⑦2ストローク対向ピストン・ガソリンエンジンの可能性 畑村耕一「2019年パワートレーン開発への提言」最終回
MotorFan / 2019年1月6日 6時50分
マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2019年のスタートにあたり、「2018年パワートレーン重大ニュース」を寄稿してくださった。昨年年頭にも、「2017年のパワートレーン重大ニュース」を掲載したが、再びパワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。いよいよ最終回。テーマは畑村博士がもっとも熱心に研究する2ストローク対向ピストン・ガソリンエンジンについてだ。 TEXT◎畑村耕一(HATAMURA Koichi)
2本のクランクシャフトを持つシリンダヘッドがない対向ピストンエンジンは、第二次大戦中にドイツのユンカース爆撃機に搭載されたことで知られている。日本でも戦時中に2.7ℓ2気筒の対向ピストンエンジンがUDトラックに搭載されて使われていた。最近では米国のベンチャー企業(アケイテス・パワー)が開発を進めて、量産も間近だと言われている。 シリンダヘッドがない対向ピストンエンジンは通常の吸排気弁が設定できないために、これらのディーゼルエンジンはピストンで開閉する吸排気ポートを持つ2サイクルエンジンだ。また、排気をスムーズに行うために、排気側クランクの位相を吸気側クランクの位相より進めて排気ポートが早く開くようにしている。
![モーターファンイラストレーテッドVol.129 P65](https://motor-fan.jp/images/articles/10007360/big_904978_201901041555310000001.jpg)
対向ピストンエンジンの特徴は超ロングストロークに加えて、2本のクランクシャフトの位相を同じにすれば不釣り合い振動をなくして無振動エンジンを実現できることだ。この無振動特性を活用して、壁掛けで使えるコージェネ用4サイクルSI(火花点火)エンジンが群馬県のベンチャー企業(石川エナージリサーチ)で開発されている。2018年は試作エンジンがドローンに搭載されて試験飛行している。問題の多い2サイクルでなく、一般的な4サイクルにするために横に飛び出した燃焼室に4本の吸排気弁を設定している。
![モーターファンイラストレーテッドVol.142](https://motor-fan.jp/images/articles/10007360/big_904980_201901041557440000001.jpg)
![川エナージリサーチホームページより](https://motor-fan.jp/images/articles/10007360/big_904981_201901041558270000001.jpg)
エンジンの振動源は大きくふたつある。よく話題にされるのが往復慣性力の不釣り合いで、ローターリーエンジンや直列6気筒エンジンはこの不釣合がないので大変スムーズに高回転まで運転できる。
もうひとつは、トルク変動の反力モーメントで、気筒数が少ない(1、2、3気筒)の低回転高負荷で大きな問題になる。自動車では2気筒以下のエンジンがほとんど使われない理由がこれだ。エンジンは圧縮行程と燃焼行程では発生トルクが逆になって大きなトルク変動を発生する。このトルク変動がフライホイールを加減速する結果、その反力モーメントがシリンダーを回転方向に振動させる。大きな逆回転フライホイールを搭載すれば、逆方向の反力モーメントが発生してこの反力モーメントをバランスすることができ、この逆回転フライホイールをヘロンバランサーと呼ぶ。特許のなかではよく見受けられるが、実用化された例があるかは定かでない。
![figure:HERO](https://motor-fan.jp/images/articles/10007360/big_904983_201901041559470000001.jpg)
対向ピストンエンジンは左右のピストン動きからわかるように往復慣性力は完全釣り合い、左右のクランクとフライホイールが逆回転するので反力モーメントも完全釣り合いとなり、無振動エンジンが実現できるわけだ。先のドローン用エンジンでは、左右の逆転するクランクに大きな慣性モーメントを持つ発電機を結合してバランスさせている。モーターファン・イラストレーテッドVol.129の特集の取材のために石川エナージリサーチを訪問した編集部員は「本当に振動がなかった。」と驚いていた。
吸排気弁を持つ4サイクルでは対向ピストンエンジンのコンパクト燃焼室の特徴が失われる。かと言って2サイクルエンジンは本質的に高負荷の信頼性と低負荷運転の不安定さの問題を抱えており、排気ガス規制の強化に対してHC、COの規制適合が難しく80年代末には自動車用エンジンから姿を消している。
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