室屋3連覇ならず。作戦変更を余儀なくされた舞台裏/レッドブル・エアレース千葉2018
MotorFan / 2018年5月31日 9時5分
時速370kmのエアレース機が目前を駆け抜ける。レッドブル・エアレース2018の日本大会が5月26日(土)、27日(日)千葉県千葉市美浜区で行われた。3連覇を期待された室屋義秀選手は失格に終わる。その背景にあったのは、尾翼の変更だった……。 REPORT●後藤 武(GOTO Takeshi)
先日行われたレッドブル・エアレースで3連覇が期待された日本人パイロット室屋が決勝第一ヒート、ラウンドオブ14でオーバーGのペナルティを受け、失格となってしまった。
理由の一つは、先行だったマット・ホールが予想していたよりも1秒近く速いタイムを出して焦ってしまったこと。そしてもう一つが尾翼を変更したことで操縦のフィーリングが微妙に変わってしまったことだった。今回は、この機体の空力とパーツに関して詳しく説明してくことにしよう。
レッドブル・エアレースでは、機体の空力パーツに関しては変更が許されている。室屋はスモールテールと呼ばれる小型の垂直尾翼を取り付けることで空気抵抗を減らすトライをしていた。
スモールテールのように思い切った変更の場合、調整や練習に時間がかかる。だからシーズン中、どこで使うかは良く考えなければならない。冒険して失敗して舞うとレースの成績に影響してしまうからだ。
室屋チームの場合、今回の変更は日本ラウンドで行うことになった。ベースとなる福島スカイパークで作業やセットアップが可能だったからだ。他のレースのときに比べれば時間的にも設備的にも余裕が出てくる。
ところがこのパーツにすることで、安定感が損なわれ、機体が暴れ気味になってしまった。垂直尾翼は風見鶏効果で飛行機を左右方向に安定させる役目を持っている。また、垂直尾翼に取り付けられている方向舵は、機首を左右に向けるだけでなく、機体の滑りを調整する役目がある。機体が滑ってしまうと抵抗が増えて減速してしまう。
土曜日の予選まで、室屋はスモールテールを使って調整をしていた。しかし、神経質が消えることはなかった。ギリギリを攻めるレースで、この神経質さは、ペナルティにつながる可能性もある。そう考え、土曜日のフライトが終わってから尾翼を変更することにした。
変更するとはいっても、それまで使っていた状態に戻すだけのこと。舵の効きや操縦の感覚に関しては何も問題ないという考えだった。
fastest looserで決勝に上がる考えはなかった
日曜日、最初のヒートとなるラウンドオブ14でぶつかったのは、オーストラリアのマット・ホールだった。室屋とは同期。元空軍のトップガンスクールで教官をしていたホールは、機体、パイロット共にとても速く、今期調子がいい。組み合わせは、土曜日の予選のタイムで決まったのだが、一対一の勝ち抜き戦となるレッドブル・エアレースでは、序盤で当たりたくない相手だった。
どちらかは勝って、どちらかは負ける。しかし、ラウンドオブ14では、7組が対戦して、勝った7人と、負けたパイロット達のなかから最速タイムを記録した一人(fastest looser)が、次のラウンドオブ8に進出できる。室屋とホールの戦い、どちらかが負けても、fastest looserとして二人共勝ち残るのではないか、そんな声も少なくなかった。
先行となるマット・ホールがゴールした瞬間、会場はどよめいた。トップグループが56秒台しか出ていなかったのに、たった一人、55秒台を叩き出したのだ。次のフライトのスタートをしようとしていた室屋の耳にもこのタイムは聞こえてきた。想定していたより1秒近く速いタイムだった。
予定していた飛び方ではホールに勝てない。スタートゲートに向けて飛ぶコクピットの中、室屋は短い時間で作戦の変更を迫られた。そしてホールのタイムを超えるためのライン取りを考えた。fastest looserを狙って飛ぶなどという考えは持っていなかった。
そしてタイムを詰めようと、勝負どころの一つ、バーチカルターンで小さく回ろうとしてリミットの12Gを越えてしまったのだ。ホールのタイムを越えなければという焦りに加えて、テールの変更によって操縦のフィーリングがわずかに変わっていたかもしれないと室屋はレース後に語っている。
垂直尾翼と方向舵は、バーチカルターンで使用する昇降舵に直接影響はしないはずだ。けれど同じテールセクションにある尾翼だけに、舵を使った時、空気の流れ方が微妙に変わったのかもしれない。
こうして幕張ラウンドでノーポイントとなった室屋。しかしランキングは、いまだ同ポイントで3位につけている。シリーズも始まったばかり。この失敗を糧にして、次からのレースに全力で取り組むと語る。ディフェンディングチャンピオンのここからの戦いぶりに期待したい。
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