新世代スポーツ「BMW i8」のマイナーチェンジは、何が進化したのか?
MotorFan / 2018年6月14日 18時20分
次世代へ向けて造られたBMW iシリーズ。その中でもデビュー以来、注目され続けている「i8」がマイナーチェンジされ、早々に試乗する機会に恵まれた。果たしてその内容と印象とは?日本上陸直前情報としてお届けする。 REPORT◎山田弘樹(Koki YAMADA)
プレミアムかつスウィートなライド感!
なんて気持ち良いスポーツカーなんだ!!
BMW i8ロードスターのステアリングを握り、アクセルを踏み込んで、ボクは遂にBMWが新しい時代のスポーツカーを”モノ”にしたと感じた。
BMW i8。それは2013年に登場したプラグインハイブリッド式の2+2クーペである。
アーキテクチャーの核となるのは「パッセンジャー・セル」と呼ばれるカーボン製モノコック。しかしi8はこれを既存のスーパースポーツのようにシャシーの中心に据え、前後にサブフレームを取り付けてボディを完成させるのではなく、駆動系を含めたシャシー「ライフモジュール」にドッキングさせているのがi8のひとつの特徴だ。
それは、i8がP-HEVスポーツカーとして、そのセンタートンネルに長細いバッテリーを配置しているから。BMWはこれを構造体として活用し、軽量なパッセンジャー・セルとCFRP製のアウタースキンを被せることで、重量のかさむP-HEVスポーツカーを1500kg前半の車重に納めた。
また、その車体中央にはコンパクトな直列3気筒ターボエンジンを横置き搭載。フロントをモーター駆動することでミッドシップの軽快感と4WDの安定感を得ると同時に、+2のリヤスペースまで確保した(クーペ)。
そんなi8が登場から約5年の歳月を経て、マイナーチェンジを受けた。当初ボクはこのM/Cに対して、完全に高を括っていた。だって試乗のロケーションはスペインのマヨルカ島。そして試乗車はロードスターである。つまり最新のオープン2シーターでリゾート気分を満喫する、極めて優雅な旅路だと考えていたのだが。BMWはきっちりとその中身にも進化を与えていたのである。
具体的にはまずEV性能が向上した。搭載されるリチウム・イオンバッテリーは容量を13Ahから33Ahへと拡大し、前輪を駆動するモーターの出力は12ps(9kW)アップの143ps(105kW)となった。
これによって純EV走行の航続距離は35kmから55kmに(ロードスターは53km)。プリウスPHVの68.2kmと比べればやや見劣りするものの、それは欧州のEVカーレベルとしては秀逸で、たとえばゴルフGTEの45kmを大きく上回る。20インチの大径スポーツラジアルを履くスポーツカーとして考えても、なかなかの数値だ。
そしてこれに、1.5リッター直列3気筒ターボ(231ps/320Nm)の出力を合わせると、その総合出力は374psとなる。ひとつのトランスミッションでエンジンとモーターを協調制御しないせいだろうか、単純にモーター+エンジンのパワー合算がi8の総合出力となるようだ。
0→100km/h加速は4.4秒(ロードスターは4.6秒)、最高速は250km/h(ロードスターも同様)。そして燃費性能は、1.8リッター/100km(欧州基準EU6で測定。ロードスターは2リッター/100km)、CO2排出量は42g/km(ロードスターは46g/km)を達成した。
そんなi8ロードスターを走らせて嬉しくなるのは、乗り味がまったくもってエコカーを感じさせないこと。
「COMFORT」モードは65km/h以上になると充電のためにエンジンを始動させるというが、新型i8はそれをほとんど意識させない。ゼロ発進をモーターでするすると進み、軽快なハンドリングで曲がり角をひとつクリアするだけで、“ふわっ”と気持ちをさらわれてしまうのだ。
これこそはi8ロードスターがスポーツカーだからである。同じP-HEV構造を持ちつつもより重心が高く、慣性マスの大きな実用車たちに対してその動きは圧倒的に軽やかであり、リニア。つまりEVとスポーツカーの親和性はとても高いと言える。
