自ら、そして家族みんなで「走り」を楽しめる福祉車両【福祉の車窓から 第2回】
MotorFan / 2018年8月23日 7時0分
モーターファンにて連載されていたコラム「福祉の車窓から」。福祉車両の機能的な進化、携わっている人々の考え、そして共に走り楽しむことの心地よさを伝えるべく、その全編をWEBにて再録します。 ※データ等は収録時のものになっています。ご注意ください。(2016.10.26)
前回カコミで紹介した国際福祉機器展が今年も開催されました。今年の展示をみて、しみじみ思ったのは福祉車両も進化し続けていること。そしてその方向が、モビリティとして、間違いなく人に寄り添っていることです。
スタートはBe a driver.のマツダ。障害者でも運転する楽しさを、自分で走るということに落とし込もうというのが、印象的でした。なかでも注目は、昨年は参考出品だったマツダ・ロードスター手動運転装置付車が「発売予定車」となっておりました。このクルマは、コントロールグリップ、ステアリングノブと乗降用補助シートを装備したもの。本当はこのイベントに合わせて発売と銘打つ予定だったそうですが、色々とあり発売予定! ってそれでは皆さん満足しませんね。
実はサイドブレー キレバーとステアリングスイッチが変わりました。その調整で発売が遅れるとのこと。サイドブレーキレバーは解除した際に、スロットルとブレーキを操作するコントロールグリップを握る手と干渉してしまうため、向きを変えスペースを広げたものを新たに作りました。そしてAT車のステアリングシフトスイッチは、左手側がダウンシフトレバーとなり、こちらもコントロールグリップを握っていると使えないため、右のステアリングスポークに新設。アップもダウンも意のままです。
さらに前回はトランクに収納することになっていた車イスは、助手席にも置いておけるように長くて巻き込めるカバーが着いています。22インチサイズがちょうど収まる設計ですが、このクルマに乗るときはドライバーも車イスも「着替えて」というようなポジティブな流れでいけると良いですね。またマツダブースとしては、昨年展示のボンゴのキャンピングカーシェルを使用した多目的サポートカーについて訊ねたところ、やはり中身がドンガラではなく具体的なインテリアのレイアウトがみてみたいという意見が多かったようで、現在コラボしたキャンピングカービルダーのAtoZが車内レイアウトを煮詰めている最中とか。来年に期待です。
そしてもうひとつ気合いを感じたのが日産ブース。扱う車両も家族ユースが多く、ユーザーと話し合う機会を積極的に持っているとのことで、そのフィードバックが車両に見えています。まさに寄り添うクルマ。新型にリニューアルした今年は、車イス位置が左側、助手席後方に移動しました。従来型はスライドアの開口部の大半を車イスが占めてしまうようなシート位置になるため、助手席側にレイアウトすると、家族が車道側のドアからしか乗れないという状態になってしまうため、車イスは右側設置だったとのこと。今回、車イスを引き上げるモーターユニットを小型化するなどして、車イスの固定場所を助手席に食い込ませるように前進させられたため、スライドドア開口部の後方部分から乗車が可能となり、左右逆転を成し遂げました。この車イス・フォワードレイアウトは、実は運転席にも近くなることから、運転手との2名乗車の際にケアをしやすいというメリットもあります。ケアは停止して行うと考えるとこれでも充分ですが、さらにいえば、運転席ロングスライドがあればパーフェクトだなと思いました。ミニバンでは、跳ね上げ式サードシートを格納し、リアゲートから上がり、セカンドシート位置で車イスを固定するというタイプが増えました。これは車イスの乗車位置がサードシートから運転席近くへ少しずつ移動、同乗者との距離を縮める歴史でもあります。
駆け足での紹介でしたが、運ばれる的な印象から共に走る。自ら走りを楽しむ。という流れが見えてきた福祉機器展でした。
専門業者による一歩進んだカーメイクも見られました
福祉機器展というだけに、自動車メーカーに留まらず、実は数多くの架装業者が車両を展示しています。そここそがまさに「ユーザーに寄り添う」という点において、直球勝負という一面もみられるスペースでした。
たとえば、TOWAのタウンエースは5名乗車ベースで8名乗車化。しかも2名は車イス。さらにハイエースに至っては10名乗車でロングスライドレール3本に載ったシートを自由に差し替えてパッセンジャーの乗せ方をアレンジできるというユーティリティ性の高さ。おもわず福祉車両でなくて、バイクでも積みたくなります。
オフィス清水に至ってはヒンジドアがスライドドアにコンバートされていたり、運転席後ろのBピラー越しに車イスが出てきたりと欧州のカーアダプテーションを使用した車両を提案。福祉車両を選ぶというより、好きなクルマを使いやすくするという点でスタートラインが違う気がします。さらにWORK VOXでは要介護でこもりがちな家族をケア道具まで部屋をまるごと外に! というコンセプトでハイエースをアレンジしてきていました。発想は羽ばたき、ココロは街を駆け抜けますね。
著者紹介:古川教夫
クルマとバリアフリー研究家。基本は自動車雑誌編集&ライター&DTP/WEBレイアウター。かつてはいわゆる徹夜続きの毎日だったが、現在は娘さんの介護をしながら9割9分の在宅ワーク。『ドレスアップナビ』(https://dressup-navi.net/)のアンカーや、ライフワークであるロータリー関連の執筆活動等を行いながら、介護経験から見る福祉制度と福祉車両の世界をつづる。2017年2月に福祉車輌取扱士の資格を取得。
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