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【初試乗】新型アストンマーティン・ヴァンテージは、極めて硬派なピュアスポーツカーだった。

MotorFan / 2018年4月11日 8時5分

【初試乗】新型アストンマーティン・ヴァンテージは、極めて硬派なピュアスポーツカーだった。

アストンマーティンのピュアスポーツカー「ヴァンテージ」。実に13年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたこの新型をポルトガルにて初試乗した。その印象は、これまでとは一線を画する完成度を実感。まさに男のためのスポーツカーとなって生まれ変わっていた。 REPORT/野口 優(Masaru NOGUCHI)

そのイメージは完全に刷新!

実に13年ぶりのフルモデルチェンジである……。

アストンマーティン・ヴァンテージは、現行のDB11シリーズやヴァンキッシュのような“GT=グランドツーリングカー”という位置づけではなく、“ピュア・スポーツカー”として生を受けたモデルだ。先代のデビュー時など、あからさまにライバルとしてポルシェ911の名を挙げるなど、喧嘩をしかけるように派生モデルも含めて市場を盛り上げ、多くのエンスージアストを虜にした。しかもアストンマーティンの流儀と英国車らしく伝統を正当に受け継ぎながらライバルに立ち向かっていったのだから、ブリティッシュ・スポーツの真髄をも見せつけられた気がしたものだ。

そう思うと、13年ぶりにフルモデルチェンジしたこの新型「ヴァンテージ」は、大胆に変貌を遂げたとしかいいようがない。真横から見れば確かに“アストンマーティンらしさ”を思わせるものの、フロントフェイスはまるでアイアンマンのようにクール、リヤに関してはレーシングマシン並みの緊張感すら感じさせる。イメージカラーにライムグリーンを選んだあたりからも分かるように、この新型ヴァンテージは、アンディ・パーマーがCEOに就任してからの二作目ということもあるのだろう、新たなる主義主張が全身に渡って表現されているように思う。即ち、“旧来からの脱却”と“新たなる基軸”を目的に刷新したかったに違いない。そうでなければ、これだけ走りまで劇的に変わるとは思えない。


今回、我々ジャーナリストが、この新型ヴァンテージを相手にテストしたステージは、ポルトガルのアルガルヴェ・インターナショナル・サーキット。ここは極めて難しいコースレイアウトとして有名だ。高低差があるうえ、ブラインドコーナーも連続し、さらにスピードレンジも速ければ、タイトコーナーも多数含まれている。

「いきなり、ここでか!」と思わず叫びたくなったが、さらに驚くのは、最初の1セット(20分間)のみ助手席に乗るインストラクターからライン取りなどを学ぶだけで、あとは勝手にひとりで走ってくれ!というのだから穏やかではない。幸いにして私は過去にこのサーキットをポルシェで走行した経験があったからいいものの、本当にはじめてだったらと思うと本気でゾッとする。それほど難しいコースだから緊張感は早々にしてマックスに達していた。

しかし、そうもビビってはいられない。期待と不安を思いながらも、フロントミッドに積まれるV8ツインターボエンジンに火を入れ、パドルを手間に引いて早速コースインすると――。

先代とは比べ物にならないほどの俊敏性をまずは痛感する。ドライブモードは「スポーツ」、「スポーツ・プラス」、そして「トラック」と3モード用意されているが、この時はまだスポーツの状態。にもかかわらず、これだけのトラクションが得られるのかと思うと、この先が楽しみになってくるから期待は膨らむばかり。久々のコースにも慣れてきたから、今度はスポーツ・プラス、後にはトラックモードを選択し、ペースを上げていくと、強靭な剛性感を実感、そしてシャープながらもコントローラブルに応えてくれる優れたハンドリング性能をみせつけた。


久しぶりの人馬一体感。


これは素晴らしく良い! そして何よりも熱くさせてくれる! 実にエモーショナルだ。

ブレーキの効きも申し分ない。従来のスチールディスクとはいえ、さすがはフロント400mm、リヤに360mmのローターを備えているだけのことはある。ガツン!と踏めば見事に応えてくれるから遠慮なしに攻め込んでいける。コーナー手前でブレーキング、そしてアクセルをオンにして一気にターンを決めると、もはや快感に近いものが得られた。しかもリヤの流れ出しが分かりやすく、ニュートラルな姿勢に持ち込みやすい。これはまさにFR車ならではの歓びだろう。タイヤのグリップ感がリアルに伝わることもあって面白いようにペースが上がっていく。

それに今回、アストンマーティンがヴァンテージをデザインするうえでこだわったという、エアロダイナミクスの効果も確実に得られる。高速時におけるこの安定感は、2シーターのFRスポーツカーとしては稀なほどだ。まさに路面に這いつくばるように突進するから安心感まで伴う。そのうえ、車速感応型の電動パワーステアリングのフィーリングも優れているどころか、狙ったラインをトレースしやすいよう正確な舵角で楽しませてくれる。

しかも、アストンマーティンとしては初めて搭載した、Eデフ(エレクトリック・リヤ・デファレンシャル)が功を奏しているのも確かだ。すでにフェラーリなどでその効果の優位性を体感してきたとはいえ、FR車でダイナミックにドライブするにも信頼性があって実に頼もしく、滑り出しをスムーズにし、コントローラブルに制御するその完成度に感銘を受けてしまった。

それに加えて、510ps&685Nmを発揮する4リッターV8ツインターボのレスポンスも褒めるに値する。メルセデスAMG譲りのターボエンジンとはいえ、その味付けはAMG GTなどと比較すると対照的で、全開域でも扱いやすさが際立ち、あらゆる領域でも対応する懐の深さも併せ持つ。

