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実質重視と個性は紙一重 スズキ・ジムニーらしさの正体とは:歴代ジムニー・デザインレポート

MotorFan / 2018年12月18日 8時5分

実質重視と個性は紙一重 スズキ・ジムニーらしさの正体とは:歴代ジムニー・デザインレポート

改めてジムニーの4世代を見てみると、各々のモデルにはその時代なりの思いがしっかりと注ぎ込まれている。ここでは時代背景も鑑みながら、ジムニーのデザインの歴史を見ていこう。 TEXT◎松永大演(MATSUNAGA Hironobu/CarStyling)

見るほどに理解される初代の絶妙な造形バランスは歴代ナンバーワン

 ホープ自動車のホープスターON型からの転生となったジムニーだが、当時はウイリス・ジープ、ランドロ—バー、三菱ジープやトヨタ・ランドクルーザーなどが知られていた。そのなかでON型は、いかにも異質に見える。1968年の発表当時はまだまだ農村の機械化が行き届いていない時期で、交通の未開の地などへの利用が期待されていた。そうした作業ツールとして、デザインは機能を包む以外の何物でもなかった。
 そしてその2年後に、技術を受け継ぎ登場したのがスズキ・ジムニーだ。狙いとしては、多様化するニーズに応えた"レジャーユース"も掲げられた。
 当時のスズキは、リヤエンジンのフロンテ360などが主流となっていたが、1970年にフロンテ71にフルモデルチェンジし、翌71年にはフロンテクーペが登場。このクーペは当初は2シーターのみのコミューター的位置付けにあった個性的な形。それもそのはず、ジウジアーロによるデザインであることが公表されていた。
 同時期の開発であるジムニーとフロンテクーペは、ともに2シーターを起点としながらもかたや超未来的なクーペ、かたや軍用かと見まごう無骨な4WDと両極端にも見えた。

単なる「右へ倣え」のデザインではなく多くの意味を含んだ秀作といえる初代

 しかしこれは巧妙な意図であったのでは、と捉えることができる。当時のスズキは、フロンテ360で軽自動車枠でのスポーティなイメージを確立しており、さらに異なる分野への進出を狙った。それがクロスカントリー4WDだった。しかし、ジープスタイルとまったく異なるものを創造するのは冒険。トラディショナルを意識し"チビ助"として、ヘビーなジープユーザーからも笑顔で迎えてもらえるポジションを選んだのではないか。
 そうした意図を前提にデザインを見ていくと、極めて興味深い。例えばフロントフェンダーとボンネットの関係。この小さなサイズならば独立したフェンダーはもはや不要だが、スズキはこの造形にこだわった。
 当時のジープのスタイルはフロントフェンダーを独立したものとするのが一般的なイメージだ。ジムニーもそれに倣い、極めて薄いながらもフェンダーを独立化。グリルやヘッドライトもコンパクトにまとめるように見せて、フェンダーの存在感を増している。またグリルをバンパーレベルまで伸ばさずに、下部をフェンダー造形で囲ったことも、相対的にエンジンルームを小さく見せ、さらにフェンダーの存在感を強めている。このことが、何よりジープスタイルを尊重している意図が見える部分だ。
 そんな狙いに気がつくと、仔細な特徴が見えてくる。
 ボンネットの緩やかなカーブを描く造形などは、ジープやランドクルーザーとは一線を画す美しさだと気がつく。グリルもセンターに縦に折れ線を入れることで、ジープの持つ退屈さを感じさせない。また、リヤのホイールアーチに沿うようにつけられたプレスラインは、その絶妙な量感によってフロントの独立したフェンダーとのバランスを取っている。アイデアや造形の吟味の見事さという点では、同時に登場している初代レンジローバーの妙技にも通じるのではないか。
 この時点でいくつかのモデルをジウジアーロに託し、またそれを忠実に量産へと発展させるデザインセンスがあるスズキにとって、もはやジムニーも考え抜かれたデザインになることが約束されていたのかもしれない。

合理性を追求しながらもデザインに妥協しなかった2代目


2nd Suzuki Jimny  2代目ジムニーのディテール。機能性と造形やグラフィックの面白さを切り取ってみた。少しフィアット・パンダも意識していないだろうか。

