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フォルクスワーゲン:1987年パイクスピークのツインエンジン式ゴルフⅡをレストア

MotorFan / 2018年5月3日 19時25分

フォルクスワーゲン:1987年パイクスピークのツインエンジン式ゴルフⅡをレストア

フォルクスワーゲンは1987年にふたつのエンジンを搭載したゴルフⅡでパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムに出場した。ドライバーのJochi Kleintとフォルクスワーゲン・デザインエンジニアのKurt Bergmannの両氏による果敢な挑戦だ。あれから30年たった今、フォルクスワーゲンはこのモータースポーツ史に名を残すマシンをレストアした。

ふたつもエンジンを載せながら、このゴルフⅡはわずか1020kgの重さだった。吸気管に一般的なパイプを使用するなど、様々なコンポーネントを見直すことでこの車重を実現できた。

金属が擦れる音とともに、今や製作から31年たったゴルフⅡのドアが開く。車内には模型用接着剤のようなにおいがし、プラモデル製作に没頭していた幼少期を何気なく思い出させる。しかし運転席を取り巻く様々な計器やスイッチ類を見れば一目でこれはオモチャなどではないことがわかる。この車はたったひとつの目的だけで作られた:伝説のパイクスピークを最速で登りきることだ。

パイクスピーク走破の夢をゴール直前で打ち砕く原因となったスイベルジョイント

パイクスピークの怪物

レストアを担当するJörg Rauchmaul氏は「Kurt Bergmann氏が手掛けたマシンの中でも、1987パイクスピーク ゴルフⅡはケタ違いだ。彼のチームがこれをわずか6か月という期間で作り上げたというのは奇跡だ。歴史的にみてもこの車両に代わるものはない。これを再び走らせられることを誇りに思う」という。

ふたつの4気筒16バルブエンジンはそれぞれKKKターボチャージャーによって1.6barの過給がなされている。

両エンジンにつけられたKKKターボチャージャーによる1.6barの過給により、ゴルフⅡGTⅠ由来の16バルブ1.8Lエンジンは2機で480kW (652ps) の出力を誇った。しかも車体全体でわずか1,020キロの重さであった。ふたつのエンジンそれぞれにHewlandレーシングトランスミッションが搭載されており、4輪駆動・前輪/後輪駆動のどちらでも走行が可能であった。


スタンダードのホイールと比べてマグネシウムの含量を多くすることで軽量化を実現している。

繊細な超大作

1987年のパイクスピーク・ヒルクライムでは序盤からゴルフⅡは好タイムで走っていた。しかしゴール直前でコントロールを失い、ドライバーのJochi Kleinは止まってしまった。グリースニップル用にスイベルジョイントに開けられた小さな穴から亀裂が生じてしまい、ジョイントが破壊されてしまったのだ。「レストアするにあたって、できるだけ当時の状態を残したい。我々はこの車を再び走らせることができるように最低限の手を加えているだけだ」とJörg Rauchmaul氏は言う。

インテークマニフォールドはレイアウトを含めて再設計され、ターボチャージャーからの空気の流れが最適化された。

入念なレストアで明らかになるディテール

Jörg Rauchmaul氏はレストア作業を始める前から、パイクスピーク ゴルフⅡの詳しい話を聞けるのはデザインエンジニア本人しかいないということを十分に知っていた。「たとえこのマシンが量産車に似た外見をしていても、中身は別物だ。我々はウィーンにいるKurt Bergmann氏本人に直接連絡し、当時の技術やデータを聞いた」という。当時のレースによる膨大な熱や衝撃により、30年前のマシンは相当なダメージを負っていた。リアの部品を一度すべて取り外さなければならなかったうえ、ゴムパーツも正確な加工が求められていたため作業は長引いた。また、燃料タンクの保護用のクッションも劣化していたりするなど、一見わからなかった損傷個所も複数発見された。


ラジエータの温度が限界を迎えそうになるとふたつのノズルから水を噴射する。シンプルかつ独創的な手段だ。

羊の皮をまとったゴルフ

前後に搭載されたふたつのエンジンは完璧に調整されてなければならなかった。少しでも動力供給でズレがあればコントロールは不可能であったからだ。Rauchmaul氏はレストアするにあたり、ふたつのエンジンを177~191kW (240~260ps) の範囲に出力目標を置いている。「このゴルフは信頼性もあり速い。しかし繊細な点もある。だから我々はエンジンを限界まで持ってこない。30年も経ったマシンがかわいそうだ」

試走の様子。エンジンのキャリブレーションが済むたび、レストアチームはこのクルマを走らせていた。そりゃそうだろう。

それでも、緊急用スプリンクラーや後方のラジエータに搭載された温度制御用ファンなどは完璧に機能しなければならない。368kW (500ps) の出力を出すエンジンが限界に挑んでいる過酷なレース環境では、洗練された冷却システムは不可欠であった。レースの最中には60℃を記録することもあり、ドライバーのみならずあらゆるトラブルが生じてしまう。さらに当時のタイムアタックではマシン後方の空力的な都合もあり、エンジンルーム内の温度上昇が避けられなかった。

しかしこの問題について、Bergmannはシンプルかつ有効な手で解決した。クリティカルな温度まで上昇してきたらスプリンクラーが作動し、小型ラジエータを一気に冷却するのだ。「彼らしい天才的な発想だ」とJörg Rauchmal氏は言う。


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