BMWの新たなるフラグシップクーペ、8シリーズの走りはホンモノか? サーキットでがっつり検証してみたところ……。
MotorFan / 2019年1月3日 12時0分
BMWの最上級クーペとなるM850ixドライブクーペが登場した。低く伸びやかなシルエットや流麗なリヤフェンダーの造形など、フラッグシップクーペとしての華麗なエクステリアが魅力的だ。新開発4.4ℓV8ターボを搭載する魅惑のクーペの走りを堪能した REPORT◎島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa) PHOTO◎BMW AG
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10007342/big_895304_201901021149180000001.png)
初代8シリーズ、Z8、そしてi8と、歴代の車名に“8”がつくモデルはどれもアイコニックな存在であり、それ故に新型8シリーズクーペもやはり特別な存在なのだと、試乗の舞台となったエストリル・サーキット近くのホテルでBMWの開発陣は言う。言外に伝わってくるのは「これは6シリーズの後継車ではない」という強烈なプライドだ。
そんなことを言われるまでもなく、この大胆なスタイリングを見れば誰も6シリーズのことを思い出したりはしないだろう。先端で遂に左右がつなげられたキドニーグリルと天地に薄いヘッドライトが鋭く輝く低いノーズを起点に、ダブルバブルのルーフから流れるように連なるリヤエンドに至るまで、そのフォルムは非常に伸びやか。
![新開発の4.4ℓV8ツインターボエンジンを搭載。先代エンジンよりも出力を68㎰向上させたほか、幅広い回転域で最大トルクを得られるチューニングが施されている。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007342/big_895306_201901021149180000001.jpg)
前後を貫くショルダーラインのような長年使い続けられてきたモチーフが廃された結果、解き放たれたような自由さもあれば、そのぶんサイドビューなど一瞬でBMWと分からない感もなくはないが、ともあれ実は全長が6シリーズクーペより短いなんて言われなければ分からない、ダイナミックな姿が形作られていることは間違いない。
インテリアも、これまでとは随分テイストを変えてきた。クリスタルのシフトセレクターなんて、オプションとはいえこれまでのBMWでは考えられなかったものだろう。メーターパネルはデジタル化され、大型のヘッドアップディスプレイともど、ADAS関連やナビゲーション等々の豊富な情報を視認性高く表示する。ずらりと並ぶボタンに加えてiドライブのコントローラー、音声入力、そしてコマンドの増えたジェスチャーコントロールによってインフォテインメントシステムもさらに操作しやすくなった。
![従来のダンパーに加え、電子制御アクティブスタビライザーを装備するアダプティブMサスペンションプロフェッショナルを採用。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007342/big_895308_201901021149190000001.jpg)
ボディは軽量化、高剛性化を図るためキャビン前後の支持構造、フロントバルクヘッド、ボンネット、ルーフ、ドアなどの外板バネルがアルミ製とされ、さらにインストゥルメントパネル内リーンフォースをマグネシウム製に、センタートンネルをCFRP製とした。オプションでCFRP製ルーフも選択できる。
やはりアルミや軽量スチールで構成されたサスペンションにはBMWM社のノウハウが注入され、特にキャンバー剛性が重視されたという。お馴染みのインテグラル・アクティブステアリング、電子制御式ダンパー、電子制御式ディファレンシャルどが標準装備とされ、さらに可変アンチロールバーも設定される。
![タッチ操作に対応した10.25インチのコントロールディスプレイと12.3インチのフルデジタルメーターパネルを採用した最新のインフォテインメントシステム。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007342/big_895310_201901021149190000001.png)
ラインナップはM850ixドライブクーペと840d xドライブクーペの2モデルが用意される。今回試したのは前者。搭載される4.4ℓV型8気筒ツインターボエンジンはクランクケースから別物の新設計ユニットで、最高出力は従来比68㎰増の530㎰、最大トルクも750Nmを獲得している。ギヤボックスは8速ATである。
試乗プログラムはサーキット走行から始まった。ここでまず感心させられたのはエンジンだ。どの回転域からでもアクセル操作に弾けるように反応し、高回転域まで淀みなく吹け上がって実に爽快感がある。腐心したというムービングパーツの徹底的な軽量化が効いているのだろう。
![ベンチレーション付きのメリノレザーシートを標準装備する。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007342/big_895312_201901021149200000001.png)
加速もいいが止める方もいい。ブレーキは文句なしに効き、またコントロール性が実にリニアなのだ。一方でハンドリングは、このコースではあまり輝かなかった。まず、重いノーズがなかなかインに向いてくれない。それに加えて、最大2.5度までステアする後輪が、通常時は72km/h、SPORT/SPORT+の両モードでは88km/h以上では前輪と同位相になることもあってか、xドライブは駆動力をリヤ寄りに配分しているはずなのに、特に中速コーナー以上では立ち上がりでラインがどんどん膨らんでしまい、引き戻すのが難しいのである。
しかし、それは言葉を変えれば徹頭徹尾安定しているということでもある。一般道ではスタビリティが高く、6シリーズではまだ残っていた後輪操舵の違和感もほぼ消え去り、非常に安心感の高い走りを楽しめた。特に横風が吹き付けるような場面でのスタビリティ、直進性は目を見張るものがある。しかもサスペンションがよく動くから、ライドコンフォートも申し分ない。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10007342/big_895314_201901021149200000001.jpg)
6シリーズに対して車名の数字が大きくなったならば、しかもそれが特別な数字であるならば、今まで見られなかった世界を、もっと色濃く表現してほしかったという思いがもたげてくるのは事実。しかしながら、そういう先入観を脇に置けば完成度は間違いなく高いし、スタイリングも大いに目を惹くこと請け合いの1台だ。でも、やっぱりそれでは物足りない……という人は、来年の登場がすでに予告済みのM8が、期待に応えてくれることを願おう。
※本記事は『GENROQ』2019年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
BMW M850i xドライブ クーペ
■ボディサイズ:全長4855×全幅1900×全高1345㎜ホイールベース:2820㎜■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ総排気量:4394㏄最高出力:390kW(530㎰)/5500rpm最大トルク:750Nm(76.5㎏m)/1800〜4600rpm■トランスミッション:8速AT■駆動方式:AWD■サスペンション形式:FダブルウイッシュボーンRマルチリンク■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク■タイヤサイズ(リム幅):F245/35R20(8J)R275/30R20(9J)■車両本体価格:1714万円
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