されています。最大20センチ、後方に移動させることができるのです。これは充電中に運転席でくつろぐ際、シートをリクライニングさせたときにもアジャストするように、という気遣いだそう。電気自動車ならではのフラットフロアの恩恵は、ほかにも後部座席の足元の広さにも貢献しています。ただでさえロングホイールベースで広い足元が、平滑なフロアのおかげでさらに広いのは、大人数でのロングドライブをさらに盛り上げてくれるでしょう。
4種類の組み合わせのパワートレーン
さて、クルマとしての性能では、新型アリアは合計4種類の組み合わせのパワートレーンを持つことになります。まずは2WD/4WD(e-FORCE)、そしてバッテリー容量の大小(66kWh/90kWh)です。試乗に用意されたのは2WD(FF)の66kWh。B6と呼ばれるベースグレードモデルです。4WDと大バッテリーモデルは順次追加される予定となっています。一充電での航続距離は470km(WLTCモード)。競合Dセグメントクロスオーバー系電気自動車に比べると、やや短いという印象ですが、さらなる航続距離を求める人は90kWhの大容量版を待ってください、という設定。ユーザーのニーズ(お財布事情)に合わせて2種類のバッテリー容量を用意したあたりなどに、すでに電気自動車のリーフを持ち、ユーザーの声を拾ってきた日産としての経験が透けて見えます。
ユニークなのは、グレードの考え方。ベースグレードというのは電池と駆動の違いだけで、装備などは共通となっている点。つまり、今回試乗したB6でも、最上級の室内空間と外装を楽しめるということです。
国産BEVらしいなめらかさ重視の加速
試乗シーンは羽田空港周辺。まず、走り出しの静粛性には十分な満足感を覚えました。標準19インチ、オプションで20インチと、デザインを重視した大径タイヤの選択に最初は驚いたけれど、下からのノイズもきれいに抑えられていて、非常に落ち着いた走り出しを見せます。
トルクの出し方に関しては、国産BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー駆動の電気自動車)らしい、なめらかさ重視の加速に好感が持てました。輸入プレミアム勢のように、勢いよく大トルクに任せたような、飛び出る感じの味付けではなく、あくまでも日常に寄り添うような優しい出力となっています。このあたりもやはり、リーフからのフィードバックが生かされているのでしょうか。アクセル踏力に対して、もちろん強く踏み込めばBEVそのものの鋭い加速が生まれますが、日常域での緩めの踏み込みに対しては、その踏力なりにふんわりと進みだすようになっていました。この辺はFWD(前輪駆動)でも走りに不満や遜色はなさそうです。重量に対しての非力感も勿論なく、むしろ航続距離の面ではFWDのエコさのほうが有利になってきそうだと感じました。
交差点の角を曲がるような低速でのコーナリングも、まったりとロールを見せて優しい感じ。ハンドルの手応えはカッチリしていつつもニュートラルは的確なので、ひらりひらり、というようなスポーティーな感じではないものの、重厚感のある操作感になっています。
高速道路での“揺すられ感”の改善に期待
しかし、高速道路に入った瞬間に印象が少しネガティブに傾きました。特に横羽線あたりの、路面が荒れているエリアに入ると、フワフワと室内空間が揺れ続けるのです。揺れ始めると柔らかめのサスペンションがそれをまた拾い、揺れのグルーブに飲み込まれてなかなか揺れが収束せず、ハンドルを握っていてもちょっと気持ち悪くなってしまう、という具合。一般道の速度域では感じなかった“揺すられ感”が、高速では発生してしまう。
スポーツモード+eペダルという、いわゆる回生量が最大になるワンペダルドライブモードに入ると、この回生によるブレーキGで、症状はさらに深刻になってしまいました。
正直、これはとても残念。
内外装ともに完璧。こんなに人の心を揺さぶるクルマは、国産車でもなかなかありません。今、商談に入っているオーナー候補の方々がほとんど輸入車からの乗り換えというのも納得できます。新型アリアだからほしい、と思わせる傑作ではないかと思います。大袈裟ではなく。
しかし、それだけの期待があるからか、乗るとこの症状に輸入車オーナー勢はきっとがっかりするだろうなと、辛口ですがそう思わざるを得ませんでした。ここだけの話、走りの質感は先日発表された軽EV「SAKURA」のほうが数段上。
しかし、きっとリアに駆動を持ったe-FORCEや大バッテリーモデルはまた、感覚が変わってくるだろうし、開発陣もこの症状には気がついているようだったから、早い改善を期待できるはず。サスペンションの変更だけでもかなり改善されそうな印象を受けたので、すでにオーナーになった諸兄は、サードパーティも参考に入れると良いかと思います。
ともあれ、高い商品力であることに違いない新型アリア。
全読者の方にとにかく言いたいのは、ちょっと日産の本気を、ディーラーに見に行ってみて!ということなのです。石庭風フロアマットとかほんと、感激しちゃうと思います!
[筆者:今井 優杏 撮影:MOTA編集部・日産自動車]
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