高張力鋼板を使うと何がいいのか(2)──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第11弾
MotorFan / 2019年2月2日 12時30分
前回はホンダとマツダの鋼板技術を紹介したが、今回はトヨタ。新型レクサスUXのBピラーに採用された“パッチワーク工法”を紹介しよう。 TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
Bピラーは側面衝突から乗員を守る重要な部材であるため、車体骨格の中でももっとも強度の高い鋼板が使用される部分だが、軽量化と両立させるため、内側から“リインフォース(Reinforce)”呼ばれる補強部材が当ててられるのが一般的だ。
Bピラーは強度の確保や溶接のしやすさから、ハット型断面とするのが一般的だが、ハット型断面同士をピッタリと重ねるのは困難で、ハットの天井部分には隙間が開いてしまい、この部分を溶接するのは難しくなる。
そこで溶接点は、ハットのフランジ部か、それに加えて縦壁で密着させられる(かつ、スポット溶接ガンが入る部分)に限られることになる。
一方で、曲げ剛性は厚さの3乗に比例するという特性があるが、これは1枚の板の厚さを増やした場合で、2枚の板を重ねただけでは2倍にしかならない。すなわちBピラーとリインフォースの関係も(非常に大雑把に言えば)、ハットの天井が溶接できれば3乗に比例して高められるのに、従来工法では2倍にしかなっておらず、重量効率が悪い。
また、Bピラーやリインフォースには、焼きを入れて強度を高めたホットスタンプ鋼板が使用されることが多いが、溶接する際、加熱された溶接点の焼きが戻ってしまい、強度が低下するという問題も生じる。これらをまとめて解決できるのが、パッチワーク工法だ。
![一般的なサイドシル〜Bピラー周りの構造。外板に対して、Bピラー補強材、Bピラーインナーという具合に積層している構造を取る。(FIGURE:URSAB project)](https://motor-fan.jp/images/articles/10007981/big_979722_201902021850510000001.jpg)
まず、Bピラー本体とリインフォースを、プレス整形前の平板状態で重ねてスポット溶接してしまう。この段階でのスポット溶接なら、どこでも自由に打てる。ハットの天井はもとより、稜線になる部分でもドンと来いだ。
あとはこれを、通常のホットスタンプ工程に従って整形する。板厚違いの部分を均一に加熱するのがノウハウとなるが、焼き入れ過程で溶接点も再加熱されるから、鋼板全体に均一に焼きが入り、溶接点周辺の強度低下も起こらない。
実はこの工法、スバルは09年の6代目レガシィで、すでにBピラーに採用している。インプレッサも先代からAピラーに使用しているのに、謙虚なスバルは表立って言わない。
![先代XVのボディ。Aピラー+レインフォースの成形に積極的な工法を取り入れている。(PHOTO:SUBARU)](https://motor-fan.jp/images/articles/10007981/big_979716_201902021122580000001.jpg)
ともあれスポット溶接であるため、どうしても溶接点間が遊んでしまい、重量効率という点では十分ではない。そこでスポット溶接する際に、Bピラーとリインフォースの間にロー箔を挟んでおき、ホットスタンプ工程の加熱を利用してロー付けしてしまえば、という方法が、新日鐵住金から提案されている。
この工法に対抗しうるのが、テーラーロールドブランク工法。素材鋼板を圧延する際に、圧延ローラーの隙間を適宜変更し、1枚の板の中で板厚分布を最適化する工法だ。パッチワーク技術と比較すると、1枚の板なので重量効率は最も高く、板厚が変位する部分も徐変するので、応力集中も起こしにくい。
実はこの工法、数年前から欧州車を筆頭に取り入れられており、国産車でも導入が始まっている。SGPを採用するスバルのインプレッサやXVのBピラーがそうだ(北米仕様)。
![テーラーロールドブランク工法の概念図。ひとつの部材内に異なる厚さを偏在させる方法。欧州で用いられることが多い。(FIGURE:VOLKSWAGEN)](https://motor-fan.jp/images/articles/10007981/big_979718_201902021127500000001.jpg)
もっとも差厚鋼材なら、自転車のバテッドチューブ(段付き鋼管)が大先輩。僕が自転車趣味を始めた70年代には、すでに存在していた。しかも92年には、ロール差厚とハイドロフォーミングを組み合わせた鋼管を、ブリヂストンサイクルが“NEO-COT”という商品名で実用化している。僕はこのフレームを見て「スチールフレームの最高到達点だ!」と直感し、すぐに手に入れ今でも大切に乗っている。
自転車のフレームはその後、アルミの時代を経て、現在はカーボン製が主流となっている。だからクルマの世界もいずれは……とは言えないのは、カーボンフレームはスポーツ車ばかり。世界初の市販カーボンフレームが誕生してから30年以上が経過した今も、フレーム単体で10万円は下らない。
一方で、通勤・通学ユーザーが買うような実用車は、相変わらず鉄製のフレームだ。だからクルマも同じように、ユーザーがどこまでの性能を求めるかで終着点が決まるはずで、今後も大衆車のボディ骨格は「鉄をどう上手く使っていくか」の知恵の出し合いとなりそうである。
![ブリヂストンサイクルのNEO-COT。「クロモリとしての最高性能を引き出す形状の理論」を意味し、実際にフォークコラム以外は断面が丸くないという。(PHOTO:BRIDGESTONE CYCLE)](https://motor-fan.jp/images/articles/10007981/big_979721_201902021148490000001.jpg)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
日本金属の冷間異形圧延製品を「Fine Profile(ファイン・プロファイル)」と命名、拡販を強化
PR TIMES / 2024年7月23日 10時45分
-
スバルの新型「“黒顔”SUV」初お披露目! タフ感高すぎる「AXIS GEAR」! 市販化検討の「クロストレック用パーツ」実車展示
くるまのニュース / 2024年7月8日 6時40分
-
10分間、別次元のハイボールを。自動車部品メーカーが生み出す、新しい概念のハイボールタンブラー。
PR TIMES / 2024年6月28日 11時15分
-
「アイサイト」の進化や衝突時の安全性向上…スバルの事故低減に向けた技術と最新の取り組み
レスポンス / 2024年6月27日 15時0分
-
発売から1年「インプレッサ」の販売が低調なワケ 兄弟車「クロストレック」もいいクルマだが…
東洋経済オンライン / 2024年6月26日 10時0分
ランキング
-
1まさにお値段以上! ニトリの便利グッズ「1台10役スライサーセット スピナータイプ」とは?
オールアバウト / 2024年7月24日 21時15分
-
2父親と“彼女の母親”がまさかの…両家顔合わせの食事会で二人が「固まった」ワケ
日刊SPA! / 2024年7月24日 15時54分
-
3トヨタの新型「ランドク“ルーミー”」初公開!? 全長3.7m級「ハイトワゴン」を“ランクル化”!? まさかの「顔面刷新モデル」2025年登場へ
くるまのニュース / 2024年7月23日 11時50分
-
4いい加減にして!何でももらってくる“自称・節約上手”の母のせいで衝撃の事件が…
女子SPA! / 2024年7月24日 8時47分
-
5「冷房をつけているのに暑い」ときの原因は? 確認すべきポイント【家電のプロが解説】
オールアバウト / 2024年7月24日 21時50分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)