日本車や日本人もチャレンジしたニュルブルクリンク24時間レース2022! 過酷なコースでの耐久レースにこぞって出場する狙いとは
MōTA / 2022年6月18日 12時0分
2020年春に起きたコロナ禍の影響で、2020年は9月に日程変更されたうえで完全無観客、翌2021年は1万人限定で観客を入れて行われたニュルブルクリンク24時間レース。 5月26~29日に予定された2022年はどうなることかと思っていましたが、ドイツと周辺国の感染状況が落ち着いてきたこともあって、3年ぶりに完全有観客で開催されました。 今年のニュルブルクリンク24時間レースはスバルSTIやトヨタ・ガズーレーシング・ヨーロッパ、そして日本人ドライバーの木下隆之選手などが参戦しています。 今回はジャーナリストの竹花寿実さんによるレースレポートをお届けします。
ニュルブルクリンク24時間レースはコースの長さ
ニュルブルクリンク24時間レースは、ドイツ・ラインラント=プファルツ州のニュルブルクという街にあるサーキット「ニュルブルクリンク」で行われる耐久レース。
初開催は1970年ですが、74年と翌75年は第一次オイルショックのため中止となったことから、今年は50回目の開催となりました。
また今年はBMW M GmbHが創立50周年の記念すべき年ということで、盛り上がりに一役買っていました。この耐久レースの最大の特徴は、1周が25.378kmという、他に類を見ないコースの長さです。
F1やDTMなど他の有名なレースにも使用される全長5.148kmのGPコースと「ノルトシュライフェ(北コース)」と呼ばれる全長20.832kmの旧コースを繋いだコースは、87ものコーナーと、290mもの高低差があります。
GPコースはとても近代的で、エスケープゾーンも広いのですが、ノルトシュライフェは舗装路の直ぐ側にガードレールが迫り、しかもブラインドコーナーだらけで全くミスが許されないという危険なコース。それが「グリーンヘル(緑の地獄)」と呼ばれる所以です。 そんなニュルブルクリンクをハイスピードで走り続ける24時間レースは、マシンにかかる負荷が凄まじく「1周が800kmの走行テストに相当する」と言われています。そのため世界中の自動車メーカーがこぞって参加するイベントに成長しました。2022年は日本メーカーや日本人ドライバーも参戦! 過酷なレースの経験を市販車にフィードバックする
日本からは1990年に日産が初参戦し、トヨタも2007年に現在の豊田章男社長が副社長時代にガズーレーシングとして参戦開始。2008年からはスバルSTIも挑戦を続けています。
ここ2年はコロナ禍のため、日本からの参戦は見送られていましたが、今年はSTIが復帰。STIは今年、大幅な改良を施したニューマシン「SUBARU WRX STI CHALLENGE 2022(114号車)」を持ち込んでの参戦となりました。
2.0リッター水平対向ターボのエンジンは従来どおりですが、タイヤサイズ拡大や燃料タンク大容量化、車両重量1300kgに合わせたセットアップ、電動パワーステアリング採用などにより、グリップ性能向上やピット回数低減、ドライバーの負担軽減などを図り、前回参戦した2019年に続くSP3Tクラス優勝を狙います。
レース前に辰己英治総監督は「予選はクラストップでしたが、小さなトラブルはまだあります。セットアップが2019年と大きく違いますから簡単ではありません。タイヤが太くなってグリップは上がっていますが、重量は80kg増えていて、エンジンパワーは変わらないので、コーナリングで稼がなければなりません。重量配分は良くなったんですけど、それに合わせるのにちょっと時間がかかりました。予選では9分を切りたかったんですけどね。予選は58位でしたが、決勝ではクラス優勝と、総合20位以内を目指したいです。GT3(SP9クラス)だけで33台いるので、そこに食い込んでいきたい。マシンの速さだけでは勝てないので、チーム力で勝負したいです」と意気込みを語ってくれました。