もっともヴァンテージに積まれるエンジンは、AMG GTのそれではなく、C63 Sなどに搭載されるウエットサンプ仕様だから同等に比較するのはナンセンス。だが、それでもキャラクター的には、ほぼ同じラインにいるとあって比べたくなってしまうが、例え心臓部が同じでも、こうも性格が違うのかと思わせるのは、やはりこの優秀なシャシーのおかげもあるのだろう。ましてやZF製の8速ATは、もはやオートマチック車であることを忘れさせるほど変速スピードが速いから尚の事そう思わせる。


硬派な走りに隠された ”謎”と”期待”……。

しかし。こうして褒めちぎってばかりもいられない。

それが発覚したのは、2日目のワインディングと高速道路を試した時だった。サーキットでの印象と同様、峠では本気で楽しませてくれるのはいいが、2500rpmを超えたあたりからは、車内での会話は不可能だと判明。そしてロードノイズも大きい。サーキットでは走りに夢中になって気づく暇もなかったが、あまりにも遮音材を抑えすぎている気がする。これは最近のスポーツカーでは異例中の異例だ。

今やポルシェですら快適性を優先しているから室内は平穏に過ごせる時代。それなのに何故アストンは、こう仕上げてきたのか? もちろん、そこには狙いがあるはずだ。本来なら開発陣にその理由を聞くのが普通だが、結果がこうなっている以上、聞いても言い訳にしか聴こえないと勝手に判断し、自分なりに考えてみることにした。


これは、時代に対して逆行しているのは確実。しかし、これが狙い。つまり、新生アストンマーティン、即ちアンディ体勢になってからの明確な回答のひとつで、“刺激がなければスポーツカーではない”ということ。常に全身で感じろ!という意味だと解釈した。

考えてみれば、イギリスは、いまだにロータスやケータハムなど、個性的かつ古典的なスポーツカーが実在する国だ。マクラーレンにしてもカーボンモノコックをベースに快適性を実現しているものの、それでも車内での会話が厳しいのは確か。そう思えば、ヴァンテージの狙いが間違っているとも思えない。これほど刺激に溢れたFRスポーツカーは他にないことにも気づく。

つまり、もし快適性を求めるのであれば、DB11を選べばいいだけのこと。DB11にはヴァンテージと同じV8エンジンを積むモデルがラインナップされるし、グランドツアラーでありながらもエモーショナルに仕上げられている。


これは実に巧みな戦略だ。引き続きポルシェを例にするなら、911カレラですら日常性を優先するあまり快適性を優先している。しかしその反面、ラインナップ拡大を余儀なくされ、GT3との穴埋めとしてGTSまで用意する始末(といっても否定的ではなく肯定的な意味でもあるが)。だからアストンマーティンは、こうした時代の多様性が産んだ、なんとも悩ましい無駄なシリーズの拡大に対する答えを出したのだろう。そんな気がしてならない。多少エンジン音がうるさくてもドライブしていて心から楽しいと思えるならそれでいいじゃないか! 何の問題があるのか! そんなメッセージが新型ヴァンテージに乗ると聞こえてくる気がした。まさに男のために生まれた、久々の極めて硬派なピュア・スポーツカーである。

そして最後に……。アストンマーティンは、この後、アストンマーティン・レーシングの血統を受け継ぐ「ヴァンテージAMR」を近々に加える予定だ。これを分かりやすく例えるなら、ポルシェでいうところの911GT3に匹敵するモデル。極めてサーキットに近いロードゴーイングカーである。そう思うとさらに面白く、今回のヴァンテージが見せる高いシャシー性能の理由が浮き彫りになる。これ以上のパフォーマンスに対しても十分に対応できるのだから、如何に完成度が高いかが分かるはずだ。


まさに無駄を削ぎ落としたかのようにシンプルなデザインを採用したダッシュボード周り。アルカンターラをふんだんに使用するなどレーシーな雰囲気にそそられる。
レブカウンターを中央に配したメーターパネル。視認性もよく、瞬時にエンジン回転数を確認できるのが良い。
センターコンソールのデザインは近代的。エンジンスタートボタンを中央にして、左右にボタン式のドライブセレクターを配置している。
着座位置はかなり低い設定。そのぶん、メーターパネルは高い印象。かつてのアストンマーティンでは考えられないようなドライビングポジションを強いられる。
ラゲッジスペースには二名分のゴルフバッグが搭載可能。前方の仕切りも可倒式で、見た目より深さがある。
AMGから譲り受けるV型8気筒ツインターボエンジン。レスポンスも含めてそのフィーリングは実に頼もしい仕上がりだ。
従来のスチールディスクとはいえ、強烈な制動力を見せるブレーキシステム。サーキットを相当数周回しても問題なし。実に頼もしい。

【SPECIFICATIONS】
アストンマーティン ヴァンテージ
■ボディサイズ:全長4465×全幅1942×全高1273㎜ ホイールベース:2704㎜ ■車両重量:1530㎏(軽量オプション装着車) ■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:3982cc 最高出力:375kW(510ps)/6000rpm 最大トルク:685Nm/2000〜5000rpm ■トランスミッション:8速AT ■駆動方式:RWD ■ステアリング形式:パワーアシスト付きラック&ピニオン(電動式) ■サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク ■ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ:前255/40ZR20 後295/35ZR20 ■環境性能(EU複合) CO2排出量:245g/km 燃料消費料:10.5ℓ/100km ■パフォーマンス 最高速度:314km/h 0→100km/h加速:3.6秒


ASTON MARTIN VANTAGE

【予告】この「新型アストンマーティン・ヴァンテージ」に試乗した著名なジャーナリスト3名によるレポートをこの後から連載する予定(不定期)。乞うご期待!

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