またどうやら新型i8/i8ロードスターは、サブフレーム周りのブッシュコンプライアンスを改善して、その乗り心地を改めたらしい。かつてはリジッド的だった突き上げが減ったと同時にモーターの強烈なトルクや、それこそエンジンからの振動が上手に減衰されるようになったのだと思う。だからモーター特性も活かされ、プレミアムかつスウィートなライド感が味わえるのだ。
そして短いシフトノブを左に倒せばドラマが始まる。それまで粛々と働いていた1.5リッターターボはハッキリと個性を主張し始め、ターボながらも小排気量な特性を活かしてきっちりと吹け上がる。そのサウンドはスピーカーによって増幅されているものの、あくまでこの3気筒エンジンのノイズをカットし、エモーショナルなサウンド部分だけを抽出しているから、わざとらしく聞こえない。3気筒特有のビートが心地良く炸裂するのである。
足まわりはダンピングを高め、EPS(電動パワステ)がグッと重みを増す。バッテリーはかなりの重量だが、床下配置による重心の低さでそのイナーシャを最小限に。同様に3気筒エンジンも環境性能以上にミッドシップとしての旋回性能に貢献している。
また4WDを感じさせないフロントの駆動がその鋭さを影ながら支えて、374psを完璧に支配している部分にも唸らされる。ワインディングでは細かなカーブも思い通りに曲がり、高速巡航では安心してアクセルを踏み込むことができるのである。今回は130km/h巡航しかできなかったが、250km/hの最高速は伊達じゃないだろう。
最後はここに、今回の目玉であるオープントップについて。まず見事なのはその造りで、コンパクトな縦型収納でリヤシート部分にこれを納めるスピードは約15秒。かつ時速50km/hまでその操作が可能となっている。
それを達成したのは軽さと造りの確かさで、たとえばそのソフトトップには3Dプリンターを用いて作られた骨組みが投入されている。こうした努力によってその重量はクーペに対し60kg増の1595kgに抑えられた。またカーボンモノコックを切り取ったことによる剛性の低下も意識させられることはなかった。
こうして得られたオープンエアライドは、i8のクール&エモーショナルな走りと抜群に水が合う。そのあまりの気持ちよさに「どうして最初からこれをラインナップしなかったんだ?」とBMWのエンジニアに問うてみると彼は、「最初はクーペを出すので精一杯だったんだよ」と本音を明かしてくれた。それだけBMWというメーカーは、走りに対してまじめなのだ。
速さに対しては「M」があり、快楽に対しては「i」がある。その両者の円は、真ん中で折り重なって『駆け抜ける喜び』を表現している。
2231万円というプライスはBMWで最も高価であり、そのルックスからもi8は上流階級のスポーツカーと見なされるだろう。しかしその中身には、BMWの魂である誠実さや実直さがたっぷりと込められている。そんな印象を抱いたスペインの試乗であった。
【SPECIFICATIONS】
BMW i8 ロードスター
■ボディサイズ:全長4690×全幅1940×全高1290㎜ ホイールベース:2800㎜ ■車両重量:1595㎏ ■エンジン:直列3気筒DOHCターボ +ハイブリッドシステム 総排気量:1499cc 最高出力:170kW(231ps)/5800rpm 最大トルク:320Nm/3700rpm モーター最高出力:105kW(143ps)/4800rpm モーター最大トルク:250Nm ■トランスミッション:6速AT ■駆動方式:AWD ■ステアリング形式:パワーアシスト付きラック&ピニオン(電動式) ■サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク ■ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ:前195/50R20 後215/45R20 ■燃費性能(JC08モード) ハイブリッド燃料消費率:15.9km/ℓ 充電電力使用時走行距離:154..8km 電力量消費率:4.86km/kWh 一充電消費電力量:11.28kWh/回 ■パフォーマンス 最高速度:250km/h(リミッター介入)/120km/h(電気モーター) 0→100km/h加速:4.6秒 ■車両本体価格:2231万円(税込)
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