チームだけではありません。ニュルブルクリンク24時間レースに参戦する日本人で最多となる同レース参戦回数を誇るレーシングドライバーの木下隆之選手が今年、4年ぶりに挑戦しました。 ドイツのシューベルトモータースポーツから、BMW M2レーシングカップ(880号車)でCup5クラスに参戦する木下選手は、予選ドライバーを任されて予選91位を獲得。「4年ぶりだけど、ニュルを走る楽しさが忘れられないんだよね。ニュルでレースをする以外では味わえないアドレナリンがドバドバ出る感覚に取り憑かれている。チームはとてもアットホームでリスペクトもしてくれて、とても気持ちよく走れてる。今年62歳だけど、あと20年は走ろうかな(笑)。決勝はスタートドライバーになりそうだけど、淡々と走って1周でも多くニュルの楽しさを味わいたいよ」と落ち着いた様子を見せていました。
久々の有観客レースに多くの来場者が詰めかけた! 2022年のレース決勝はドイツ勢を中心にトップ争いを繰り広げる
決勝当日は、朝から多くの観客がサーキットに集まっていました。スタート前のグリッドウォークでは2019年までと変わらない人混みで、とくに先頭付近はマシンが見えなくなるほど。
現地時間5月28日午後4時、いよいよ24時間レースの決勝がスタート。序盤は予選トップだったフェラーリ 488GT3 Evo20(26号車)やBMW M4 GT3(99号車)、ランボルギーニ ウラカンGT3(7号車)、アストンマーティン ヴァンテージAMR GT3(90号車)などがトップ争いを繰り広げますが、スティント(1人のドライバーが担当走行する区間)を重ねるうち、徐々に入れ替わりもありました。
スタートから3時間25分、トップから10秒以内で4位を争っていたマンタイレーシングのポルシェ 911GT3R(1号車)が、コース内の長いストレートのエンド部分に当たるティアガルテンと呼ばれる箇所の先でアウディ R8 LMS GT3 EvoII(15号車)と接触してクラッシュする波乱が起きる中、アストンマーティン ヴァンテージAMR GT3(90号車)は6時間以上上位に食らいつきますが、午後9時半過ぎに日没を迎えた頃には、ドイツ勢が首位争いの中心になっていました。 ナイトセッションに入る頃には、STIは52位まで上昇。燃費の良さを生かしてロングスティントを行うフォルクスワーゲン ゴルフGTI TCR(10号車)に追われつつも、クラストップを守り続けていました。 深夜には気温が5度を下回るほど冷え込みましたが、雨が降ることもなくドライコンディションで暗闇のレースが続きます。時計の針が12時を回ると、15号車のアウディがトップを走る時間が長くなりはじめました。 間もなくスタートから11時間が経とうとする午前2時50分頃、114号車のスバル WRX STIにアクシデントが発生します。佐々木孝太選手がドライブ中に、シュヴェーデンクロイツ(およそ6km地点)で、6速全開、245km/hで左フロントサスペンションが壊れ、部品がホイールリムを破壊してタイヤがバースト。マシンはそのまま先の左コーナーで右側のガードレールに当たって止まってしまいましたが、佐々木選手は無事でした。その後マシンは、午前5時過ぎにトランスポーターに載せられてピットへ戻りますが、マシンは車体後部のフレームにもダメージがあり、チームはレース中の修復は不可能と判断。午前6時前にリタイア(95周)を決断しました。
辰己総監督はこう語っています。「残念ですが、これも実力というか、まだまだ甘かったですね。いろいろ調べたら、クルマ作りを失敗したなと。クルマをかなり変えてきて、検証が甘かった。重量増とグリップ向上で、コーナリング中にサスペンションにかかる負荷が増していたのですが、それが想定以上だった。今年は来年のための予行演習になってしまいました。我々はレースに勝つことだけが目的ではなくて、全国から集ったディーラーメカニックに経験を積ませてモチベーションを高めてもらうことに主眼を置いています。ただ、スバルのお客さんは我々に勝ってほしいと思っていただいている。目的が半分達成できなかったとは感じています。」
