「日産リーフニスモRCはR35GT-Rより速いです」ニスモ松村基宏COOインタビュー
MotorFan / 2018年12月16日 20時10分
リーフのドライブトレーンを搭載するレーシングプロトタイプEV「リーフニスモRC」が、新型にスイッチした。EVのPRのみならず“走る実験室”としての役割も与えられたその中身は。同車の開発を指揮したニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(ニスモ)の松村基宏・代表取締役兼最高執行責任者(COO)に聞いた。 REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi)、遠藤正賢、日産自動車、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル
--初代リーフニスモRCがなぜ作られたのか、またどのように使われてきたのかを改めてお教えいただけますでしょうか?
松村 初代リーフの市販車デビューと同時に準備されたもので、世界各国でリーフを紹介するにあたり、「こんなイメージのレーシングカーも電気自動車なら作れる」というのを紹介するために作りました。用途は基本的にマーケティングの一部ですね。もしももっと電動化が進んで、モータースポーツの世界にもEVの普及が進んだ時にはワンメイクレースを提供することも検討していました。
新型リーフニスモRCはとても速いですが、初代は市販車のモーターやバッテリーをそのまま積んだだけなので、単に市販車を軽くしただけの性能しか出なかったんですね。そうすると、モータースポーツを展開するには、面白いけどパフォーマンスが不足していました。ガソリン車を喰うようなレース展開は無理があったのです。
私もちょうど5年前にニスモへ移りましたが、今回はコンセプトを描く時点でAWDにしてしまいましたので、圧倒的な動力性能を持つに至りました。エキサイティングで楽しめるという意味でのモータースポーツを提供したいと思ったのです。
--初代も楽しかったですよね。
松村 はい、低くスポーティで楽しく、リヤヘビーなのでオーバーステア傾向で、一旦滑ると止めるのが難しいクルマだったはずです。私は初代リーフ市販車の開発責任者の一人だったので、当然RCの開発にも携わっていたのですが、あの良さを残しつつ、もっと動力性能を上げたいなどと当時思っていたことを、今回一気に投入しました。
--初代RCは6台作られましたが…。
松村 新型RCも6台を最初のロットで作っています。
--今回もワンメイクレース開催を検討していますか?
松村 はい、もちろん、今回も検討内容の一部です。
--新型RCのバッテリーとモーター、出力では、レーシングスピードでどのくらいの距離を走れるんですか?
松村 コースの加減速によりますね。富士スピードウェイ本コースのホームストレートでアクセルを踏み続けると、当然エネルギー消費が多くなるので向いていないです。ただ、普通の人が走る分には、速すぎてずっと全開で走るのはなかなか難しいので、かなりの時間を走れるのですが。レーシングドライバーが全開にし続けて20数分間走れるように設計されていますので、1周1分30秒くらいのコースでF3の周回数と同じ程度なら25分ほど走れます。
ちなみに袖ケ浦フォレストレースウェイでは、R35GT-Rより速いです。いま履いているのはミシュランのパイロットスポーツカップ2ですが、あのタイヤで1分10秒。同じサイズ(235/40ZR18 95Y)のスリックタイヤを履くと1分8秒ですから、コースレコードになります。ドライバーは松田次生ですが、そのくらいのポテンシャルはあります。また2モーターにした関係上ハイギヤにしますので、最高速も220km/hですね。そして0-100km/h加速3.4秒は、スーパーカーに近い領域ですよね。
--松田選手の感想はどうでしたか?
