どこをどう擬装する? 新型クラウンから考えるカモフラージュ車の仕立て方
MotorFan / 2018年7月7日 22時15分
新型クラウンがドイツ・ニュルブルクリンク北コースで走行試験したのは多くのニュースが伝えるとおり。緑の悪魔とも呼び称される同コースにおいて、生半可な状態でクルマを持ち込み走り込むと、壊れる。だから、高みを目指すクルマはかの地を目指し、塗炭の苦しみを味わい抜いたあとには別次元に到達するのだという。ドメスティックなはずのクラウンがニュルブルクリンクを走ったことは、このクルマにとってトピックのひとつ──というのはいろいろな媒体で報じられるとおり。ここでは、その「ニュルブルクリンクを走った個体」について、当事者の気持ちになって考えてみた。
まず、あなたがクラウンという世に出る前の新型車を一般の目に触れる公道で走らせなければならないとなったとき、何をしようと思うか。そう、擬装である。秘匿性が著しく高いとき──たとえばボディ形状を隠したいときや新たにSUVカテゴリに進出しようというときなどには、外板にあれやこれやを貼り付けてクルマの形そのものがわからないようにするケースもある。逆に、市販車そのものに見せておきながらよーく眺めるとリヤホイールアーチ周りに切った貼ったのあとがあってLWB版の開発だったことがわかったりと、擬装車の世界はたまらなくおもしろい。
さてクラウン@ニュルブルクリンクである。オートサロンでもプロモーションビデオでも、果てはわれわれメディア向けの事前試乗会の場においてもその擬装車は展示されていて、やはりこのクルマにとって「ニュルブルクリンクで走り込んできた」というのは強いアピールポイントのひとつなのだろう。
車両全体にデジタルカモフラージュが貼付されている。渦巻模様は車両の形状を認識しにくくする役割を果たす。また、ボディ表面の細かい抑揚がわかりにくくなるという効果もある。いっぽうで、市中を走っていると必要以上に目立ってしまうという特徴もあるのが痛し痒しである。
さて、再び質問である。クラウンという存在を隠したいとき、あなたはどこに擬装を施すか。
今回の新型は6ライトキャビンによるボディラインが大きな特徴だから、Cピラー以降を塞いでしまうのは効果的だろう。擬装車を眺めると、まるで先代のような立派なCピラーのように見えるのがおもしろい。強いていえば「なんかCピラーが太すぎないか? もしかするとノッチバックか?」とも思える貼り方である。
次は顔である。先代クラウンにはご存じ、ふたつの顔があった。アスリート顔と、ロイヤル顔である。前者は稲妻型とも称される形状、後者は細かいテクスチャが豪奢さを醸すシルクハット形が特徴的だったが、新型はワンフェイスに統合された。とはいうものの、新型が一目でクラウンとわかる雰囲気と形状は受け継いでいるのはご覧になった方ならおわかりいただけるだろう。
そこで擬装車は、その巨大なグリルを上下分割して見せている。まるで13代目のような形状にしていて、なるほど、そうすると一気にどこのクルマなのかがわかりにくくなる。ちょうどグリルセンターのエンブレムが備わるあたりにひときわ大きな渦巻を置いたのも、もちろん狙ってのことだろう。
余談になるが、グリルの開口面積は小さければ小さいほど空力性能には有利だ。ニュルブルクリンクで開発しているクルマの擬装状態を見て、「ここまで塞いでも所期の冷却性能は確保できるのか」と参考にするのもおもしろい。じつは、重要なのは入口面積よりも出口面積である。
アイブロウのようなポジションランプに複眼LEDヘッドランプも、走行に用いるところを除いて徹底的に擬装された。静止画像をよく見ればヘッドランプユニットの形状はわかるものの、遠目に見たときやまして走っているところを一瞥しただけではどんな「眼」をしているのかはわからない。
全幅1800mmという数値を堅持することが、新型クラウンの目標のひとつだった。全長4910mmに対するアスペクト比としては、今や相当にナローである。
ドローンで撮影されたであろうコース走行中の俯瞰映像を眺めても、その細さ加減がよくわかる。先述のグリル擬装によるフロント周りの“控えめ”なルックスとも相まって、まことに清楚な印象を与える。市販車で伸びやかに広がるフロントエプロンのめっきモールや左右ベント、ランプの存在が消されていることも拍車をかけている。
加えて、ボディサイドのユニークな2本のラインも、サイドシルの特徴的な形状も、擬装によっていちばんのピークを除けばまったくわかりにくくなっている。
何よりも6ライトキャビンのCピラー以降がつぶされていてキャビンが相対的にこぢんまりと見えているのが効果的だろう。一方の市販車の画像を見れば伸びやかなルーフラインと明るいキャビンが印象的。擬装が非常に功を奏しているのが理解できる。
テール周りについては、先代の円形4灯を踏襲しなかったことで、クラウンとしての強烈なアイデンティティはそもそも発揮していない。考えてみれば歴代クラウンのテールデザインについて印象に残るものといってもあまり想起できず、個人的に挙げるなら、12代目(覆面パトカーへの警戒)と2代目マジェスタのフィンテールくらいか。
それよりここで注目したいのは、テールパイプの数である。新型クラウンのイメージリーダであるRSは4本出しのテールエンド処理としていて、しかしニュルブルクリンク走行車を見ると大径2本出しである。
プロモーションビデオをもう一度よく見てみよう。冒頭のガレージ映像でカバーをめくるところ、ホイールはノイズリダクション仕様の18インチを履いている。
さらに秋山CEをはじめとしたスタッフの走行前の点検らしきシーン。エンジンルーム奥にオレンジ色の高圧ケーブルが確認できる。
じつは、ニュルブルクリンクを走行したクルマとは2.0ℓのRSグレードとばかり決めつけていた。クルマの性質といい、ドイツで走らせるためのダウンサイジングターボといい、ぴったりだと思ったからだ。しかし、これらの情報に合わせて映像中のコックピットの様子なども加味すると、どうやらテスト個体のグレードは3.5 G-Executiveあるいは2.5 G-Executive Fourのようだ。ここからさらに絞り込むには情報が少ないのだが、言い切ってしまうとするなら前者、3.5 G-Executiveだろう。四輪駆動仕様はクラウン全体から考えて少数であること、クラウンと言えばRWDというイメージだということがその理由。さらに、ニュルブルクリンクという極限状態で走らせるために、最強パワートレインを選んだというのは順当な理由に思える。トヨタのアイコン・THS IIを積んでいるということも含まれるのだろう。
実際のところはどうなのか。機会があったら関係者にお訊きしてみたい。
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