ドライコンディションのままレースが進むかと思いきや、残り4時間を切った昼の12時過ぎに雨が降り出します。その後一度止み、青空も見えましたが、13時30分頃に再度降り出しました。この雨はコース上のいくつかの地点で激しく降り、これが首位争いに影響を与えました。それまでテール・トゥ・ノーズでトップを争っていた15号車のアウディ R8 LMS GT3 Evo IIと、3号車のメルセデスAMG GT3の差が徐々に開き始めたのです。
残り1時間の時点でギャップは45秒にまで広がり、最終盤には雨も上がり、3号車のメルセデスAMG GT3は再びギャップを縮めたものの時既に遅し。24時間経過後に15号車のアウディ R8 LMS GT3 Evo IIがトップチェッカー(159周)を受けました。アウディのニュルブルクリンク24時間レース総合優勝は、今回が6回目。しかも今回はトップ10に4台が入り、昨年(5位が最上位)から大きな飛躍を遂げました。
2位と3位には、メルセデスAMG GT3の3号車(23秒差)と4号車(3分33秒差)が入り、ドイツ勢が表彰台を独占した結果となりました。木下選手のBMW M2レーシングカップ(880号車)は、安定した走りでクラス優勝(総合48位)を達成。木下選手はナイトセッションで2スティント連続で走行するなど24時間中7スティントを走行。チームの中心として大きな役割を果たしました。
「ニュルってクラスとかあまり気にならないというか、違うクラスでもその時競っているクルマがライバルになる。久しぶりに走って、また色んな発見もあって、勉強になった。ニュルはよく知っているつもりだったけど、まだまだ新しい発見がある。あとシューベルトモータースポーツはDTMに勝ったりするだけあって、かなり高度なことをやっていて、チーム戦略は日本よりレベルが高いと感じた。ドライバーだけじゃなくて、チームの人間もこっちへ来て学べることがあると思った。僕自身はチームからもそれなりに評価してもらえたと思うけど、決勝中はなかなかクリアラップが取れなくて、タイムで爪痕を残せなかったのが残念かな。アドレナリンは大量に出たね! スリックタイヤで雨が降ってきたときには嬉しくなっちゃったもん(笑)」と、全力でレースを楽しんだ充実感に溢れた表情で語ってくれました。今年のニュル24時間レースにはGRスープラGT4も登場! 再生エネルギーを活用した合成燃料を使用して挑戦
最後になりますが、今回のニュルブルクリンク24時間レースで、注目すべきマシンが1台あったので紹介しましょう。それはトヨタ ガズーレーシング ヨーロッパの有志チームが走らせたGRスープラGT4(86号車)です。
このマシンは、予選は66位、決勝は総合65位(126周)と目立った結果は残せませんでしたが、24時間を走りきったことに大きな意味があります。理由はこのスープラは、再生エネルギー由来の水素を用いた合成燃料「eフューエル」を燃料に使用するATクラスにエントリーしていたからです。
ATクラスは15年以上前からあり、以前はバイオエタノールやCNGが中心でしたが、今年は5台のエントリー全車がeフューエルを使用。ガズーレーシングは今回が初挑戦でした。
マシンは、とくにeフューエルに対応させるための改良などは加えていない標準仕様のGRスープラGT4です。
彼らが今回ニュル24時間に挑戦したのは「カーボンニュートラルへの道は一本ではない」ということを発信したかったから。BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリーで走る電気自動車)一辺倒のきらいがあるヨーロッパで、燃料をCO2フリーのeフューエルにするだけで、CO2削減に大きな効果があることを、多くの人に知ってもらうために参加したのだそうです。
なんと23万人もの来場者を集めた今年のニュルブルクリンク24時間レース。例年以上に激しいバトルが繰り広げられ、優勝争いも大いに楽しめましたが、様々な選手やチームが、それぞれに目的や情熱を持って戦う姿も見ることができました。「世界最大の草レース」と呼ばれるこのレースは、やはり世界一面白いレースと言えるでしょう。
【筆者:竹花 寿実】外部リンク
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