モデルベース制御システム「RAICA」の威力を目の当たりにする
MotorFan / 2019年2月3日 6時50分
1月28日、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」の詳細が発表された。ガソリン/ディーゼルエンジンそれぞれにおいて熱効率50%超えを果たしたのは既報のとおり。これらに加えて、「HINOCA」「RYUCA」「RAICA」という革新的なソフトウェア/システムの構築にも成功している。そのうちの「RAICA」について、デモンストレーションが行われた。
「RAICA」とはRobust Artificial Intelligent Control Architectureの頭字語。ライカと読む、モデルベース制御のエンジン燃焼制御システムである。
従来のエンジン燃焼制御システムはマップ制御を用いている。マップ制御とは、現在のエンジン運転状況をECUに収めてある最適値に当てはめてコントロールする方法。当然、その最適値はあらかじめ仕込んでおく必要があり、あらゆる走行条件でエンジンを作動させる実験が重ねられる。その実験から得た膨大なデータをマップ化し、ECUとしている。
その実験方法と重ねてきた知見は各社でさまざまな違いがあり、長年蓄積してきただけに信頼性は非常に高い。しかしマップの容量は増加の一途をたどりデータ量は膨大となり、しかも近年のエンジン制御の高度化にともない今後は対応できない可能性も示唆され始めている。
その解決方法として注目されているのがモデルベース制御である。RAICAのプレゼンテーション資料から、何を目指しているのか、何ができるのかを抜粋してみよう。
【過渡状態や外乱のある環境でも、目指す理想的な燃焼を保持することができる、SIP燃焼発のエンジン燃焼の制御システム】
▶︎燃焼科学・工学と制御理論を融合させることで、燃焼現象を物理から捉えて関数にしたもの(物理モデル)と、複数の高度制御理論(適応制御、ロバスト制御、学習制御・AI)を組みあわせた、統合システムになっている。
▶︎その制度と実用性は、エンジン実験で実証済み。このような物理モデルベースのエンジン制御システムは世界初であり、高速な複雑現象であるエンジン燃焼を、ハードウェアとソフトウェアの両論で発展させる新時代を切り拓くものとして、産学からの期待が高まっている。
▶︎燃焼工学出身で制御工学との融合に取り組んでいるグループリーダー(東京大学・山崎准教授)をコアに、燃焼と制御の産学が集結したことによって成し得た、SIP年初の産産学学連携による代表成果である。
マップ制御が、与えられたカードの中から近似値を探し当てて解決とするのに対し、モデルベース制御はその現象に対する最適解を「モデル」に則った即時の演算によって最適効率化を図れるところに違いがある。もちろん、その「モデル」を構築することが最大の難関なのだが、RAICAにおいては各大学の研究を統合/制御することでシステムの実現にこぎつけた。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10007980/big_980102_201902022309010000001.jpg)
エンジンベンチにおけるデモンストレーション
当日はRAICAの成果を実機のデモンストレーション運転によって体感する機会が与えられた。トヨタの2.8ℓディーゼルターボ(1GD-FTVだろう)をマップ制御/モデルベース制御の2種で切り替えることで、発生する騒音の違いを実感してもらうという内容だ。
![SIP「革新的燃焼技術」の目指す高効率ディーゼルが余混合燃焼(PCCI)。多段噴射により熱発生率を抑え、熱損失を回復し熱効率を向上させる。騒音の低減を得られるのもメリット。マツダがSKYACTIV-Dにおいて一部採用しているのも知られている。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007980/big_980105_201902022300380000001.jpg)
![3段噴射によって双峰カーブを描くことで、ふたつのピークが相殺し合う格好となり、騒音エネルギーを減じることができるという。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007980/big_980106_201902022300320000001.jpg)
ベンチに設置したエンジンは下図に示すようなシステムを用いてコントロールさせる。具体的には画面内をバーチャルで走らせるクルマをハンドルコントローラで動かすという仕組みで、マップ制御/モデルベース制御をその都度スイッチしながらエンジン発生音の違いを感じ取ろうというもの。
コントローラの操作は意図的なのか、発進/加速/減速の様子がOn-Offペダルに見えた。マップ制御における熱発生率グラフを眺めると、アイドルのときは双峰カーブを保っているものの、ペダルを踏み加速状態になるとピークの非常に高い単峰と変化し、しばらくしてクルマの走行状態が安定するまで回復することはない。もちろんその間のエンジンノイズは、聞き慣れたディーゼルノックそのものだ。
![アイドリング@マップ制御。安定している状態なので双峰カーブを保っている。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007980/big_980108_201902022342250000001.jpg)
![加速時@マップ制御。ペダルを踏み加速状態になると著しく高い単峰カーブを描き、しばらく暴れる状態が続く。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007980/big_980109_201902022343200000001.jpg)
ではモデルベース制御に切り替えるとどうなるか。アイドルの双峰カーブは加速時のベタ踏み状態となっても、一部ピークは現れるものの双峰カーブは大きく崩れることなく、当然ながらエンジンノイズはずいぶん抑えられることとなった。言葉にしてみると、ザーガーゴーという周波数がコーという感じか。高周波が抑えられた印象である。おそらく、緩加速のパーシャルペダル操作だとしてもモデルベース制御はリアルタイムで最適化を図り、双峰カーブを描けると思われる。
![加速時@モデルベース制御。瞬間的に単峰カーブは現れるものの、制御によってすぐご覧のような双峰カーブになる。エンジンスピード/アクセル開度がマップ制御と同程度なところにも注目。](https://motor-fan.jp/images/articles/10007980/big_980111_201902022348370000001.jpg)
モデルベース制御のメリットは、システムが経験を重ねることでより高度な制御が可能になる期待があることだ。ここが、プリインストールでアップデートを加えないと成長が望めないマップ制御との大きな違いである。
日本発/世界初のモデルベース制御によってエンジンの高効率化が著しく進むのは間違いない。この分野において日本が世界をリードすることを大いに期待したい。
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