ボブ・サップに似てるけど、そんなことよりバイクのオハナシ。「ホンダ DJ・1」【青春型録 第3回】
MotorFan / 2019年4月6日 6時0分
1980年代なかば、ファミリーバイクという呼称は「スクーター」に生まれ変わった。ホンダDJ・1はそんなムーブメントの立役者、生真面目な実用ビークルに“ポップセンス”を持ち込んだのだ。 (月刊モトチャンプ 2019年2月号より) 語り:津田洋介/ TDF、まとめ:宮崎正行
やたらカッコ良く見えた DJ・1という新作ウェア
津田 DJ、DJ!
──やっぱりそのフレーズで始まりますよね。インパクトがめちゃくちゃ強烈だったホンダDJ・1のテレビコマーシャル。
津田 この「DJ、DJ!」の黒人DJ(風)のかけ声からCMがスタートするんだ。モトチャンプ読者は知っているかな?「DJイン・マイ・ライフ〜♪」ってCMソング、いま歌っちゃうよ。なんだかカラオケに行きたくなってきたぞ。
──シブがき隊がカバーしていましたね。知らない人はユーチューブで。
津田 いま、めんどくさくて説明を投げたね......でもまあ、あの超絶軽ノリは80年代を知る者にとっては憧れと懐かしさの対象だけど、知らない世代にとっては「バカっぽすぎる」「スカスカじゃない」と感じるんだろうなあ。あの何にも考えてないカンジがいいんだよね。
──世の中の景気がいいって、たぶんああいうことなんでしょうね。ちょっとした躁状態。面倒なことと向き合わなくていい。
津田 今日はいつもより内向的だね。コタツの温度を上げて、とりあえず DJ・1のことを説明しようか。
──お願いしますエイティーズ代表。
津田 YOUもね。まず発売は1985年、2スト3気筒のトリコロールNS400Rと同じころ。前後8インチホイールでクルクルとしたハンドリング、取り回しの良さを追求したんだ。でも直進安定性も確保したいからホイールベースは比較的ロングな1165mm。空冷2スト単気筒、ピストンリードバルブで5.2psを発揮。 乾燥重量はたったの52kgだからまぁまぁ速かったよ。ホンダの50ccスクーターラインナップの中ではちょうど真ん中、ミドルクラスの位置づけだね。
──10万9000円って値段は?
津田 ペリカンジョグをはじめ、他のメーカーもだいたいそのくらいの値段だったからフツーだね。フツーじゃなかったのは「エアロフォルム」、つまり空力特性へのこだわりなんだ。 たかが原チャリと高を括ったりしないのがホンダのマジメなところで、 完成車のCd値まで計測しているという念の入れよう。
──ボディの各部にエアロなパーツ が装着されていますね。
津田 分かりやすいところだと、フロントサスのボトムリンクがボディ同色のカバーで覆われている。ちゃんと左右でね。ボディラインも直線よりも曲線を多用して、車体デザインに一体感みたいなものを与えている。ヘンに大きく見せようとしていないのも潔いし。
イルカの跳躍と黒人マッチョDJの関係とは?
──エアロデザインはDJ・1の主義 一貫したコンセプトなんですね。
津田 このあと追加される「DJ・1R」でそのエアロ傾向はさらに強まるんだけど、それは当時盛り上がりつつあったスクーターレースの影響もあった。Rではタイヤも前後インチに2インチアップさせて車高を確保し、コーナリングでの深いバンク角を狙っている。もともとのコンセプトの良さにスポーツライディング志向がうまく乗じたカタチだね。エアロ+サーキットレース、間違いのない組み合わせだよ。
──エアロ化は時代の流れでもあったんですね。でも一方で、なるべく“乗用車”に近づけようとする旧い価値観もまだバイクデザインに影響を与えていたんじゃないですか。
津田 そうそう。バンパーよろしく、 サイドパネルにメッキモールとかを這わせてしまうあの感覚かな。クルマならキズ防止と見栄え向上の二役 を担っていたけど、バイクはそこに倣わなくてもいいということをDJ・1はハッキリと宣言した。
──フラッシュサーフェイス!脱・ クルマコンプレックス!
津田 他方、バイクっぽいアピールとしては足もとにひっそりと燃料コックが設けられているの、知ってる? メーターパネルにちゃんと燃料残量計を装備しているのにもかかわらず、 なぜかコックがある。しかもかなり使いやすい位置に。
──なんで残したんですかね、スクーターに燃料コック?
津田 さっぱりわからん。負圧コックつけられなかっただけかも。
──股間のわりと真下にありますよね、コック。
津田 あるね。
── 年代、若い女性ライダーはDJ・1に跨りながらコックを開け閉めしていたんですかね?
津田 さあ。
──股間にあるコックって、意味的にジャストですよね。隠語にもほどがある。もしかして、天才・本田宗一郎の一流の下ネタ?......コック、プリーズって。
津田 ちがうと思う。
──純正オプションカタログに載っている「フロアマット」って当時、けっこうニーズがあったんですか?
津田 他のスクーターでもオプションでよく売られていた。DJ・1用は1800円のラバーと、2800円のカーペット調の2種が用意されている。とくにカーペット調はクルマコンプレックス丸出しだね。もしかして、「土禁」用だったりして(笑)。
──と、ここまでDJ、つまりディスクジョッキー推しで来ているカタログビジュアルに大きな“ほころび”を発見してしまいました!
津田 え? なに?
──DJ・1の車名の由来であるDJはなんと、Dolphin Jump line(ドルフィン・ジャンプライン)の略称であるとカタログに明記してあります! つまりイルカが飛び跳ねるときの軌跡を車体デザインに落とし込んでいる、ということみたいですね。
津田 ってことは?
──黒人DJとDJ・1は、なんにも関係ないってことです!
津田 すげー、エイティーズ。
メッキ=高級、という旧世代の価値観から完全に脱したDJ・1のビビッドなツートンカラー。インパネまわりからステップ、シートにかけてのインサイドが真っ黄色の「ブラック×イエロー」のインパクトはとくに強烈で、実際にもよく売れたDJ・1らしいカラーリングだった。
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