「トヨタ・クラウン」は引き際を見誤ったのか?
MotorFan / 2018年10月14日 7時30分
1955年に初登場し、今年になって15代目を迎えた「トヨタ・クラウン」。”若返り”をテーマにしているものの、結果は……。「クラウン」は引き際を見誤り、このままひっそりと消えてしまうのだろうか? TEXT●今 総一郎(KON Soichiro)
“平成”の終わりという節目のせいか、今年は芸能人やスポーツ選手の引退が目立っている。ズルズルとしがみついた挙句に不祥事が発覚して晩節を汚す老人がいる一方で、年齢で言えば40代くらいとまだまだ現役を続けられるにも関わらず、これまでの活動に区切りを付けて後進の育成など新たな分野に挑戦するという。心の底から尊敬できる。
そんななかで、「トヨタ・クラウン」はどうだろう? 1955年に初代が登場し、1983年にデビューした七代目のキャッチフレーズ「いつかはクラウン」が上昇志向の象徴だったように、日本の高級車として長年第一線で戦ってきたが、かつての勢いも今ではすっかりと失われてしまった。
2012年の14代目はユーザーの若返りのためアンチエイジング施術が行なわれたものの失敗。販売台数は上向いたものの、オーナーの平均年齢上昇には歯止めが掛からなかったという。そして、今年6月に登場した15代目もさらなるアンチエイジングが施され、口角を引き上げて張りのある若々しい表情とし、弛んだ身体をニュルブルクリンクで鍛え直し、LINEでのコミュニケーションを身に着けるなど、時代に取り残されないように必死だ。
100年に1度の大変革が到来
様々な対策が上手くいかないのは、モノを所有しなくてもこと足りてしまうからだ。若年層を中心に普及しているサブスクリプション型サービスは、場所や時間に囚われずに毎月定額で映画や音楽、書籍を楽しめる。これまで興味のなかった作品にも気軽に手を伸ばせることを知ってしまうと、たったひとつのモノにお金を払うのは割高に感じられる。大金を叩いた上に税金や駐車場や保険料で悩むのは、もはや時代遅れでしかない。
トヨタ自身も「100年に1度の変革」に合わせた取り組みに動き出した。18年10月にはソフトバンク株式会社との戦略的提携に合意し、共同出資会社「MONET Technologies」を設立。2020年代半ばまでに、モビリティサービス専用次世代電気自動車(e-Palette)による自動運転車サービスを展開するという。これによると、自動運転車を呼び出した利用者は、ただ乗っているだけで良く、食事や仕事など好きなことに時間を費やせるそうだ。
カーシェアが普及しても”マイカー”需要は消えない!?
しかし、結局出来るのはカラオケBOXのような移動手段だろう。テーブルがひとつと、長めのソファが置かれた空間に目的地が近い人同士で相乗りし、気まずさと沈黙に耐えなければならない。
金曜日の夜など想像もしたくない。バスを逃してタクシーの列に並ぶ光景を思い浮かべてほしい。いまにも吐いて暴れそうな酔っ払いと目的地が近いという理由で相乗りしたくないはずだ。歩いたほうがマシだ。
カーシェアや自動運転の普及で“マイカー”を持つ習慣は廃れると言われているが、完全になくなるとは思えない。そんな未来でこそ「クラウン」の真価が問われる。かつてのように、日本の道を走らせたら「クラウン」の右に出る者はいないという高級車像を再び描いてほしい。外界と完全に隔絶された車内には完璧な空調と音響が備わり、淹れたてのコーヒーが全く波打たない快適性のある自動運転車だ。2020年代半ばというとボクは35~36歳だ。そんな「クラウン」なら、せひ欲しい。
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