 そして時代は流れ、独立したフェンダーからの決別を果たしたのが2代目。しかし下半身の力強さは、シェル型ボンネットとボディとの段差によって表現された。またハードルーフも主要ラインアップとなることから、ボディ側面の豊かさを表現することも重要だ。ピラーはやや内側に傾斜を持ち、安定感あるスタイルに。またボンネットのオープニングラインはキャラクターラインとして後方まで伸び、その下部分に張りを持たせることでドアの薄さを感じさせない造形としている。この造形の恩恵もあって、内側に傾斜したピラーに沿った、平面のサイドウインドウをドア内に格納できる構造にできている。
 登場当時の1981年といえば、前年に初代日産レパード、同年には初代トヨタ・ソアラが誕生。デザイントレンドはまったくの直線基調から、やや柔らかみのある造形に移ってきた。まさにジムニーもトレンドに則った造形を意識しながらも、SUVとしての力強さも表現しつつも、平面ガラスの積極採用などは先代の継承でありつつも、1979年に発表されたフィアット・パンダとも共通する合理性を感じさせる部分でもある。
 そして3代目。登場は1998年。極めて常用的スタイルを実現した影には、当時、提携していたGMからの要請という説もあったが、むしろパジェロミニという競合が登場した影響が大なのではないか。
 当時、三菱の初代パジェロの登場からクロカン四駆への注目が集まり、スキー人気なども重なって90年代あたりで本格的な四駆ブームが明確化。中でもパジェロはブームを牽引するトップモデルとなった。そして、さらに三菱は2代目発表の3年後の94年に、パジェロのデザインを活かした軽自動車、パジェロミニを発表。これがまた人気となった。
 ジムニーはパジェロミニに対抗するべく、ハードウェアのリファインに力を注いだ。こちらは他のページで触られると思うが、やはり対抗の決定打は次世代のジムニーのデザインにかかっていた。

打倒!パジェロミニを狙う3代目 しかし培われた造形の意義は大きい

3rd Suzuki Jimny  3代目ジムニー。4世代の中で、デザイン的にも走りの快適性に特化したモデル。クロカン四駆ブームやパジェロミニに翻弄されたとも言えるが、ジムニーのもうひとつの進路を示した。

 かくして登場した3代目。大きな変革は、ジムニーの価値観を見直すことだっただろう。これまでのモデルは機能性重視。まさに真っ当な開発を堅実に進めることこそが、ジムニーの命だった。数センチの単位でノーズを壁面に詰められるような見切りの良さや、ガレ場やぬかるみで発揮される、高いトラクション性能。また、十分なグランドクリアランス、などなど。これはジムニーに与えるべきハードウエアの話なのだが、そうした開発現場ではデザインもまたその思いに寄り添っていく。
 しかしクロカン4WDに求められる性能は、ほとんど歩く速度程度の性能ではないのか。
 3代目ジムニーのデザインで感じるのは、動的ポテンシャルが高められた点だ。デザインで、"動的性能"を高めることができるのか?と疑問が浮かんできて当然だが、実は今回の機会に乗り比べてみるまで、そのような実感がなかった。
 車両感覚の掴みやすさには、定番の考えかたがある。直立させ、手前に引いたフロントピラーの採用。死角をできるだけ減らすための配慮だ。そして四角いボンネットの採用。車の角がわかることによって、寄せやすくなるというのは当然だ。これが初代や2代目が求めてきた性能だった。
 ところが、3代目では異なる要求「空力性能」をもジムニーのボディに与えた。フロントピラー付け根は前方に進み、フロントウインドウは後傾化、ボンネットも低く周囲もそぎ落とされた。併せてこれまでのクロカンとしての狙い以上に、一般道路での扱いやすさも重視された。
 ところで、新型は初代や2代目の狙いに戻った。3代目と乗り比べて見ると"隅まで見えることの扱いやすさ"は実感できる。ところがフラットダートなどを走り抜けるような高めのスピードで感じる"一体感"はむしろ3代目の方が上なのではないか。
 角まで見えるボンネットは、見えすぎるがゆえに速い速度では人が車をオペレーションする上でノイズになっている印象だ。立てて手前に引き寄せたフロントピラーも広い視界は実現したが、車幅を感じるための拠り所に掛ける印象となった。むしろ3代目のように、ピラーの付け根が視界を邪魔しないくらいに、ある程度前に出た方が肩幅を感じられるような、安心感があった。
 もちろんこれらはすべて程度問題でやりすぎは禁物だが、視界に関わるエクステリアデザインは、速度によってその印象を変えるのだということがわかった気がした。
 その点、3代目がスポーツ4WDを目指したことと、動的性能にフィットした仕上がりは見事にマッチしていた。
 オン、オフを超えたスポーツ性をテーマとするとき、3代目のトライした造形は、次世代のジムニーとしてより高い評価があってもいいのではないだろうか、と改めて実感した次第だ。

