【牧野茂雄の自動車業界鳥瞰図】車載電池は「価格崩壊」か
MotorFan / 2018年9月15日 0時0分
独・VW(フォルクスワーゲン)、BMW、ダイムラーが相次いで中国の寧徳時代新能源科技(CATL)との間でリチウムイオン電池の購入契約を結んだ。中国はいま、国家を挙げて電動車の量産・普及を進めている。これにドイツが呼応し、電動車分野では中独蜜月ムードが漂う。一方、日本では日産が電池事業を中国企業に売却した。中国は電動車用電池での世界制覇を狙っている。
今年の春、私はある中国メディアの友人に電池業界の方を紹介してもらった。CATLという会社について知りたかったからだ。以前、取材を通じて知り合った某電池メーカーの経営者は博打打ちのような人だった。博士号を持っているという経営者にも会ったが、「博士号はお金で買える」と知って驚いた。
「あなたはCATLをどう見ていますか?」
その方は私に尋ねた。私はこう答えた。
「もとをたどれば日本のTDKが買収していた電池生産会社が自動車部門を切り離してできた会社がCATLで、中国で主流のリン酸鉄系極材ではなく三元系(ニッケル/マンガン/コバルト)を使ったリチウムイオン2次電池(以下=LiB)を生産している。米国からスカウトした技術者や中国系米国人の技術者で技術開発部門を固めている。活動資金は福建省の銀行団が支援している。福建省は習近平国家主席がかつて地方トップだったから、浙江省吉利汽車のように CATLも現政権の保護下にある期待の企業だと思う」
その人は「そこまで知っていれば充分なのでは?」と笑った。笑った後で危険領域の話題も少々交えながら私の質問に答えてくれた。「あなたは信頼できるジャーナリストだと彼から聞いていたからお話した。記事にはしないと約束してほしい」と言われ約束したので、詳しいことは書けない。こういうふうにして書けないことがどんどん増えてゆく。
この人への3時間弱のインタビューにより、CATLという電池メーカーは私が想像していた以上に堅実な企業だろうという印象を抱いたが、それはあくまで伝聞ベースと状況証拠からの判断である。現在のCATLがドイツ勢や日産とのLiB商談をまとめながら、風呂敷を広げるそばからどんどん大きくしている本当の理由はわからない。単純な事業拡大なのか、それとも中国政府の政を実行する尖兵なのか。2年後にCATLの2次電池生産量は50G(ギガ)Whになる。生産量世界一を目指した事業計画がすでに発表されている。
ドイツの自動車メーカーがアジア企業からBEV(バッテリー電気自動車)用の2次電池を調達することは、べつに珍しくはない。ダイムラーは中国BYDと合弁で騰勢(DENZA)という(BEV)ブランドを立ち上げた。そのずっと前、VWは三洋電機との間でニッケル水素2次電池の開発・供給契約を結んだ。その三洋がパナソニックに吸収されてからはパナソニックがVW向けに2次電池を供給、これとは別にVWは韓国サムスンからもLiBを購入していた。欧州にも電池メーカーはあるが、VWは性能とコストのバランスで調達先を選んだ。
日本では、HEV(ハイブリッド車)でもBEVでも、搭載する駆動用2次電池は専用設計であり1社調達だ。正負極材と電解液はスペシャル。しかし、日本以外では複数調達が当たり前であり、2次電池は「安くて性能が普通ならどこからでも買う」のが当たり前だ。専用設計品ではなく汎用品を使う。調達先がどこだろうが関係ない。CATLがBMWやVWとの商談をまとめたとき、各方面から「中国企業で大丈夫なのか?」との声があがった。「CATLの商談はえげつない」「ものすごい安値らしい」など、噂も飛んだ。何をいまさら、と私は思う。商談は勝てばいい。
(次ページは「なぜ、車載電池は中国企業からの調達なのか」について)
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