中期的にも長期的にもEVの普及がCO2削減に有効な手段であるとは限らない畑村耕一「2019年パワートレーン開発への提言」③
MotorFan / 2019年1月2日 10時55分
マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2019年のスタートにあたり、「2018年パワートレーン重大ニュース」を寄稿してくださった。昨年年頭にも、「2017年のパワートレーン重大ニュース」を掲載したが、再びパワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。7回シリーズの第3回をお届けする。博士の持論のベースになる「各種パワートレーンのWell to WheelのCO2排出量」について、だ。 TEXT◎畑村耕一(HATAMURA Koichi)
各種パワートレーンのWell to WheelのCO2排出量
CO2排出量削減のための次世代自動車として、これまでは
①電気自動車(EV)
②燃料電池車(FCV)
③高効率エンジン+ハイブリッド(HEV)
④天然ガス自動車(NGV)
などが挙げられてきたが、CO2排出量削減効果を正しく見積もるためには、それぞれのエネルギー(電力と燃料)の製造過程も含めたWell to Wheelで漏れなくCO2排出量を算出する必要がある。
各種パワートレーンのWell to WheelのCO2排出量を筆者が算出したものを図に示す。各パワートレーンの燃費は、実用燃費との乖離が指摘されているJC08でなく、実用燃費に近くなるように各種補正がされている米国で販売されている車のEPAの燃費ラベル値を用いた。EVとFCVは電気と水素の製造方法によってCO2排出量が大きく異なるので、EVは電力平均の値として、原発がほとんど動いていない2012年と、2030年の電源構成案が実現した場合のCO2排出量と、発電方式別の排出量を試算した。
FCVは排出量が最も少ない天然ガス改質の場合と、2030年電源構成での電解水素の場合を示した。再生可能エネルギー23%、原発21%の効果は大きく、2030年の電力平均のEVのCO2排出量が最も小さくなった。一方、石炭火力の場合は、従来エンジン車のCO2排出量と同等である。さらにEVの場合は電池の製造過程で大量のエネルギーを使うので、そのCO2排出量(出典により10~30g/km)の値を追加した。
30%程度のCO2削減を目指す2030年の評価に対しては、現在の燃料・電力をもとにしたこのような計算を使うこともできるが、2015年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締結国会議)で採択されたパリ協定では、2050年に 先進国のCO2排出量80%削減が求められている。従来の燃費向上方法ではとても達成できないレベルであり、電力と燃料の製造過程を革新して、再生可能エネルギーから製造するカーボンニュートラル(実質的なCO2排出量ゼロ)エネルギーの使用が必須になる。再生可能エネルギーには、バイオエネルギーから作る炭化水素(気体、液体、個体)と、水力、地熱、風力、太陽光、海洋エネルギーから作る電力がある。電力の一部は水の電気分解によって水素エネルギーに変換して利用できる。水素と回収したCO2を反応させると気体(メタン)または液体の合成燃料が製造できる。
クルマから直接排気ガスを出さないことから、短絡的に電力が有望だと思われているが、中期的に見ると
で詳しく述べたように、電源構成の抜本的見直しが実施されない限りEVの普及はCO2削減の効果はない。2030年を経由して2050年以降の最終形態にいくまでは、いくつかのエネルギーが混在すると考えられる。長期的に電源構成が大幅に見直されてCO2を排出する火力発電所が廃止され、再生可能エネルギー由来の電力が主要な電力源となることでEVがカーボンニュートラル走行するのと同様に、前記したようにFCV、HEV、NGVについても再生可能エネルギー由来の燃料が使われるようになって、カーボンニュートラル走行するようになる。
このように中期的にも長期的にもEVの普及がCO2削減に有効な手段であるとは限らない。また、再生可能エネルギーを使って車を走らせるためには、車の製造、燃料の製造、インフラの整備に伴うCO2の単位削減量当たりのコストを考慮する必要がある。EVは充電のインフラ投資だけでなく大量生産する車の製造コストが高いことから、CO2削減のコストを考えると決して賢い手段ではないという計算例もある。自動車のCO2排出量の大幅な削減を実現するには、目標達成に必要となる社会的な総費用を評価した上で、普及の条件であるクルマの性能や利便性を考慮してパワートレーンを選んでいくことが重要だ。
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