基本に立ち返りユーザーが求めた理路整然とした形を実現した新型

4th Suzuki Jimny  2018年パリモーターショーに出品された。欧州仕様のジムニー。つまりシエラがジムニーになる。冒頭の初代と見比べて欲しい。何が進化したのかを。ちなみにジムニー/ジムニーシエラは2018年グッドデザイン金賞に輝いた。

 この雑誌を製作中に大きなニュースが飛び込んできた。ジムニーとジムニーシエラが「グッドデザイン金賞」を受賞したのだ。金賞とは大賞の次に栄誉ある賞で、唯一無二の製品としての機能を突き詰めてデザインされたことが、高く評価されたものだ。
 世界中には、ジムニーでなければならない人たちがいるという。それはファンといったようなエモーショナルな理由ではなく、このサイズ、この機能だからこそできる仕事があるということ。大型のクロカン4WDでは入っていけないような山林や、泥ねい地。そして砂漠。それらの仕事を支える機能が、この車には備えられていた。
 3代目の進化はドライバーズカーとしての進化。それは決して間違いではない、一つの答えではあった。しかし唯一の存在として、果たさなければならない役割を突き詰めたのが、4代目となるこの新型だったのだ。その点では、初代や2代目にすり寄ったのでもなければ、原点に戻ろうなどと考えたわけでもない。
 単に今の使われ方のなかで、さらに便利で安心で、性能を高めたいという思いからの開発だ。新型ジムニーの開発ポイントは、それだけに尽きると言っていいだろう。
 ただひとつ加えて言えることがあるとすれば、「本物」として仕上げるということだ。高い期待を持たれている車だけに、より愛着を持ってもらう相棒になれるように、妥協したつくりはしないということだ。もちろん価格の条件はあるが、その中でベストの品質に仕上げるということは徹底されたという。
 好例が樹脂パーツの扱いだ。新型ジムニーではドアミラー以外、樹脂パーツは無塗装のブラックとなっている。塗装されている部分は、ほぼすべてが鉄板なのだ。シエラのオーバーフェンダーも、その理由からブラックのまま。鉄は鉄として、樹脂は樹脂として、その機能に忠実なのだ。
 またインテリアにおいても、あまり樹脂カバーを使わない狙いがあるという。とりわけ荷室まわりは、ボディがむき出しとなる部分が少なくない。ただし、これまでは樹脂カバー前提で作られていたボディを、素の状態で見せなければならないということで、裏方が表に出られるような綺麗な鉄板の状態とすることにはかなり苦労したという。

実質重視と個性は紙一重 ジムニーらしさの正体とは

Mitsubishi Jeep  三菱ジープの消防車仕様。撮影は1958年の第5回東京モーターショー。最終モデルまでほとんど変わらないスタイルだが、これこそが無骨なデザイン。

Land Rover Range Rover  初代ジムニーと同じ1970年誕生のランドローバー・レンジローバー。当初は2ドアのみ。じっくり見ると挑戦的なデザインが見えてくる。

 実質重視のクロカン4WDにとって、エクステリアデザインは機能そのものでもある。そのため様々なモデルは似通いがちとなる。例えば新型ジムニーでも、ボンネットを先端に向かってやや細くしていくと、それだけでメルセデスのGクラスに近づく。
 新型ジムニーはまた、大きな樹脂パネルでフロントフェイスを構成しているが、このパネルをやや小さくしてフェンダーパネルをフロントまで回り込ませたのならば……。それだけで、かつてのランドローバー風に見えてくる。こうしたように、機能を突き詰めたデザインは、その勝負幅が狭い。
 しかし、改めて歴代ジムニーを振り返ってみると、この4世代はあまり似ていないことにも気がつくはず。4世代ともに全く別のスタイルをしているともいえなくもない。しかし、すべてはジムニーに見える。
 ではジムニーらしさとは、何なのか。ひとつには伝統的ディティールを大切にし、継承し発展させていることだ。
 そしてあともうひとつ答えがあるとしたら、それは軽自動車という限られた箱の中に、ラダーフレームという大きく重たい要素を必須にしながら構築し続けたということだろう。限られたサイズならではの必然のパッケージ、必然のプロポ—ションが、とんでもないデザインを変えても同じにみせてしまうのかも知れない。

初代のゲレンデヴァーゲン。質実剛健。

Mercedes Benz G Class  最新のメルセデス・ベンツGクラス。変わっていないようで、進化したデザインが、時代にマッチしているのが面白い。

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