松村 前後駆動力配分50:50のフル加速モードで走らせた時は「これは危ない」とコメントしていました。なぜかというと、速さよりもトルクですね。640Nmのトルクはエンジンで言えば7L級ですから、それがAWDなので、発進加速時は戦闘機が空母からカタパルトで離陸する時のようですね。なぜならゼロ回転で最大トルクが出るのがモーターなので、その分だけ強烈なGです。ですが、タイヤがそんなにトルクを吸収できないんですね。
ガソリン車なら、ちょっとホイールスピンさせるくらいで発進した方が回転が落ちないので、寒い冬ならタイムが出るんですが、EVはトルクがいきなり出るので、ハイグリップタイヤを履かないと不利です。ですからイベントでは、完熟するまではパワーを絞らないと危ないですね。また旋回中にグリップを失うと、アンダーステアになるかオーバーステアになるか分からないので、前後駆動力配分を45:55にして、旋回が楽で充分タイムを出せるようなセッティングにしています。
前後駆動力配分は調節できるようになっていますが、これはいろんな可能性を持っていて、コースレイアウトやドライバーのスキルに合わせて変えられるんですね。だから駆動力配分をどれか一つに決めることはできないですね。それに、あまりフールプルーフですとモータースポーツにならないので、RCは腕を競う余地を残しながら、市販車へフィードバックする時は安全で速く走れるよう、ブレーキングから旋回、立ち上がりまで、四輪の駆動力配分をコントロールすることを考えています。それは少し先のテーマではありますが。それはまず素材があって、いろんな走りができる中で組み立てていって、パラメーターの制御をしていく中で、初めてできるものではないかと。
例えば、ブレーキングして舵を当てると、強制的にフロント側のモーターを、パワーを吸収させる側に回して、ブレーキ量を増やす。そうすると、フロントにブレーキを残してグリップを上げた状態になり、舵が入っていきますよね。プリロードも前後で変えていますので、舵が入った状態で進んでいくと、イナーシャの関係でオーバーステア側に動きます。そしてオーバーステアになったら、フロント側のモーターを正転させ、アンダーステアに持って行く。今までのレーシングカーのセオリーとは異なりますが、慣れれば楽しめると思います。これからそういったことを追求していきたいですね。
--現段階では、そこまで行っていない?
松村 パワーの量と前後駆動力配分を何段階かで変更できるところまでですね。
--回生はどうなっていますか?
松村 どのゾーンでも回生はできるのですが、あまり強すぎるとスピンしてしまうので、あまり強くはかけていません。ただ、タイヤのグリップとセットですね。どういうゾーンなら回生を増やせるかは、まだ組み立てていません。VDCもないです。
--最初から腕を試せそうですね。
松村 最初は低いパワーで走らせて、徐々にパワーを上げていくと、楽しめますね。
--前回のRCも新型も、上手く市販車のイメージを残していますが、これは日産のデザイン部が作ったのですか?
松村 はい、デザイン部と一緒に作っています。上手くできたと思っています。
--今回サブフレームを25%軽量化したとのことですが、具体的な変更点は?
松村 初代はリヤ側がスチールなんですよ。今回はそれをCFRP化して前後全く同じものにして、ダンパーユニットのレイアウトも基本は同じです。ダブルウィッシュボーンのアームのレイアウトは前後で違いますが、プッシュロッドの動かし方などは前後で互換性を持たせています。モーターもリダクションギヤも、前後逆向きにしてギヤやLSDの回転方向を変更すれば、前後どちらにも搭載できます。これであれば将来の可能性としては、万が一壊れたとしても、インバーターは市販品と同じですから、ニスモで交換する際のメンテナンス費用がうんと下がるんですね。
--バッテリーはどちらに搭載しているんですか?
松村 ドライバーのすぐ後ろに入っています。中のスタックセルは量産品と同じですね。配列を中で変えて、ケーシングも変更して、積み重ねるように入れています。
--ロールケージもCFRP製なんですか?
松村 これは、スチールのパイプにCFRPを巻いて補強しているんですよ。ですのでサイズ、重量とも減っています。
--普通のレーシングカーはレギュレーションに合わせてクルマを作りますが、リーフニスモRCはそれがないので…。
松村 ですからこれはレーシングコンセプトですね。競うためのクルマなら2輪駆動になるでしょうから。元々ガソリン車とはちょっと違いますので、出て反響があると、競うこともあるのかなと。でもそれは鶏と卵ですね。ですからワンメイクレースは一つの解になるでしょう。
バッテリーも、30分弱レースした場合、急速充電すれば1時間くらいで戻って来られますから。今までのバッテリー密度からすると、どんどん重くなってクルマにならなかったのが、だいぶリーズナブルに作れるようになりました。
--充電方式はチャデモですか?
松村 はい、充電システムは市販車と同じですから、家でも充電できます(笑)。サーキットにはまだ急速充電器はありませんが、徐々に増えるでしょう。
--空力に関する変更点は?
松村 ボディが大きくなったのでCd値は増えていますが、リヤウィングの効率が非常に良く、まだ風洞には入れていませんので計算上ですが、L/Dは40%くらい良くなって、フロント側のダウンフォースも54%増えています。
--今回は6台作って、日本に何台か置いておいて、残りを海外で使う予定ですか?
松村 グローバルでいろんな所からぜひにと言われているのですが、細かいことはまだ決まっていません。
--要望があればもっと作れるのですか?
松村 作ろうと思えば作れますよ、難しいことは何もありませんので。
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