「これからは、シリーズハイブリッドじゃ」エンジン博士・畑村耕一が日産ノートe-POWERに1100km乗って考えたこと。
MotorFan / 2018年9月22日 6時0分
モーターファン・イラストレーテッド誌で「博士のエンジン手帖」を連載中の、エンジン博士こと畑村耕一博士の最近の口癖は、「これからは電動車じゃ。でもEVを考えるときは、発電の電源構成から見ていかにゃならん」だ。その博士が北海道でノートe-POWERを1100kmドライブした。 TEXT & PHOTO●畑村耕一(HATAMURA Koichi)
これまでの連載で、三菱i-MiEVに始まりテスラ・モデルS、日産リーフ、BMW i3、日産新型リーフ、VW e-GOLFに続いて、先月はテスラ・モデルXに乗って、改めて電動モーターによる走りのすばらしさを堪能した。筆者の結論は、クルマの走りの理想は電動モーター駆動以外では実現できないということだ。
一方、発電所からのCO2排出量を考えると、充電して走るEVはCO2削減に結びつかないことも本誌でたびたび述べてきた(Motor Fan illustrated Vol.136、143)。すると、電動モーターで走り、電気は車載のエンジン発電機で供給するシリーズハイブリッドしか答えはないことになる。
そこで次世代のパワートレーンとして、シリーズハイブリッドの可能性をもっと確認するために、日産ノートe-POWERで北海道を長距離走行してみることにした。本稿はその報告である。
7月24日に成田発千歳着で特急に乗り継ぎ釧路着。翌日、日産レンタカーでノートe-POWERを借り出して長距離テストは始まった。コースは表1のように北海道を東から西に横断するもので、総走行距離は1100kmだった。
最初の3日間は道東で、一般道路をスイスイと走れて快適そのもの。多くのクルマが法定速度+α程度で走っていて、追い越すクルマもほとんどない。道東の人々の落ち着いた暮らしが想像できる。
整備が行き届いた道路の走行は、標高600m近い摩周湖の展望台(霧の摩周湖が見えた?)、1000mを超える石北峠ほか、登降坂も充分満喫できるコースだ。OBDⅡ端子から信号を取るタコメーターを装備して、エンジン回転に注目しながら快適な走行を楽しんだ。平坦な一般路での7〜8割はEV走行で、たまに始動するエンジンの運転はほとんど気にならない。燃費計も25〜30km/ℓを示して期待通りだ。
残りの2日は北海道の中央で、クルマの数も増えてきて走行速度も東京に似てきた。法定速度で走っているとどんどん追い抜かれてしまう。北海道を走っている気がしない。最終日は高速道路主体で走り、一部市街地走行を含むが、燃費は25km/ℓを切ってしまった。高速道路ではエンジン停止時間が10%以下で、加速するとすぐ3000〜4000rpmまで回転数が上がる。高速道路の定常走行でも25km/ℓに届かないのは直結モードのないシリーズハイブリッドの宿命だろう。もっと熱効率の高い専用エンジンの搭載が望まれる所以だ。
ノートe-POWERは80kWのモーターを備え、1.47kWhのリチウムイオン電池は50kW程度の出力が出せるはずなので、エンジンが停止していてもその走りが可能。エンジンが18kW(70Nm@2400rpm)の定常運転をしていれば68kWの走りができることになる。通常走行では充分な出力だ。エンジン発電機が最高出力55kWで運転すればモーターの限界の80kWで走ることができる。慣性の大きなエンジンを加速する必要がないモーター駆動では、同じ出力でも従来エンジン車より加速がいい。
連続高負荷走行ではバッテリーは加減速以外は使えないが、120km/hまでは2400rpm定常で走ることができる。エンジン発電機の最大出力55kWで走ると連続最高速度180km/h、10%連続登坂100km/h程度の性能のクルマだ。
e-GOLFの手帖(Vol.136)で述べたような電動モーター駆動による理想のトルクカーブを実現し、理想のレスポンスを発生する、ノートe-POWERの走りは、キャッチコピーの“新次元の「電気」の走り”に偽りなし。あとはエンジンの存在を示す振動騒音をうまく処理することが課題だ。
エンジン騒音を目立たなくする工夫は随所に見られる。クルマの騒音にエンジン音が隠れるように、通常は36km/hを超えて初めてエンジンが始動した。始動時は1200rpmに回転数を上げて0.2〜0.3秒後に燃料を吹いて点火始動する。素早く1200rpmに回転を上げるために1600rpm位のオーバーシュートが見られるが、このような作動はタコメーターを見ていないとまったくわからない。始動後にエンジンは70Nm@2400rpm定常で運転するので、ハチが飛んでいるようなブーンという小さな音が聞こえてくる。この音は消す必要があるが、一定の音なのですぐに慣れて気にならなくなる類のものだ。
さらにアクセルを踏んでいくと40km/hを超えたあたりからアクセルの踏み込み量に応じてエンジン回転数が上昇する。また、車速の増加に合わせてエンジン回転が上昇するので違和感がない。さすがに全開加速をするとエンジン回転数は4000rpmを超え、そのあたりから動弁系と思われる「ギャー」という音色に変化する。5000rpm以上になるエンジンが自分の存在を見せつけたいかのようだが、従来のパワートレーンを思えば充分許容できる。
エンジン暖機中は、水温が40℃を超えるまでは1200〜1300rpmで暖機する。電池容量が減少した場合など、20km/h位でエンジンが始動することがたまにあるが、その時エンジンがうるさいと感じるのは今後の改善テーマである。連続降坂中に1800rpmで運転することがあったが、触媒の温度低下を防止するためだろう。その他、たまにエンジンが作動するのがわかるが、気にしないことにした。
(以下次ページ。1101km走って燃費はどうだった?)
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